第862話「スカリーの報復と折れた契りの短剣」


 マガワーマはオデコを摩りながら……ガルムの言葉に答える。


「ガルムよ、儂はしっかりこの目で見ておるぞ?ブーンとーボーンが『何故か』冒険者を襲っておるのぉ……ふむふむ……『守るべき市民への裏切り行為じゃ!そして貴族にあるまじき由々しき事態』じゃ!……」



「お父様、そ……それは……あのゴーストの特殊攻撃の所為では!?」



「イコセーゼ………お前にはゴーストが見えるのか?『儂には見えん』がな?何処におる?そんなもの……」



「え!?……お父様……あそこに!!……だって先程お父様も混乱が何とかと言っていたではありませんか?」



「あれは……ゴーストでは無いだろう……『魔物がギルドに居てたまるか』まったく……何を言っておる……イコセーゼ。儂には王家から賜った契りの短剣で『冒険者を襲うブーンとボーン』としか見えないぞ?」



「!?………成程!!……確かに私もそう思えます……いえ……そう見えます!!」



 漸く父親の言いたい事を理解したのか、イコセーゼがそう言った瞬間『バギン………』と言う音と共に、弟のボーンが持つ契りの短剣もへし折られた。



 へし折れる様を確認したスカリーは、呪文の詠唱を中断させすぐに姿を消した……



「ふぅ……成程のぉ……此処からが儂達の役割と言うわけか……。さて、馬鹿共を正気に戻そうかのぉ……」



 そう言ったガルムは仲間達と共に、片っ端から殴っては正気に戻すを繰り返す……



「すんません……。せめてヒロの旦那には説明するべきだったんですけど、機会を失う可能性があるからスカリーには黙らせてたんです。伯爵様の話を聞いたスカリーが短剣の話を詳しく俺にしてくれまして……この計画を思いつきやした……」



 モルダーに説明では、壁に打ちつけられて気絶した冒険者は、どうやら仲間を攻撃しない様にスカリーがわざわざ壁に打ちつけた様だ。



 モルダー曰く仲間にだけ念話で話せば、周りはモルダーとスカリーの邪魔をしない様に、ギルドホールから立ち退くだろうと言う話になったそうだ。


 そして、状況を怪しんだボーンとブーンに逃げられる可能性があるので、急遽気絶で対応したそうだ。


 ちなみに一撃で沈める為に、一般冒険者に耐性がない『念動力』を使った様だ……彼等駆け出し冒険者には効果は抜群で、運が良ければ耐性スキルが、運が無くても耐性値が手に入る。


 スカリーは、僕に負けず劣らずスパルタだった様だ。



 現にガルム達は、状態異常の『混乱耐性』の数値が上がっていた。


 各個人が鑑定スクロールで調べては、念動力の耐性を得て大喜びをしている……



 もっと強くぶっ飛ばされた方が良かった……などと言う冒険者が続出して、ギルドホールは今やドMの集まりの様な状態になっている。



 しかし一部の人間は、積み重なる悪事のしっぺ返しが来てしまい、大変な状況だ。



 勝手に持ち出した武器は、父は勿論母からキツく『決して外部に持ち出してはいけない物』と教えられてきた事を、兄弟は思い出したのだ。



 彼等兄弟は『値打ちもの』と言う判断から勝手に持ち出したが、金ではどうにもならない物があると理解するには遅すぎた。


 何故なら既に両方とも、真ん中からボッキリ折れているからだ。



 その上、殺人の証拠である凶器の片方どころか、両方押収された……



 貴族だった兄弟は、今や市民や冒険者を襲う犯罪者になったのだ……凶器の押収は当然だろう。



 それも目撃者が『貴族』で伯爵位なのだから、相手が伯爵の息子であっても本人が爵位も持っていない時点で、待った無しの逮捕決定だ。


 マガワーマには政敵の息子を庇う理由など何一つない。



 だが僕とすれば、予定外の幕引きになりそうだ。


 階層主の宝箱を持ってくるなどと言わなければ良かった……そう後悔するしか無い。



 しかし僕の物思いに耽る時間は、マガワーマ伯爵とギルマスの一言で中断する事になった。



「これで犯罪の証言がとれたも同然だな?衛兵!直ちに鬼蜘蛛一家のゴロツキと、タカリー家の御子息を捕縛せよ!」



「クィース、衛兵長へ連絡して、直ちに犯罪者を牢獄へ連行をさせろ!ゴッパ、潔く観念するんだな!……今までの犯罪も、全て明らかにさせるからな!!」



 クィースは『チィ』と舌打ちをしながら衛兵詰所へ走っていった……どうやら就業時間は過ぎているようだ……



 ◆◇



「それにしても……困った事になったのぉ……」



 ガルムはそう僕に話しかけた……


 彼が困った事……それは貴族の馬鹿兄弟でも、ゴーストになってしまったスカリーの事でも無い……


 4階層の階層主への討伐参加の件だ。



 少し話を戻すと、鬼蜘蛛一家とタカリー家の馬鹿兄弟を連行する為に、街の衛兵詰所から衛兵達が来る事になった。



 そのたった僅かな時間で、ちょっとした事件があったのだ。


 問題の始まりはマガワーマ伯爵の一言からだった……


 マガワーマ伯爵は自前の騎士団をお供で付ける話をしたが、ギルマスは未踏域に騎士団と僕を向かわせる訳にはいかないと言った。


 それも当然だろう……駆け出し冒険者を階層主のいる部屋に向かわせるなど、絶対にあり得ない。


 その上、騎士団は対人間には強いが、魔物との戦闘には不向きだ。



 それを渋った事で、イコセーゼが『未踏破区域の隠し部屋から財宝を持ち帰らないと、俺の爵位が貰えない!!』と大声で言った所為で大問題になったのだ。



 財宝を求めてダンジョンに潜る冒険者が、未踏破区域に興味がない筈がない。


 その結果、第一メインパーティーはお目付役のダイバーズ。


 そして何故か駆け出し冒険者のアユニにアサヒそしてマナカ、ギルマスのテカロンにモルダーに僕を含めて六人パーティーが臨時で編成された。


 テカロン曰く、第二パーティーはモルダーとテカロンが前衛でマナカと僕は中衛、アサヒとアユニが後衛だ。


 そして第三パーティーは、貴族のお抱え騎士団が一緒に来る……



 合計3パーティーだが問題はそこではない……イコセーゼが大声で言った以上、間違いなくその場所は知れ渡る。



 何故なら一緒に侵入せずとも、後ろをついて回る筈だ。


 そして僕達が目を離した隙に、侵入経路を発見してしまうだろう……


 僕達はその決定に若干不服があるのだった。


 ギルドが関わる以上、冒険の最中にアレコレ言われるのがオチだからだ。



「まぁ……こうなった以上は仕方がないのぉ……。何時かはバレるものじゃが、階層主の魔物情報が行き渡る前に侵入して『敗走』だけは困るんじゃ……。このダンジョンが深化するきっかけになるからな……」



「確かにそうですね……だから黙って行こうと思ってたんですが……。そもそもあの部屋に行く目的は、ディーナさんのご亭主を探す為ですからね……」



「そうなんじゃよなぁ……だから儂等もお前の意見に賛同したんじゃが……。まさか儂等の他にアユニ達もとは……何を考えてるんじゃ?あのギルマスは……」



「そう言えば……レベルチェックしたんですかね?三人のすると言ってましたけど……」



 僕がガルムにそう言うと、レイラがひょっこりと顔を出した……



「アイツ等が参戦理由とレベルかい?アタイはもう知ってるよ?……あの娘達に足りないのは、もはや実践だけだって事になったんだよ!」



 ガルムはその言葉を聞いて『何時に間にお前は知ったんじゃ?個人のレベルを調べるのは感心せんぞ?』という……


 するとレイラは『自分から教えてきたんだ!どの階層まで潜れるか知りたいってね!』と言う……



「そんなにレベルが上がったって事ですよね?4階層の階層主の部屋に同行させる位だから……」



「そうだね……。私達のパーティーで入れ替えて入ったとしても、8階層の階層主は充分倒せるよ!」



「何じゃと!?8階層と言えば中層域だぞ?そこを戦えると言うことは、レベルは……もが……モゴモゴ……モガモガ……」



 うっかりガルムは自分で注意しておきながら、大声で言いそうになる……



 レイラに口を塞がれ、『ガルム!アンタはまるでイコセーゼみたいな奴だな!駄目だって言ってたのはアンタだよ!!』と怒られていた。



 そんなガルムのやらかしも若干あったが、翌日のダンジョン遠征もあるので僕達は解散して明日に備える事になった……

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