第861話「仕返し!?スカリーの企み」
当然ギルドには衛兵が居る……ボーンの言葉は、鬼蜘蛛にゴッパにとって非常に不味い証言でしか無い。
現に衛兵はその話を聞いた途端、手に持つハルバードを構えて鬼蜘蛛一家を捕らえようとしている。
しかし状況は更におかしな方向へ向かう……
突然『ガランガラン』と音を立てて、何かがブーンの足元に転がっていく……
「うぉ?………な……何をしやが…………あ?………た……短剣!?………お……親父の短剣!!なんでこれが?」
「!!…………お兄様早くそれを!!」
その状況に絶句するマガワーマ伯爵……
「な?……何をしておる!!見張りの騎士は……その短剣………」
そう言いかけた瞬間、マガワーマ伯爵は背中に悪寒を感じた……『此処は不味い!!』彼の第六感がそう叫んだ。
ギルドフロアの中央に現れたのは、僕らのよく知る人物……『スカリー様』だ……しかしヤバイ事に空中に浮いた状態である。
半透明の身体のせいで反対側が透けて朧げにみえている……そのせいで完全にかなり危険なゴースト感を出していた。
どうやらスカリーを殺した凶器の短剣を放り投げたのは、殺された本人のスカリーのようだ。
スカリーは念力を使って、ブーンとボーンの元まで飛ばしたのだろう……
スカリーを見たブーンは恐れ慄きながら短剣を構え、そしてボーンは腰ベルトにぶら下げてある鞘から短剣を引き抜く……
「ス………スカリー!?とうとう化けて出たか……鬼蜘蛛のゴッパ!一度も二度も同じだ!さっさと始末しろ!」
「ひぃぎぃぃぃぃ……化けて出た!!お兄様……スカリーが化けて出た!お兄様がダンジョンで殺したせいだ!!ゴーストにぃぃ!!」
「黙らんか!この大馬鹿兄弟が……此処はギルドだぞ!それも衛兵もいる!!」
当然鬼蜘蛛のゴッパも大慌てで武器を構えて、ボーン達へは黙る様に怒鳴る。
ハリスコの呼びかけで集まった冒険者も、スカリーを見るなり武器を構える……それだけスカリーの威圧は凄かった。
僕とマガワーマは話をやめざるを得なかった……
何故なら、今の彼女の威圧は敵が発するものと全く遜色がないからだ。
僕は、スカリーに何か魂胆があり、こんな行動を取った?……と思った。
だが、スカリーは残念な事に本当に危険な行動に出た……何故かハリスコが集めた冒険者への無差別攻撃に出たからだ。
「な……?なんだ?ゴーストが何故此処………ぐわぁぁ」
「な……!うぉ?………え?……スカリー!?……正気を取り戻せ!!……スカリーやめてくれ……ぐわぁ!!」
「ス……スカリー?………何故!?……ぐはぁ!」
ギルドホールに、冒険者の苦しそうな声が響き渡る……
スカリーは姿を消すと冒険者の目前に突然現れて、念力を使い冒険者を片っ端からギルドの壁にぶち当てて行く……
突然の攻撃など躱せる筈も無く、何も出来ずに冒険者たちは壁に打ちつけられて意識を飛ばす……
「ス……スカリー!!辞めるんだ!お前の為に集まった仲間だぞ!!どうしたんだ!何故突然……ま……まさかお前……意識が!?」
テカロンはスカリーの目の前に飛び出てそう叫ぶと、彼女の顔を見て『ぽかーん』と口を開けている……すると突然……
「クィースにフィーテル!!お前達が先導して職員を全員避難させろ。今すぐだ!………」
テカロンの言葉に、クィースもフィーテルも状況をすぐに緊急事態だと理解した。
「ギルマスの指示通り、職員は全員避難!」
「一般の方は職員と共にギルドの外へ避難してください!緊急事態です!!」
クィースとフィーテルは口々にそう言う。
それを聞いた職員は、我先にと大慌てで逃げ出していく……
クィースとフィーテルは状況が未だに飲み込めて居ない職員へ、近くの扉か窓から外に出る様に大声で言う。
そして急いで自分達も近場のドアから避難をした。
その結果、現状この場に居るのは僕とモルダーにマガワーマ伯爵、イコセーゼとダイバーズのパーティーメンバーそしてタカリー家の大馬鹿兄弟と鬼蜘蛛一家だ。
まるでそれを確認したかの如く、スカリーは新たな行動に出た……
『デゾルドル・バダヴァロート!!』
スカリーが念話でそう叫ぶと、気味の悪い薄緑と深緑の霧が湧き出しぐるぐると渦を巻き始める……
その中心にはスカリーがいて、斜め前にはモルダーが陣取っている。
どんどん広がる霧は、あっという間にギルドホールを飲み込んでしまう。
『死系統魔法耐性……成功!……<デゾルドル・バダヴァロート>による範囲混乱効果<混乱60s>を無効化します……』
僕は魔法耐性があったお陰で事なきを得たが、周囲は当然混乱中だ……
あの呪文の意味は、魔法効果を見た感じ『混乱の大渦』と言ったところだろう……その協力無比な効果は確実に被害を広げている……
アサヒだけは咄嗟に祝福を自分へかけた様で、効果により耐性判定が上がりなんとか正気を保っている。
そしてアサヒは、仲間の混乱を治す為に、『痛いですよー我慢してくださいね!うりゃー!!ボッコボコにしてやるわー!』と言いながら、周囲をかなり強めにどつき回している。
モルダーの手には例のタリスマンがあるが、あのマジックアイテムでは精神汚染効果は防げない筈だ……
しかし平然としているので、何か裏があるに違いない……
何故ならスカリーを攻撃する体勢ではなく、守る形で陣取りしているのだ。
モルダーのその手には、スカリーに渡した武器のペアになる武器の『武器砕き』を持っている。
モルダーの武器は二刀流武器で、スカリーに渡した方が攻撃メインでモルダーが持っている方が防御メインの特殊装備と教えてもらった……
彼はその防御メイン装備で、スカリーを守る気なのだろう。
ひとまず僕はモルダーを鑑定する。
混乱はなくても魅了か何かかと思ったからだ……
しかしモルダーは状態異常の混乱や魅了にはなっていなかった……それどころかステータスは『正常』なのだ。
全くもっていみがわからぼくは、目の前で喧嘩をしている親子を取り敢えず何とかしようと思い、強めにど突く準備をする。
クロークの中を調べたが、モーニングスターもフレイルもメイスもバトルメイスも無かった。
よく考えると、初心者装備はハリスコたちにあげてしまったのだった……
あまり強度がある武器だと、この親子を殺しかねない……
そこで僕は、混乱したマガワーマとイコセーゼを、アサヒに習ってかなり強めに拳でド突く……
「おう!?い……痛いでは無いか!お?おお!?……何故私はイコセーゼを殴っていたんだ……?まさか状態異常の混乱か?」
「そうです……伯爵様大丈夫ですか?えっと次はイコセーゼ様ですね……申し訳ないです!ちょっと痛いですよ!!」
そう言ってマガワーマより1.5倍程威力を増してグーで殴る……
「ぶべら!?……い……いてぇ!……貴様ぁぁぁぁ!貴族に手をあげるとは何事か!!不敬罪で斬首にしてやる!」
僕は生理的に苦手なイコセーゼを強くなりすぎて、彼は受付カウンターを飛び越えて転がっていってしまった……
しかしそれを知らない伯爵は僕を庇ってくれる……
「この大馬鹿者が!ヒロは混乱状態の我らを救ってくれたんだろうが!そんな事も分からんのか!!」
僕は非常に気まずいので、二人に『今はそれどころでは無い』と説明をして、スカリーを指さす。
そこに居たのは、モルダーとブーンだ。
モルダーは自前の武器でブーンの持つ短剣を受けている状態だった……しかし受け方に若干違和感があったので、それが『ソードブレーカー』であり、聞き手の反対で持っていることに気がつくには少し時間を要した。
僕が理解したその直後、モルダーは『ニタリ』と笑うと、持っている武器を捻る。
『バギン………』
モルダーの捻りでへし折れる短剣………
「おお!?……モルダーは武器壊しが目的であそこに………よく考えたもんじゃ……」
そう言ってきたのは、混乱の状態異常が解けたガルムだった……両頬には紅葉平手の跡があるが、どう見ても男性の大きさでは無い……
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