第851話「悪辣貴族の同士討ち計画」


 僕は急拵えだが計画を実行に移す……



「いえ、宝石箱については差し出した物ですのでお好きになさっていただいて結構なんです……ですが……」



「うん?おお!報酬はこれだけではないぞ?金貨袋は当座の資金繰りに為に渡したに過ぎん。お前が持ち込むものは3割増しで購入する様にラッドには言っておる。これからも安心するがいい。だがゴミは買わんぞ?ガハハハハハ……」



「はははは!たしかにゴミはダメですよね!伯爵様!!…………『おい!どうした……お前も笑え』………いやぁ!やっぱり爵位に即した宝ですよねー!ははははは」



 ラッドはコセ伯爵と話しながらも、僕に笑う様に言う……


 だが僕は、雰囲気を出す為にわざと真顔をして見せる。



「ガハハハハハ…………ハハ…………なんじゃ?まだ何かあるのか?流石にわしも伯爵の爵位があるのだ、笑ってばかりはいられないぞ?」



「実は伯爵様、申し上げることがあります!!僕はタカリー家の馬鹿息子の情報を手に入れました……それを言った方が良いものか……、今まで悩んでいました……。息子さんに関係することです!!」



 僕がそう言うと、伯爵はギョッとして息子を睨みつける……


 しかしイコセーゼにしてみれば、寝耳に水だろう……


「お……お父様………俺は何も知りません!それに何もしてないです!!こ……この宝剣を………渡し忘れていただけです……」



 そう言って宝石がゴテゴテ付いた宝剣を見せる……



「な!?こんな宝剣があるなら何故出さん!?この大馬鹿者め!!これがあの場に有れば、病に伏せられている陛下からもお声がけ頂けたかもしれないではないか!!………この碌でなしの大馬鹿もんが!!」



 周りの目も気にせず、息子に大激怒するコセ伯爵。


 当然自分で馬鹿をしでかしている自覚があるイコセーゼは、なんとか親の機嫌を取ろうと必死に訴えている……


 しかし全くイコセーゼに関係はないので、僕は助け舟を出す……



「違います!……皇帝陛下への献上品や、祝いの席も関係ない話です……。ですが………ご子息様の出世に関わる事でございまして………。伯爵様にしてみれば大問題で御座いましょう……」



「「な!?なにぃ!?……」」



「どう言うことなんだ……俺の出世に関わるだと?……いえ!早く言うんだ!なんの問題があると言うんだ!」


 僕の言葉で慌てふためくイコセーゼに、父親であるマガワーマは苛立ちが隠せなくなる……


「うるさいイコセーゼ!!お前は黙っとれ!碌に考えないお前は、話をややこしくするだけだ。ヒロと言ったな?お主は知っている?全部今このワシに話すが良い……それで何を知った?」



 僕はイコセーゼが持っている宝剣絡みの件で、タカリー家の馬鹿息子がダンジョンに潜っている事を話す……


 当然、尾鰭どころか足と腕もおまけにつけて話しておく。



「彼奴らは、ご子息様へ差し上げた宝剣と同等の物を探しに現在ダンジョンを探索中です。その理由は『男爵爵位』を得る為です。宝剣を『公爵家もしくは侯爵家』へ出せば『男爵』の爵位は確定したものだと言ってました……『馬鹿なイコセーゼが気付く前に』とも……決して私が私情を挟んで今作って言ったわけではないですので!!ご容赦を!」



「当たり前だ!こんな素晴らしいものがあれば、誰だって手に入れたいのは当然だ!……だからワシは今激怒したのだ……その侯爵も間違いなく皇帝陛下へ献上するに決まっておるわ!」



「ですから……一刻を争う内容でしたので笑って話す余裕がなかった次第です……」



「そ……そうか……すまんな。この儂が浅はかだった。だが安心しろ……この宝剣を持ってして私は息子の爵位を得てくるからな!でかしたぞ!ヒロ!!」



 そう言ってコセ伯爵は、僕の肩を『バシバシ』と強く叩く………



「イコセーゼ!覚えておくが良い。一時の自慢より今後の事を考えて動かねばならぬ時がある!!今この冒険者のヒロは身をもってそれを示した!お前の爵位の為に、お前に恨まれても剣のことを話したのだ!」



 コセ伯爵が僕を見ながらそう言うと、コセ伯爵越しにイコセーゼが僕を睨んでいるにが見える……


 相当宝剣を気に入っていた様だ……だから僕はお話の尾鰭を終わりにして、追加でつけた腕と足の話をする……



「その剣より良いものがあるとすれば……如何いたしますか?コセ伯爵様………」



「な……………なんだ……なんだと!?………」



「いまだに誰も入ったことにない、『第4階層の隠し部屋に居る階層主の宝箱』それをお持ちしたら……私に何をして頂けますか?」



 僕がそう言うと、ガルムが大激怒を始めた……



「ヒロ!!貴様!!……それはスカリーとドドムに対しての侮辱じゃ!!儂は許さんぞ?悪辣貴族共にあの存在を………ムグ……ムゴガ……がぁぁ手を離せ!口から手を離せ……儂に話させんか!……ムゴガ……ムグムグ……」



 どうやら僕の行動の意味がわかった様で、レイラとアンガがガルムの口を塞ぐ……



「モガモガ……ぶあぁぁかもぉぉん……手が邪魔じゃ!塞ぐな口を!……ヒロ……儂は貴様を見損なったぞ!」



「伯爵様申し訳ありません……すぐに黙らせます………」



 僕はコセ伯爵にそう言ってから、文句を言い続けるガルムの耳元で念話を使う……


 人に使うのははじめてなので、上手くいくか分からない……だがやるしか無い。



『ガルムさん後で説明します。これが上手くいったらタカリー家は爵位を失います……。スカリーさんの怨みを晴らすのに、使えるものは全部使わないと貴族は排除出来ません!ガルムさんは予定通りギルマスに報告と、罪人の自白をさせて下さい』



 そう念話で言った後に僕は、あからさまに変な事を『口で』言う。



「ガルムさん少しは冷静になってください……僕がやろうとしている事にガルムさんは必要が無いんです。そもそも同じパーティーでは無いですよね?」



「むぐぅ………お……お前のことなんか知るか!!儂はやる事がある……お……おい!お前たち……ヒロなど放っておいていいぞ!ギルマスの要件を済ませにゃならん!小娘三人も一緒に来い!終了の報告せにゃならんだろう!!おい!ヒロ『お前は好き』にそこで話しちょれ!………行くぞ!!」



 レイラとアンガは去り際に『ニヤッ』と笑って、ガルムと一緒にギルドへ向かっていく。



「伯爵様すいません……騒がしくて……」



「か……構わん!!それでなんなのだ!?今のは本当か?4階層に隠し部屋だと?それも……『階層主』と言ったか?」



「はい……そうです。その場所を見つけました。僕はそれを攻略して報酬を持って来れます……。その宝箱をまるまるコセ伯爵様に献上もできます……。ですが……それの報酬に伯爵様は私に何をして頂けますか?」



 僕はわかりやすい様に説明し直し、コセ家の伯爵にそう伝えた。


 先程まで笑っていたコセ伯爵は、既に笑い顔が消えて帝国貴族の顔になっている……



 悪辣貴族特有の『得るものの代償』を天秤にかけている顔だ。



「回りくどいことは良い……何をしたい?……いや違うな……儂に何をさせたい?」



「公爵家か侯爵様の伝手を僕に……そしてタカリー家の爵位を取り下げさせて、完全に没落させて頂きたい!!」



「…………本気でそれを儂に言うのか?……爵位か?爵位が欲しいのだったら……だったら儂が担おうでは無いか!男爵位か騎士爵を……うん?……その顔は……違う様だな……」



「理由は言えません……そして聞かないでください……」



 僕はイコセーゼが聞いている以上、全ては言えない。


 彼は耳聡く聞いていて、下手をすると親の見ていない場所で全てぶちまけて話す可能性がある。



 すると、伯爵は質問の方法を変えてきた。

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