第857話「貴族の馬鹿息子」
僕はスカリーが見えなくなった事を確認をした後、モルダーに小さな麻袋を渡す。
「この中にスカリーさんの喉仏の骨とタリスマンを入れて持ち歩いて下さい。できれば二度と別々に出来ない手段を、何か探した方がいいです。モルダーさん……貴方達の為にもなるし、周りの為にもなるので……あとは残った遺骨の方を埋葬してあげれば完了ですね」
「ヒロの旦那、有難うございやす!すぐに情報網使って方法を探ってみます」
僕はハリスコにスカリーを合わせてやるべきだとモルダーに言ってから、共に会議室から出た。
◆◇
「だから何度も言っているだろうが!!お兄様の短剣を返せと!!」
会議室を出た途端、怒号が聞こえた。
その聞こえた内容を脳内で再確認する……
僕はつい『本物の馬鹿だ……』と考えてしまうが、ガルムも呆れたてた顔で突っ立っていて、開いた口が閉まらない様だ。
「アイツら見せかけだけの馬鹿だと思ったけど……本物の馬鹿だったんだな?この状況で返せとか……周りが見えてないのか?」
「レックさん。貴族の碌でなしは大概こんなものでしょう?それも彼等は爵位を持ってない上、親の脛齧りしかしていないんです。今がタカリー家にとってどんな危機的状況か……それがあの二人には分かっていない筈です……」
殺気立っている冒険者の中で罵声を浴びせている二人は、いつ冒険者に斬りかかられてもおかしくない状況だ。
それを抑えているのは、当然ギルドマスターのテカロンだ。
「何度も言いますが、凶器となった品は現在、お渡しはおろかお見せすることもできません。貴方達が関わって居ないのであれば、今暫くお待ちください。犯人が特定され次第、その凶器となった短剣をお見せする事は可能です。尚、其れ等はダンジョンで見つかった物ですので、所有権は発見者にございます。ですので、そもそもお渡し致し兼ねます。ご了承くださいませ」
貴族相手でもピシャリと言い切る姿勢に、僕は惚れ惚れする。
それを軽く言ってのけたのは、我等が受付嬢『フィーテル』様だ……
氷の様な冷たい目でブーンとボーンを睨みつけ、机を『バシン!!』と叩いて周囲を黙らせた後に冷たく言い放つ……
「お前貴族に逆らって……生意気な!!ただで済むと思うのか?こんなギルド……父上に言いつければ、すぐにお前なんぞ辞めさせることができるんだぞ!」
「この件に関係ないご子息さまは、ご静粛にお願いいたします!尚、貴族であるかどうかは一切関係ございません。我々冒険者ギルド連盟の職員は、国家や貴族様方における圧力には屈しません。そもそもの話ですが……冒険者を管理する私がいなくなり困るのは、貴方達貴族様なのでは?私の独断と偏見で、冒険者達の領内派遣を打ち切っても良いのですよ?ボーン様?」
「何だと!?お兄様だけじゃ無くこの僕にも……絶対に許さないぞ。お前!!お前なんか今すぐクビだ。今すぐ辞めろ!貴族不敬罪で縛り首……いや……奴隷落ちだ!!後悔しながら鉱山で石に潰されて死んじまえ!」
フィーテルは真っ当な事を言っている。
だが、終始口調に皮肉が混ざりがちなので、相手を馬鹿にしていると感じ取れてしまう。
しかし彼女は、そんな事はしてはいないのだ‥‥
単純に『この仕事全てが面倒だ』としか思っていない……
それを知っているギルドマスターは、仕方なく話を変わる。
「ボーン様?貴方にギルド職員を辞めさせる権限はありませんよ?貴族だからと辞めさせる権限は誰も持てません。皇帝陛下であっても無理です。ギルド連盟と契約での取り決めとなってますので。ですので、どうしても……となれば、お父様に報告してギルド連盟に抗議を申してください。我々帝国にある全ギルドは、直ちに帝国から手を引きますので……それからはどうぞご自由に、魔物退治をお楽しみ下さい」
ギルマスがそう言い終わると、スカリーの一件がある冒険者は流石に我慢が出来なくなり一斉に剣を抜く。
「俺達はギルドで金稼いで食ってんだ!ギルドを蔑ろにして、俺達の仕事を取り上げるなら……お前達なんぞ生かしちゃおかねぇ!テメエ等二人をダンジョンにバラバラに放り込んでから、お前達の遺品を屋敷の庭に放り込んでやる!」
馬鹿息子達は相当ヒートアップしているようだ。
だが、全ての事情を知っているテカロンとしたら、彼等二人のど頭に戦鎚を振り下ろしたいだろう。
しかし意外だったのは、モルダーが勢い余って馬鹿貴族を殺しに行かない事だった……
「意外です……モルダーさんが飛び出さないのが……」
ついその事をモルダーに話してしまった……
するとモルダーは何も無い空中を見上げて話し出す。
「俺だって剣を頭にぶっ刺しに行きたいですけど……。でもスカリーが『辞めろ』と言うんですよ……。それにヒロの旦那……ハリスコの叔父貴から聞きましたが、相当やり手だって聞きやした。だから……もしも何かを考えてると思ったら……子分のあっしがその邪魔なんかできねぇ。それがスカリーの為だったら尚更です!」
「は……はははは…お前本当にモルダーか?儂は驚いて、つい笑っちまったぞ?……短気で真っ直ぐなお前が……『我慢』じゃと?こりゃビックリじゃ!」
「う……酷いじゃありやせんか!ガルムの旦那。俺だって我慢くらい出来ますよ!叔父貴には毎回それで怒られてるんですから……」
離れた場所で笑っていると、鬼蜘蛛一家に動きがあった……
「犯罪犯罪言いますが……俺の所の若いのが未だにダンジョンから帰ってねぇんですよ。子分の話では『殺された』って言うんですよね?それをしっかり目ん玉ひん剥いて見たってんですよ。過去の調査も良いですが……今日起きた殺人は何故調べねぇんですか?その凶器がもしかしたら、スカリー家ご子息が『落とした物』かも知れませんよね?」
僕は鬼蜘蛛一家の親分の狡賢さに『ほぉ……そう来るか……』と、ついつい口に出して言ってしまう。
かなり小さい声だったが、全員が僕を見て居た所為でその言葉を聞き取られたようだ。
「アイツ等……短剣を落とした事にして、罪を逃れる気じゃねぇですか?ヒロの旦那……スカリーの事を裁けねぇのは……俺は許せねぇですよ!」
するとスカリーが念話で……
『大丈夫よ……どうせああ言う馬鹿は苦しんで死ぬ事になるわ……スライムが教えてくれたもの……<相手は相当酷い目に遭うから気にするな>ってスライムからの伝言よ?モルダー……』
「本当か?スカリー……ヒロの旦那、何ですかい?そのスライムってのは……まさか『あのスライム』って事はないでしょう?」
僕はスカリーの言葉で隠せなくなったので、リュックからスライムを出す……
「アルジー外ニ出テ平気ナノ?」
「「「「スライムが……し……喋った!?………」」」」
「若干声には問題がありますけど……聞き取れますよね?僕のスライムは声帯模写をして話せるんですよ……スライムは経験積むと色々出来るようになるようです」
「いやいや……色々の振り幅が変だって!ヒロ……あのな?魔法とか攻撃だったら分かるぜ?俺だったらそっちを選ぶけど……何で話す方に重きを置くんだよ?……もう俺はお前が解らねぇよ……」
「レック!無駄じゃ……儂等がコイツを解ろうとするのが間違ってるんじゃ……。10階層の壁にある、謎の魔法陣の絵から飛び出てきた坊主じゃぞ?そこからして説明が曖昧なんじゃ。此奴が使役してるスライムが話せても、それくらいはもう不思議もあるまいて……」
「レックにガルム……アタシは別のことが気になるんだけど……魔法剣士じゃなかったのかい?ヒロってさ……。これじゃテイマーじゃんか!?スライムの使役ってさ?」
「「「「あ!」」」」
皆はレイラの冷静な観察眼を誉める……
しかし僕は、脱線してしまった鬼蜘蛛一家の方に話を戻す……
「まぁ彼等兄弟が『短剣を落としてしまった』と言うなら、実行犯は切り捨てられたって事ですよね?ならば彼等の自供で、更なる仲間を特定するしかないですよ……。ダンジョンで見た彼の仲間が鬼蜘蛛一家の中に戻っているなら発見は容易でしょう。まぁ更に彼等を切り捨てるはずですがね。抹殺されている可能性もありますけど……」
僕はそう説明をした……
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