第858話「鬼蜘蛛一家の偽証言」


「それで……お主どうやって罪に問うんじゃ?証人が意味をなさなくなるんじゃろう?」



「彼等が『貴族じゃ無くなった場合』取り調べも楽でしょう?ガルムさん……」



 僕はガルムに『捕まえている犯人は囮で、鬼蜘蛛一家の内部情報の収集だけの為』だと教える。


 そして先程簡潔に話した『貴族没落計画』を細かく伝える……するとレックは……



「最悪だ……コイツ……家族諸共爵位剥奪をさせる気かよ………。聞いたかモルダーにスカリー?スライムの言う通り『痛い目』には遭う。それも親の爵位剥奪だぞ?血も涙も無いってにはこういう事だな……とばっちりがヒデェ」



「だが……俺にしてみれば、ざまぁみ晒せだ!……そうだろう?レックさん……」



「よくもまぁ考えたもんじゃ……確かに貴族相手には拷問は出来ん。じゃが爵位さえ無ければ犯人の自供から、芋蔓式に一気に行くぞ?鬼蜘蛛一家諸共、厄介者を全部叩き潰せるのぉ……」



 足が踏み入れにくい『貴族の壁』さえ壊せれば、彼等などものの数には入らない……


 その事を伝え終わる頃には、鬼蜘蛛一家のゴロツキ達が痺れを切らして、ギルマスとフィーテルに対して喧嘩を売っていた。



 ◆◇



「俺たちの仲間を殺りやがった奴を連れて来いよ!!お前たちギルド職員が庇ってるのは、既に把握済みなんだ。それに俺達の仲間に偽証をかけて連れて行ったこともな!!」



「そうだ!真っ当な冒険者だと?聞いて呆れるぜ!言いがかりつけやがって!」



 子分達が怒鳴っていると、鬼蜘蛛一家の親分であるゴッパがテカロンに歩み寄り、手の平を見せる……



「おいテカロン……此処は素直に短剣を渡した方がいいんじゃないか?そもそも貴族様がわざわざ足を運んできてるんだ。今日だって『落とした短剣』を探してダンジョンに潜られたんだぞ?俺の子分も御二方を手伝ってて被害に遭ったんだ。殺しが問題なら……今日起きた殺人から解決してくれや……あ?どうなんだ?ギルドマスターさんよ?」



「ゴッパ……お前の死んだ子分は、貴重な命を失い非常に残念だ。だが今此処にいるお前の子分は『ダイバーズ』に剣を向けてたそうだ。そもそも彼等は、襲い掛かって来たお前の子分を排除しただけなんだよ。それも魔物に囲まれているところを助けたのに、何故か襲われたそうだぞ?」



 テカロンはガルム達から聞いた事を、鬼蜘蛛一家の親分であるゴッパに伝える。


 するとそう来ると予想して居たのか、次の手を講じて来た……



「その話は俺も聞いてるさ……俺の子分はホブゴブリンの挟撃に遭ったらしくてな!だから前のホブゴブリンを始末して、すぐに後ろを倒そうとしたら、そこに居たのはダイバーズのパーティーだったそうだ。そしたら『剣を向けた』と言う理由だけで斬り殺されたと言ってたぞ?」



 そう言ったゴッパは、ガルム達を見る……


 どうやらガルム達が居る事は既に把握済みで、剣を向けた言い訳も用意済みの様だ。



 現場に居たのは僕達四人とガルム率いるダイバーズ、相手は悪辣冒険者で第三者の確認が無いと来た。


 そうなれば後は簡単だ……真実は捻じ曲がり、悪いのはコッチ側というおまけ付きだ。



 レックが文句を言おうとしたが、レイラが肩を掴んでやめさせる……



「何で止めんだよ……レイラ……襲われたのは俺等だぜ?」



「簡単な事だろう?レック。奴さんはアンタの言葉を使ってアタイ達から凶器の確認をするつもりだよ。それを口実に貴族権限で無理矢理に持って行こうと言う算段さ……。馬鹿でも見抜ける手だよ?答えないのが一番さ」



「ああ……だから寄生虫のゴッパは、あの馬鹿兄弟を連れて来たのか……。でもよぉ……先に脅しかけたのはアイツ等だし、自白だって勝手にペラペラ喋り出したんじゃねぇか……。お前達は言われるままで悔しくねぇのか?」



「悔しい!?……何が悔しいのさ?レック……。たまにアンタ馬鹿になるよね?……いいかい?よく聞きな!これからアイツ等に痛い目見せるんだ。今はそれの準備中だろう?むしろ変に答えて、タカリー家転落劇場が見れない方が悔しいだろう?」



「じゃあ、あの鬼蜘蛛の寄生虫はどうなるんだよ?……俺はそっちも一緒に駆除してほしいけどな?虫下し位なら準備するぜ?俺はよう……」



 レックが言った鬼蜘蛛のゴッパについてだが、僕の第一印象は『酷い通り名』だった……


 しかし計画をした張本人である僕も、一応は答えておいた方がよさそうだ……



「レックさん心配しなくても大丈夫ですよ?そもそもは、スカリーさんに凶行に及んだ貴族への報復を優先にしてたんで……。それに鬼蜘蛛一家が関わって居た事は、あの暴漢者が襲って来たから知った事じゃないですか?だから両方見逃すつもりはないですよ?」



 僕がそうレックに言うと、テカロンの返事を待っていた鬼蜘蛛のゴッパが痺れを切らして喚き散らし始めた……



「どうなんだテカロン!!儂はもとより子分も気が短い方だぞ?それにタカリー家のご子息様がこれ以上黙っているはずもない。そうですよねぇ?ブーン様にボーン様」



「ああ!その通りだ。いいか?これが最後通告だ……今渡せば今日の無礼は忘れてやる。だが渡さないなら父の騎士団で回収するのみだ!当然ギルドマスターお前には貴族不敬罪を適用するからな!そのつもりでいろよ!!」



 フィーテルがあれだけ冷たい視線で説明したのに、あの出来損ないの頭には何も入ってないようだ。


 貴族不敬罪を問うなら、まずはギルド連盟に話せと言われたばかりなのに……



 そう思っていると、予想外の人物が現れた……



「そこの者ども邪魔である!!このコセ家イコセーゼの通行の邪魔をするとは何事か!!」



 そう言って現れたのは、僕を睨んで帰ったイコセーゼだった。



 ◆◇



「むむ!?お……お前達は……ブーンとボーンではないか!!ギルドで一体何をしている!?……まさかお前達もアレを狙って?」



「な!?イコセーゼ!?……何しに来た!此処はギルドで入り口は向こうだぞ?……とうとう道まで忘れてしまったのかこの馬鹿め!」


「く……コセ家のイコセーゼ?……お兄様を呼び捨てにするとは何事か!……近いうち男爵になられるお方だぞ!」



 イコセーゼは声がうわずり、若干焦り気味だ。


 彼は二人を見て余計な事を口走ったが、相手が輪をかけて馬鹿なので、なんとか追求されずに済みそうだ。



 イコセーゼの場合、口止めされた事でも相手によっては見栄が優ってベラベラと話しそうなのだ……


 今は見えではなく、焦りからウッカリと言ったようだが、使えるならば彼に沈黙の魔法でも唱えたい気分だ。



 しかし……早速相手に塩を贈るような真似をするなんて……天然は時に親を苦しめる……そう思ってしまう。



 だがその雰囲気を壊す者がいた……鬼蜘蛛一家のゴッパだ!


 コセ家とは関わりが無いと見えるゴッパは、イコセーゼの前なのに大声を上げる。



「テカロンに言っても拉致があかん……おいそこの小僧!お前……会議室から出て来たよな?って事はギルド職員見習いだな?……お前はさっさとタカリー家の短剣と、儂の子分をこっちに連れて来い!グズグズするな。早くしなければブーン様が今すぐ貴様を不敬罪に処すぞ?」



 ゴッパは僕を指さして唐突に命令をした……


 装備が職員と似通っているので、どうやら僕をギルドの見習い職員と思っているようだ。



「あ!お前は……ダンジョン前であった奴だな!此処の職員だったのか……おい!お前。お兄様の為にさっさと持ってこい!じゃ無いと今すぐ打ち首だ!!早くしろバカが!……どいつもコイツも能無し職員しかいねぇな此処は……」



 弟のボーンは、もはや言っている事が滅茶苦茶だ……自分の間違いにも未だに気がつかないのだ。



 それを聞いたフィーテルは、事務所の奥から持ってきた分厚いギルド規約で、大馬鹿ボーンをぶん殴ろうとしている。



 だが、テカロンがそれを必死に止めている有様だ。


 それも当然で、幾らギルド職員とて手を出せば『貴族不敬罪』は免れない……

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