第853話「ギルドへの報告と確認」


 僕はアユニへの助け舟を沈没させた後、ガルム達に質問するべき事を聞く……



「それはそうと……ガルムさんとアユニさん達は、今日あった事は全部報告済みですか?」



「ああ……その事は儂は口下手じゃから上手く話せんので、ラックとレイラが対応してくれた……。じゃが……問題もある……。ハリスコがのぉ……『鬼蜘蛛一家』を相手取って戦争をすると言って聞かんのじゃ……」



「私達の方も、事務員のクィースさんには報告しました。特殊スクロールを使いこれからレベルを調べるそうです……。ちなみに調べるのはヒロさんもですよ?」



 二人の話には其々問題点があった。


 特殊鑑定スクロールは、正直対した問題にはならない……僕のレベルだと間違いなく表示が無いだろう。


 なんとか誤魔化してギルドの外に出て、ディーナに報告に行けば、なし崩し的に明日になる。



 何故なら明日の準備があるからだ……



 ガルムの方は当然ハリスコだが、戦争は構わない……ダイバーズも加わるだろうし、当然僕も参戦する。


 しかし真実を明らかにせず、実行犯である鬼蜘蛛一家だけを叩きのめしても向こうの思う壺だ。



 所詮鬼蜘蛛一家は、タカリー家にとってトカゲの尻尾でしか無いのだ……


 悪辣冒険者とハリスコ商団の戦争があれば、ハリスコ側に参戦する冒険者が沢山出るだろう。


 そうなれば、それを口実にタカリー家は、新たな問題を起こす可能性さえある。



「モルダーさんは?……それに犯人の供述は?」



「「「「それが……なぁ……」」」」



 僕が一番状況な危険であると思われた、モルダーのついての質問する……


 すると全員が僕の想定と全く違う表情をした……



 そしてアンガが珍しく自分から話をする……



「一番困った状態がモルダーなんだよ……と言うか……まぁ見てもらったほうが早いな……だが驚くなよ?」



「絶対に魔法は使うな……いいな?ヒロ……お前は特にダメだ……何もかも、全ての均衡がぶっ壊れる可能性があるからな……」



 アンガの後にラック迄がそう言った。


 二人の表情から察するに、魔法と何か関連があるという事だろう。



「それはどう言う事で………」



 僕がそう言い掛けた時だった……『ギィィィィィ』と音を立てて会議室の扉が開かれて、消音の魔法の効果が一時的に切れて中の声が漏れ出る……



「ふざけるな!!………彼女には指一本触れさせるか!!やっと会えたんだ。……どれだけ………『ギィィィィィ……バタン』……」



 どうやら声の主はモルダーの様だ……


 声の感じと内容からして、遺体の処理について激昂している様に思える……


 しかし彼女には安らぎが必要だ……



「どうじゃ?ギルマスよ……あの調子だとダメそうじゃが?……」



「間違いなく無理だな……。と言うか今でも信じられん。……ん!?……おお!ヒロじゃ無いか……役割をこなしてくれて助かった。これから三人のステータスチェックに入るんだが、その前に儂は問題を終わらせなければならないんだ。それも大急ぎの案件でな」



 ガルムとテカロンは難しそうな顔をしてそう話したが、僕には少しだけ理解ができる。


 愛する人が突然目の前からいなくなり、その人を漸く見つけたら遺体になっていた。



 それも、その遺体にあった傷は魔物にやられた訳では無い……犯人は同族だ……


 そして、漸く会えた大切な人の遺体をすぐに埋葬処理するなど、到底納得は出来ないだろう。



 居なくなった時以来、気持ちに整理ができてないモルダーには到底無理だ。



 人を愛し失った心の整理など、そう簡単にできはしない……僕でさえそう思った。



「おいヒロ……帰ってきて早々すまんが会議室に来てモルダーを説得してはくれんか?多分お前さんなら解決法があると思うんじゃ……」



「構いませんが……傷心は時間しか解決できないですよ?僕は忘れさせる事なんか出来ませんから……。記憶を消せる訳ではないし、死んだ人を生き返らせる事も………!?………そうか………騎士団へ渡した薬……」



「残念じゃが、それは無理じゃ……あのポーションの事なら鑑定スクロールで既に調べた。あれは『白骨遺体』に効果はないんじゃ」



 確かにそうだった……


 蘇生時にある程度の怪我は治せる……だが欠損部位は勿論、状態異常なども治す効果はない。


 欠損部位どころか、今のスカリーには骨しか無いのだ……そもそも飲ませる事ができない。



 しかしモルダーは違うのだろう……僕と同じ結論に辿り着いたには素晴らしい情報網としか言えない。



 何故なら、僕達が得た蘇生役が騎士団に渡った事を知っている人物は、非常に限られている。


 緘口令が敷かれたその情報に行き着いたモルダーは、流石はハリスコの息子と呼ばれるだけある。



「成程………効果が無いポーションを寄越せとモルダーさんは言っている……そうですね?」



「「「「違うんだよなぁ……」」」」



 何故か全員の口調が一緒になって僕にそう言った……



 ◆◇



『ギィィィィィ………バタン……』



「俺は絶対にここから離れねぇぞ!!………その犯人にも言ってやれ!!絶対にゆるさねぇし、本人が状況報告してんだろうが!!」



「ゴーストが参考人?馬鹿言うな……魔物じゃねぇか……それに魔物になった冒険者をギルドは放っておくのか?ああ?コラ」



 僕は扉を開けて驚いた……ゴーストになったスカリーが何故かそこに居たのだ……



「ゴ……ゴースト!?」



「だ……旦那!?………ヒロの旦那!!………待ってくだせぇ……敵じゃねぇんですよ!コイツはスカリーですよ。ダンジョンの4層で合ったでしょう?……うげぇ!!………スカリーお前も身構えんな!!」



 驚いた僕に反応して、モルダーがスカリーと僕の間に滑り込む……それは見事なフットワークだった。



「ゴースト………え!?……スカリーさん?何故ダンジョンでゴーストになって……え!?……」



「じゃからギルマスが言ったじゃろう?お前なら『解決法』があるんじゃ無いかってな?」



「いやいや………ゴーストの治し方なんて知りませんよ……ってか……机の上のはタリスマンですよね?それは魔物を排除する……あれ?……」



「お前が言ったことは確かにそうじゃったんだが、なぜかスカリーは平気なんじゃよ……」



 そう言われて感知をすると、本体ゴーストが出す敵性反応である赤い印がスカリーは人と同じ色になっている……所謂僕が使役しているスライムの状態と同じだった。


 僕は一度警戒を解いて今までの事を説明して貰う。



「俺がギルマスに報告に来たんです……スカリーが白骨化した状態で見つかったと……」



「俺も半狂乱状態のモルダーから詳細を聞き出すのは苦労した。話を聞けば刺されて死んだと言うじゃ無いか……それも凶器の武器と遺体、それにどの貴族か分かるエンブレム入りタリスマンまで見つけた。それが4階層の隠された部屋だと聞かされれば、全てが揃ってるんだ……信じるしかあるまい?」



「ああ……だから俺はスカリーの遺体をテカロンに任せて、ひとまずハリスコの叔父貴を呼びに行ったんだ」



 モルダーとギルマスのテカロンは順番に、彼等がとった行動を遡って話してくれた。



「そしてハリスコの叔父貴を連れてきた……。叔父貴はそれはもう大変だったよ。スカリーは娘だ……叔父貴の。血は繋がってないが、叔父貴は俺の嫁にって選んでくれてたんだよ……スカリーを……。だから怒りは途轍も無かった……あの壊れた椅子の山は叔父貴が叩き壊した後だ……」



 そう指差した先には数脚の壊れた椅子が置かれていた。


 危険なので職員が退かしたのだろう……


 モルダーは遺体を見ると涙が出てしまうのか、話せなくなったモルダーに続く様にガルムが代わって話した。

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