第850話「報復計画」
僕は必死にスカリーを発見する直前に見た、あの地図の様子を思い起こす……
T字路の先に門や扉のない部屋……そしてその先にあった大きい部屋。
モノクルでたまたま発見できた、幻影の扉から続く階層主の部屋だ。
そして階層主の部屋からしか入れない小部屋……それは確かにあった。
「た……確かあの小部屋の奥に、階層主部屋があって……その更に後ろに部屋があった筈だ……」
「どうしたんじゃ?何をブツブツ言っとるんじゃ?お前は……」
「あの階層主の部屋の奥に、まだ小部屋があった気がするんです……」
「!?主部屋の奥に部屋じゃと?……じゃがそれが失踪とどう関係する?」
「出られない程の怪我を負ったとか?……だからあそこから続く部屋に逃げ込んで、そこがたまたま安全部屋だったと言う可能せ…………あ!……安全部屋!?………そうだ……あの中途半端に小さい部屋……似てる……安全部屋に……」
部屋は中に入らなければ正直何なのかは分からない……下手すると財宝がある部屋かもしれない。
しかし思い起こすと、地図には安全部屋特有の水場表示があった気がする……
「何はともあれ急ぎましょう……もう地上への出口が………」
そう言った僕の目線の先には、先程逃した三人がいた。
向こうも急いでダンジョンから逃げようとしていた。
「アイツ等……見つけました!ガルムさん……」
「ん!?………あ…あれは……あの鬼蜘蛛一家のクソ冒険者共じゃ!レック追うぞ!!」
「ガルム!!今はそれどころじゃないだろう?……ディーナの亭主ドドムの足取りが掴めたんだ。犯人の証言は既に一人分あるし、あたし達が襲われた事実は変わらない!急ぐべきはドドムの命だよ!?」
レイラはガルムを叱りつける……
だが、ガルムの考え方も的外れな訳ではなく、双方とも判断は間違っていない。
しかしながら、救える命と天秤にかけるには間違いだ。
既に犯人の一人がいるのだから、自供をさせれば問題ない上『遺体』もある。
遺体は、僕達を襲ってきた鬼蜘蛛一家の悪質冒険者と被害者のスカリーだ。
「ぐぅ……そうじゃな……ギルマスの元へ急ごう。もし何かあったら襲われた事を口実に鬼蜘蛛一家と戦争すりゃ済む話じゃ……貴族が割って入れない様に、先手で皆殺しじゃ!!これには反対するなよ?レイラ……」
「する訳ないだろう?そもそもあたしは、そっちの意見に大賛成だ。裁判なんかしたら貴族が入り込む余地を与えるだけなんだ!だけど真相をモルダーが知る必要がある……。あとはモルダーがあの馬鹿共と戦争って言うなら、あたしは参戦するだけさ!」
僕達は全力で走りながら、そう話しつつギルドへ向かう。
「ギルドが見えましたよ!あ……あれ?アレは……ダイヤモンド・クラウンのラッドさん?」
「ラッドの奴何をしでかす気じゃ?あれはイコセーゼもいるぞ?」
「おいガルム……横に居るのは馬鹿息子の親父じゃねぇか?」
レックがそう言うので、パーティーリーダーのラッドの横に居た貴族を見る。
すると、そこにはイコセーゼを老けさせた様な感じの男がいた。
「ヒロの旦那!!やっと見つかった……方々捜してたんですぜ!!」
ダイヤモンドクラウンのリーダーのラッドはそう言うと、小走りに駆け寄ってくる。
彼の様子からすると、また何かを買いたいのだろう……
「うぉ?ダイバーズのガルムじゃねぇか……どうした?そんな血相を変えて……何かあったのか?」
「ラッド悪いが今はお前に構っておれんのだ。それに貴族と一緒なら尚更じゃ!話などする気にもならん……」
ガルムに悪気はないが、今は貴族全てが憎いのだろう。
しかし相手のタカリー家は悪辣貴族だ……
状下手をすれば、宝に執着しているコセ家もこの件に関わっているかも知れない。
「なんだよガルム……お前随分ご立腹じゃねぇか。さっき鬼蜘蛛一家の下っ端が捕まってたけど……もしかしたらそれ関係か?」
「お前に話して何になる?……悪辣貴族の回しもんが……」
ガルムは元からラッドと仲が良くないようだが、出会い頭に文句を言われて怒りと思いきや冷静に対処し始めた……
「まぁまぁ……俺はお前と喧嘩に来たんじゃねぇよ!この間ヒロの旦那が譲ってくれた宝石箱とティアラが、それはそれはパーティーで注目を浴びてな!俺は勿論ヒロに礼を言いたいって、コセ家の伯爵様が捜してたんだよ!」
そう言ってラッドは伯爵を側に呼ぶと『伯爵様、この者が例の物を持ってきた冒険者でございます』と言う……。
後ろにはイコセーゼが太々しい顔で僕を見て、ニヤニヤしながら宝石付きの短剣を見せてガッツポーズをしている。
どうやら、あの宝剣もとても大人気だった様だ。
「おいヒロ、このお方は帝国伯爵爵位をお持ちの、マガワーマ・コセ伯爵様だ……。ガルムの様な失礼がないようにな?」
「お前があのティアラと宝石箱を譲ってくれた冒険者か!なかなか殊勝な心がけだ。それにしても……随分若いのだな?」
「この度はお役立てができた様で何よりです。私は一介の冒険者、ヒロで御座います。お見知りおきを……」
なんて言っていいか分からないので、僕は漫画で読んだセリフをそのまま言った……すると……
「わっはっはっは!!ラッド……お前よりしっかり者ではないか!お前は満足に話さえ出来なかったが、此奴はしっかりと自己紹介したぞ!……おい執事、礼を持て!!」
そう言ってコセ伯爵は金貨袋を僕に渡してきた……
「これは礼には少ないが追加報酬だ!!お前には借りができた……。実はな?あのタカリー家と大きな差を付けられたのだ!あの宝石箱のお陰で我妻が、姫殿下と話すきっかけが出来たのだ!信じられるか?姫殿下と直接だ!」
伯爵はそう言うと『がははははは!』と豪快に笑い出す。
その後ろで何故か、イコセーゼも釣られて笑っている……
伯爵はまだ言うことがあった様で、息子の笑いを辞めさせてから続きを話した……
「お主には悪いが、あの宝石箱を姫殿下に献上したのだ。するとな!貰った礼に翌朝の朝食を一緒に……とお声がかかり、妻共々御呼ばれしたのだよ!王族の食事の席にだぞ?今でも信じられん……あれは夢では無いかと思う程だ!まさにお前がいなければ、有り得ない事だった……」
僕はその会話であることに気がついた………
コセ伯爵とタカリー伯爵の仲は、間違いなく悪いと言うことだ。
そこで僕は思考を巡らせる……如何にすればタカリー家を潰せるかを……
そこで僕は思いついた……権力に憧れが強いコセ家を伝手にして、スカリーを殺したタカリー家を叩き潰す方法を……
スカリーは、僕が頼りにしているハリスコの娘と言っても過言ではない……
その彼女を失った親の気持ちは、こんな僕でも理解できる……
既にモルダーから聞いたかどうかは分からない……だがスカリーの最後の状況を聞けば彼は黙っていない筈だ。
だから僕は、全力でハリスコをサポートするつもりだ……タカリー家の馬鹿息子に思い知らせる為に。
手始めだが、タカリー家の今やろうとしている事をコセ家に告げ口して、貴族としての権力をあの馬鹿兄弟には、絶対に持たせなくする。
そう考えていたら、コセ伯爵から声をかけられた……
「……………どうした?……もしや宝石箱を譲ったことが不満だったか?だが貴族には貴族の付き合いがある。それを不満と言われてもな……まぁ我が家族のためにと言えば……気持ちは分からんではない。だがこう考えるといい……お前は陰ながらの功労者だと!そうだろう?お前が居なければ姫殿下は手に入れることが無かった代物だぞ?」
勝手に気持ちが出来上がっている伯爵だった……
だが丁度土台は整った様だ!
伯爵の言葉を借りて、そのまま気持ちを揺さぶろう……
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