第848話「地下5階と試験会場」


 駆け出し娘三人は顔を見合わせて驚きの声を上げた……



「「「レベル10以上!?」」」



「そうよ?貴女達……レベル10以上でしょう?………まさか自分のレベルを確認してないわけないわよね?ダンジョンに潜ったら必ず鑑定スクロールで身体チェックをするのが駆け出し冒険者の基本よ?」



「オヌシ等……呆れる程無頓着じゃな……。と言うか教える奴がいかんのか?駆け出し冒険者が朝から晩までダンジョンに潜って戦えば、レベルは勿論スキルを覚えている可能性もあるじゃろう?」



 ガルムはそう言って僕を冷ややかな目で見る。


 だが、僕は関係ない……



 探索が終わったら鑑定スクロールを使えとは言ってないが、『自分の基礎ステータスの事くらい、自己管理でやってもらわないと……』と思ってしまう。



 そもそも自分のステータスだって、僕は最近まともに見てないのだ……人のステータス問題など二の次だ。



 ガルムの言葉で全てを理解したのか、ギルド職員は呆れ果てて四本の鑑定スクロールを渡してきた。



「本来なら実力試験をした後に、本人確認のために使わせるんだけど……今回は特別よ?」



「「「有難う御座います!!」」」



 3人は当然喜ぶが僕は勘弁して欲しい……


 理由は当然『特殊鑑定スクロール』なのだ。


 どうやら此処では中級以上の『銅級資格試験会場』の役目も果たしている様だ。



 3人は迷わず鑑定スクロールを使う……



「レ………レベルが……出ません………」



「あれ?私も…………」



「アユニとマナカも?………私も出ないんですけど………」



 昇級試験官の役目を果たしているだろうギルド職員は、その鑑定スクロールを覗き込む……



「…………3人とも?………こんな事久しくなかったわ。ガルムさん、貴方達が冒険者になった時以来じゃ無いかしら?」



 試験官はガルムを見てそう言う。


 どうやらギルドでは、ガルムの時の試験の結果が語り継がれているのだろう……


 試験官は正直なところガルムより間違いなく歳下に見えるので、当時の事を知っている様には思えないからだ。



「う……うむ………そうじゃのぉ……。じゃがアレには明確な理由がある。儂等は元々此処で冒険者の登録する前に『騎士団』に居たからな……じゃが彼女等は違う。此処にくるまで正真正銘の村娘だった娘じゃ……儂等とは訳が違う……」



「ガルム……仕方ないって……アタシでも多分同じ様にレベルが上がる筈だよ。あの阿鼻叫喚の地獄絵図の様な特訓だったら……」



「ああ……そうじゃった!!確かに彼女達にはそれだけ上がる理由がある。……アユニはゴブリンもホブゴブリンも魔物では無く、経験値としか思なかった……と言ってたからな……」



「アイツ等本当におかしいだろう?俺の苦労が漸く分かったか?宝箱開けてる側から新しい箱が出るんだ……。俺も駆け回っては開けて回収の繰り返しで地獄だったぜ……」



 ガルムの言葉にレイラとレックが相槌を打つ。


 僕の見張りと言う任務を受けたので、同行していたからその言葉も当然だろう。



「でも困ったわ……貴女達は魔性石を交換しにきた以上初心者も初心者……ど素人よね?……あらごめんなさい……辛辣な言い方だけど、言い方選びも正直困るのよ……。冒険者には厳しくしないと、調子に乗った時に待っているのは『死』だからね!」



「大丈夫です!既に私達は理解してます……アユニと行動を共にしたので……」



「はい!マナカの言う通り既に経験済みです……地獄を見ました……アユニのせいで……」



 試験官は二人の言葉を受けて、アユニを見ると『ごめんってばさー!だって一辺に魔物を殲滅するのって楽しいんだもん!!』と言っているのを聞いて、『駄目な子が冒険者になったわね……』とボソリとつぶやいた……



「まぁ何にせよ、魔性石の交換は終わりよ……その様子だと一番最初の過程を全部すっ飛ばして此処に降りてきたのね?その原因は多分そこの坊やでしょう?特殊鑑定スクロールと分かってるわよね?その顔は……」



「は……はははは……既にテカロンギルドマスターに使わせて貰いましたし……3人と同じ反応をしたので、コレに出ないのは把握済みです」



 そう言ってスクロールを返すと、試験官は三人からも同じ様にスクロールを回収する。



「取り敢えず貴方達はギルドに行ったら、マジックリングを提示しなさい。そうすれば次の課題を支持されるわ。でも多分それも飛ばすことが出来ると思うわ。一辺に魔物を狩り切り、その仲間を守れるメンバーなら、全員同じ力量がある筈だから……」



 そう言うと、試験官は通路の奥を指さす……



「あそこに転移陣があるわ。アレを使って第一層を経由して地上に帰りなさい。自分のレベルも知らない貴方達は、くれぐれも『寄り道』をしない様に!分かったわね?」



「ヒロ……この言葉は主にお前に当てはまるからな?いいか?『真っ直ぐギルドに帰る』儂等はそれがこなせないと、自由にダンジョンの探索ができん。分かったな?今すぐ帰るぞ……」



 僕の計画は、魔性石を納品後に三人をガルム達に任せてしまう予定だった……


 そして転移陣を使って10層へ降り、メルルの父親探索をしようと思っていたのだが………彼等は僕の寄り道計画について既にお見通しだった様だ。



「それに……モルダーさんの事もありますし……。是非ヒロさんにも一度ギルドに戻って貰いたいんです!私達はあの人が心配で……安全部屋に残ったラームさんが話してくれたんです。……スカリーさんは結婚する直前に居なくなったと……」



「アサヒの言う通りです。あの様子だと一人で犯人を捜してしまう筈です。そこにあの犯人の情報を聞いたら……」



 彼女達が言いたい事は、当然僕にもすぐに理解できた。


 一度ギルドに戻り、モルダーにクギを刺す必要がある。



 今のモルダーは性格的問題だけでは無く、スカリーの怨みを晴らす為にも独断で動いてしまいそうだ。


 牛鬼組の再起の為にも、ハリスコに言って少し遠方で仕事をさせておいた方がいいだろう……



 仇である鬼蜘蛛一家と、貴族のタカリー家の力が及ばない街辺りを中心に遠征させておけば、仕事に集中するしか無くなる。


 その間に頭を冷やし、冷静に考えられる様にしておけば、大切にしなければならない仲間が居る事もわかるだろう。



「ですね……状況報告兼ねて一度ギルドに戻り、ギルマスにも相談に乗って貰いましょう」



「私もそう思います。ギルド職員の立場で話す事になり申し訳ないですが、悪質冒険者である鬼蜘蛛一家の問題は前からあるのです。ですが貴族のタカリー家が裏から手を回すので……。それにご存知だと思いますが、被害者がダンジョンから戻ってきた試しもないですし。ですが今回はダイバーズの皆さんがターゲットだったのでギルドも表立って動けます」



 僕はギルド職員の話を聞いて、ギルドが抱える問題の一つを理解した。


 問題があると分かっていても、それを訴えるべき人がダンジョンから帰ってない……死んでいるのだから当然だ。



 そして犯行を偶然見た冒険者も、ギルド職員に対して影で報告しても、決して証言台には立たない。


 ダンジョンで次に狙われるのは、証言した冒険者達になるからだ。



 鬼蜘蛛一家の悪辣冒険者を全員纏めて縛り首で処刑出来ても、裏に居るタカリー家がある限り悪辣冒険者は減ら無い。


 そして貴族の報復も続くだろう……



 結局はタカリー家をどうにか叩き潰さなければ、この街で被害は増え続けると言う事だ。



 僕が偶然辿り着いた先の帝国は大きな問題を抱えていて、そして帝都から近いこの街は腐敗した貴族の食い物になっていた……


 悪辣貴族は冒険者を使い潰すだけに止まらず、冒険者間の歪な力関係も作り出してしまっていたのだ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る