第849話「最後の足取りと消えた冒険者」


 僕は全員に向けて、ギルドへ向かう意思を示す………



「全員で報告に向かって貰った方がいいですね。あの冒険者が発端で、悪辣貴族が喧嘩を仕掛けてきたら危険でしょうから……」



「お主意味がわかって言ってるんだよな?危険なのは相手や巻き込まれる街の人だぞ?」


「ラックの言う通りだ……まぁ……お前に喧嘩を売ればブルミノタウラーより酷い目に遭うのは目に見えてる。この短期間お前を観察しててわかったよ。ダイバーズ最大戦力のガルムクラスが複数人居ても、お前には勝てない……」



「じゃな……儂が面と向かって闘ったら、斧を振ると同時に首と胴体がおさらばだ……」



 ラックが僕をおちょくる様に言うと、アンガとガルムが意外な事を言い始めた…


 それを聞いたラックは、非常にびっくりしている。



「ガルムでも無理なのか?ギリギリいい勝負かと思ったけど……」



「無理じゃ……あの剣戟を見たじゃろう?振り切りで伸びた腕を肩からバッサリと斬り飛ばし、返す刀で反対の肩から綺麗に腕を落とすんじゃぞ?相手が少しでも動いたら、間違いなく頭を割っちまう。斬ったダメージを感じさせる前に、反対を斬り落とす技術などワシには無い……」



 僕は『レベルさえ上げればガルムにも可能では?』と言いたかったが、言ったら最後ガルムよりレベルが上だとわかってしまう。


 なので何も言わずにこう言うに限る……



「そろそろお話はおしまいで!僕はメルルのお父さんを捜さなきゃいけないんです。ダンジョンで10日以上、どっかに隠れてるならもう間違い無く限界でしょう。水が無ければ人間は7日で死にます。食料も必要ですから……。生きている事を祈ってるだけでは助けられません……さぁ!急ぎましょう!」



「メルルちゃん……いえディーナさんのご主人をお捜しなんですか?最後に見た階層の話はご存知で?……4階層で忽然と姿を消したそうです……。それも掻き消えるように……。ですが、それを見た冒険者の話を信じるには若干問題があります……何故なら4名の駆け出し冒険者だったので……見間違いの可能性も……」



「忽然と掻き消える様にじゃと……それはまるで………!!……あの馬鹿……発見しとったんじゃ!!あの4階層の階層主が居る隠し部屋を………」



「な!?……何ですって!?………ガルムさん……何ですか?その『4階層の階層主の隠し部屋』とは?ギルドには未だ嘗て無い情報ですよ!?」



「は……話は後じゃ!!先を急がにゃならん、この詳細を聞きたいならギルマスから聞くんじゃ……。おい!お前たち急いでギルドに戻るぞ!!……」



「「「「お……おう!!」」」」



 ガルムは元より、ダイバーズのメンバーもディーナの亭主の話は知っていた。



 この様子だと、ダンジョン探索ついでに捜すように言われていた可能性もある。


 点と点が線で繋がったのだ……急ぐのも当然だろう……



 僕達は挨拶も中途半端に終わらせて、転移陣へ急いだ。



 ◆◇



「はぁはぁ……1階の転移陣についたのぉ……じゃがなんと言うか……。あの4階層の幻影の扉の事を言うにも、ヒロのモノクルが無いと分からんしな……」



「ガルム……アンタそんな事言ってる場合じゃないでしょう?ディーナの亭主はアタイたちと同期だ……見捨てられないだろう?」



 僕はその言葉から推測をした……



 ガルムたちの同期がディーナとその亭主、そしてあの隠し部屋……


 隠し部屋には刺されて逃げ込んだと思われる、スカリーの遺体があった。


 もしかするとディーナ達とガルム達、そしてモルダーとスカリーの繋がりがあるのではないだろうか?



「ガルムさん……もしかしてその同期の話にモルダーさんや死んだスカリーさん達も入りますか?」



「む?何でじゃ?……まぁ問題がある事ではないから言うが、正確にはモルダー達は後輩にあたるな。儂等の同期がディーナの亭主だ。そしてディーナはモルダーと同期じゃ……元々ディーナは王国の冒険者で、結婚を期に向こうからこっちに来たらしいのでな」



「って事は……ディーナさんは冒険者の経験があったけれども王国の冒険者証では無く、帝国で作り直したって事ですか?」



「ん!?そうなるな?じゃが王国冒険者だったそれは、モルダーやスカリーとは関係ないじゃろう?」



「え?ああ……そうですね。王国の冒険者と言われたので、ちょっとビックリしただけです。今は王国からこっちに来れないじゃないですか?故郷に帰れないと悲しいかなぁと……」



 僕は王国と聞くと過剰反応してしまう様だ……何とか誤魔化したが、不自然極まりない……


 しかし思ったより話がに見込めた様で、レイラが話に加わってきた。



「ああ、そう言う事なら問題ないはずだよ?あたしも向こうの出なんだけど、ディーナの住んでた村は既にもう無いんだ。魔物に襲われちまって、家族は皆その時にって話さ……リザードマンとトンネルアントの両方に襲われたって最悪なパターンだね……」



 その情報には絶句するしかない……


 ディーナはあの悪辣貴族がやらかした村の生き残りだった……



「まぁディーナは、あの王国の話はしたがらないから聞かない方がいいよ?心の底から王国が嫌いみたいだから……」



 それはそうだろう……理由を知っている僕は、その話を聞くに聞けない……。



「それよりヒロ……何が言いたいんじゃ?どうせ何か気になったんじゃろう?回りくどい事せんで話せ………」



「確かにそうですね……。スカリーさんはあの秘密部屋を、ディーナさんの亭主に聞いたんではないでしょうか?もしくは秘密を知った?」



「「「「「!?」」」」」



「ディーナさんの亭主は秘薬を得る為に、中層へ向かっていたはずです。ですが何かの拍子にあの仕掛けに気がついたのでしょう。階層主を主に倒そうとしてたはずなんです。帝国史の情報では、雑魚では『秘薬』は得られないんです。だから低階層の階層主をソロで倒そうとしてた……。でもそれを偶然スカリーさんが知った?……」



「む?………成程……辻褄が合うな……。モルダー達は当時、冒険者登録を済ませて武器集めをしとったんじゃ……。その理由は義父の為に武器を集めていたって事でなぁ……。よく武器集めを手伝っていたんじゃディーナの亭主は。代わりに秘薬を求めていたとなれば……それもわかるな……」



「でもおかしくないかい?秘薬って言ったらとんでもない金額で、お屋敷どころか街まで買える金額が転がり込むって話だろう?モルダーは何故そんなもんをディーナの亭主にやっちまうのさ?」



「む?……そ……それは自分の過去にあるんじゃろう……。そうかレイラは知らんのか……。儂が言ったと言うなよ?モルダーは戦争孤児だ。そして人身売買組織に捕まり売られた様じゃ……その時奴隷商で一緒にいたのがスカリーと言う事じゃ……その後ハリスコに買い取られてモルダーだけ息子になったんじゃ!この話は、ハリスコに聞いた話じゃから本当じゃ……」



 ん?と言う事は……ハリスコは義理の父親だろう……




「って事は……モルダーさんの自分の苦労の記憶が元になって、ディーナさんの亭主を助けたって事ですか?」



「そう考えるのが自然じゃろうな?自分の家族ができた嬉しさと、もしハリスコが同じ状態じゃったら……と考えたにかもしれんな……」



「って事は……スカリーさんも同じ様に感謝している可能性があったって推測できますね?だから手助けを買って出た。でもモルダーさんは、あの部屋の存在を知らなかった……。もし知ってたら、あんな反応じゃなかった筈ですよね?」



 僕は更なる推測の為に、思考を巡らす……



『………買って出たのでは無く……断られた……そして口止めされていた……と考えたら?だからスカリーさんはあの場所を知ってた?でも……単なる隠し部屋と勘違いしていた?そう考えれば、地上に出られないスカリーさんがあの場所で座り込んで、結果的に失血死したと推測できる……』



 僕は必死に記憶を辿り、あの4階層の地図の部屋構成を思い出してみた……

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