第852話「企みと報告」


 伯爵は質問内容を変えて話してきた……そに理由は明白だ。


 僕の目線を追った場所に、息子のイコセーゼに向いているのが気づいたからだ………



「公爵家の伝手をお前に作った時に、私はそれに同席出来るのか?……返事はそれにもよるな……。理由位お前ならわかるだろう?自分の手で敵を作るのは宜しくないからな?」



「同席はかまいません……そもそもですが爵位に興味はありません。あと……やるべき事は既に先程に報告済みです。それを自分の手でやるだけですから……」


「成程……それから?」


「言うべき事があるとすれば……僕が得る宝箱は2箱、コセ家用の箱と伝手を得た時用の箱です……中身は私が確認してから渡します。理由は『遺品』がある可能性があるので……」



「…………遺品か………あい分かった……。だが契約を結ぶ以上、確実に箱を持ってくる自信はあるのか?それに得られる2箱の根拠は?」



「確約頂けるなら、私に伯爵様の騎士団から遠距離兵士に回復師を含み、6名をお貸しください……。箱数の話は魔物を倒した時のパーティー数の関係です。なので純粋に頭数としてお借りするだけで、僕のする戦闘に参加はさせません。そもそも僕の戦闘スタイルに他人は邪魔ですし……」



 僕は得る箱を2つ以上に増やす為に、騎士団を借りる事にした……



 宝が2箱手に入れれば『秘薬』が手に入る確率が上がる。


 魔物次第では参加する騎士団を細分化してしまい、7箱手に入れても良いかも知れない……



 秘薬以外の宝などは伯爵にあげて問題はない……


 当然伯爵も事情を知れば同じ事を言うだろう……他の宝より秘薬が優先だと。



 まぁ秘薬だと分かればそれこそ問題だが、箱を開けた時に秘薬が出ればクロークへしまう予定なので、伯爵の騎士団が知る可能性はゼロだ。



「凄い自信だな……まぁ……ラッドから戦い方の話は聞いた。だが相手は階層主だろう?……」


「階層は4階ですから……寧ろ『本当に階層主の箱か?』と疑われるほうが問題なので……」


「そうかアイテムを得たことの確認の為と言うことか……うむ………分かった貸し出そうではないか。それで?いつまでに用意すれば良い?」



「明日の朝ギルドに派遣してください……」



 僕は若干難しいお願いをする……当然伯爵は目をむき出しにして驚くが、僕は冗談の類では無いと説明した後に至ってまじめに返す……


 しかし伯爵は終始信じられない顔をしていたが、最後には声を出していた……


「あ……明日だと!?………階層主を倒すと言うのに………いきなり明日遠征だと!?………」



「僕の捜し人が居なくなって既に10日を過ぎてます。……下手すると……死んでます。なので『遺品』と言いました。ですが、もし生きていたら、もう余裕はなくギリギリです……。水と食料含めて生存出来る、ダンジョンでの日数としては……」



 僕には時間があってもディーナの亭主にはそれが無い……待っている余裕などは1秒だってないのだ。


 だからその話は明確にしておく必要がある……



「成程……うむむむむ………セパム、今すぐ騎士団長に指示をして明日の準備をさせよ!出発は日の出と共にギルドへ……すぐに伝達に行け!」



「はい!マガワーマ様……直ちに万全に準備を致します」



 執事は僕に『ヒロ様、私はコセ家の執事でセパムと申します。挨拶が遅れて申し訳御座いません。主人より要件を申しつかりましたので、これにてお先に失礼させていただきます』と言ってすぐに屋敷に戻っていった。



 そして執事のセパムが帰るタイミングを見計らって、ラッドが飛びつく様に話しかけてきた……



「はははは……はは………ヒロの旦那……俺にも当然一枚噛ませてくれるんだ……よな?」



「ラッド……馬鹿も休み休み言え!お前は別の仕事があるだろう?明日から帝都に妻の荷物を持っていくと言っておいただろう?」



「で……ですが旦那様、ダンジョンで成果を上げれば、得られる宝が増える可能性も………あ……えっと……いや……行きますとも……トホホホホ……」



 ラッドは伯爵の無言の威圧を受けて、僕に同行する事を諦めた様だ。


 当然だが、彼を連れていく真似などはしない……


 彼等を同行させる事で要らぬ危険が伴う上に、欲で動いたすえに止めてもボス部屋から逃げ出しそうだからだ。



「了承頂けるなら、ひとまず明日の朝から1日程度になりますが、コセ家騎士団には僕の指示でダンジョンへ同行していただきます。その際は指示のない行動は厳禁だと説明をお願いします。ボス部屋は雑魚とは異なりますから……それだけは何があっても厳守する様に言ってください……」



「うむ……分かった……これからヒロはどうするのだ?夕飯でも食いながら明日の話を………と言いたいが儂も騎士団へ説明をしなければならないのか……。うむ……飯は全てが上手く行ったのち、新たに祝いの席でも設けよう……」



 僕はマガワーマ伯爵が僕を追ってギルドまで同行するかと思ったが、意外と真面目な性格な様だ。



「僕もギルマスに用事がありますし、報告もまだしてないので……今日はこれで失礼させて頂きます」



 僕はそう言って、金貨350枚が入った袋をリュックに詰め込んで、ギルドへ向かう準備をする。



「うむ……では明日の朝、遠征前にまた少し話そう……。儂もヒロを見習って急がねばな………。ではこれにて失礼する。イコセーゼにラッド!すぐに屋敷へ帰るぞ。ラッドお前は今からは……大忙しだぞ!……やる事が増えたからな……」



「へ……へい!このラッド幾らでも働きます!!……」



 イコセーゼは帰り際に僕を睨んでいた……どうやら僕は彼の不況を買った様だ。


 宝剣を渡した手前、父親に返してほしいとは言いにくいのだろう……


 だが僕は『宝剣』の事など、一言だって話そうとは思わなかった。



 『自爆した上で僕を恨むのはお門違いだ!』と言いたいが、もう既にラッドと共に伯爵の後を追って帰ってしまった……



『ふぅ……下準備は終わったぞ……。これであのタカリー家の馬鹿息子にも責任を取らせる事ができそうだ……。自分のやった罪をしっかり味わって後悔して破滅の道を歩んでもらおう……』



 僕はそう思いつつギルドへ向かう……



 ◆◇



「おうヒロ……お前は何でいつもこうなんじゃ!!……もう意味が分からんぞ……レックとレイラに止められなかったら、儂はあの時お前をぶん殴ってたぞ?」



 ギルドに入ってきた僕を、一番最初に出迎えたのはガルムだった。



「その様子だと……レックさん達に説明されました?」



「ああ!……聞いたさ。悪辣貴族同士をぶつける魂胆なんだろう?……お前の頭の中はどうなっちょるんじゃ?……どう見ても前から考えていた訳ではないじゃろう?突然コセ家のマガワーマが来たんじゃからな?」



「ええ……実は後ろに居たイコセーゼさんを見た時に思いつきました。簡単に説明すると、あのタカリー家の馬鹿兄弟が、イコセーゼさんより早く男爵になるって言ってたので……。それを邪魔した上で、彼等の家名を取り潰して貰う部分まで込みにして話してきました」



 それを聞いたレックとレイラはギョッとする……



「なぁヒロ……聞いていいかい?相手が嫌いだって理由だけで、流石に同じ爵位の貴族では相手の家を潰すなんて無理じゃないかい?」



 どう考えても答えが出せずに居たレイラは、首を傾げている……


 そして分からないままには出来ないのか、そう質問をしてきた……なので僕の考えをそのまま話す……



「なのでダンジョンの財宝を使って、『上の人』に働いて貰うんです……」



「「「「!?」」」」



「ヒロお前……最悪なやつだな……だから4階層か……」


「伯爵の上って事は……侯爵家にオネダリする気か?マジかよ……」



「クレムにアンガ……だから俺は言っただろう?ヒロは『普通』では終わらせないって……。仲間外れにするとか、子供がやりそうなナマ優しい事じゃねぇんだよ……。コイツの頭はぶっ壊すか消し去るかの選択肢しかねぇの!!一番弟子のアユニを見ればわかんだろう?」



「ちょっと!ラックさんどう言う意味ですか?私は………危険な魔物だからこそ、傷持ちにさせて凶暴化させない様に頭を吹っ飛ばしてただけですよ?……魔物なんだから減らさないと!……少しでも……」



 クレムの言葉にラックが反応するが、たとえに使われたアユニはご立腹の様だ……


 しかし、途中からは面白がってホブゴブリンの頭を吹っ飛ばしてたのは間違いでは無いので、助け舟は必要ない筈だ。

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