第845話「救出された冒険者」


 僕とレックが魔物を倒すと、後衛の冒険者はすぐに現状を知らせる……


 余程切羽詰まっていたのか、かなり大きな声だったせいで、僕だけでなくラックにも聞こえていた。



「おい……助けが来たぞ!!もう後ろには敵はいない……あとは前の敵だけだ……」



 後衛で戦っていた冒険者がそう言う。


 すると、ようやく本領が発揮出来たのか、さっき迄の噛み合わない動作が嘘の様に解消される。


 そして見事な連携で、危なげなく魔物を排除する。



「た………助かった………マジで死んだと思ったぜ……」



「ああ……一度俺たちはアイツ等に合流しよう……。今のはマジで危なかったが、上手く拾った機会だ……本当に今回は運が良かったぜ……」



「ああ、マジで今回はヤバかった……さっき回復関係使い切ってなかったら余裕だったけどな!」



「お前!強がるなよ!……必死こいて『回復をー』って叫んでたじゃねぇか……」



 僕とレックは、相談している彼等の元にようやく辿り着いた………どうやら話の内容からして、合流を申し出る気の様だ……



「死ななくて何よりだったな?俺はダイバーズのラックだ!お前達は何処の誰だ?」



「大丈夫ですか?皆さん、えっと……被害は?」



 ラックの後に僕がそう言うと、彼等は何故か助けた僕達に剣を突きつけた…………



 ◆◇



「悪いな?さっさと手を上げてくれや……痛い思いはしたく無いだろう?」



「どうせ殺すんだから、さっさと刺しちまえよ……頂く物を頂いたら今日の仕事は終了なんだからよ。俺は酒が飲みてぇよ……」



 どうやら僕達は、間違えた相手を助けた様だ……


 冒険者の全てが全部いい人間では無い。



 貴族にも、善良な貴族と悪辣貴族が居るのだから当然だろう。



「おっとお仲間が到着か?悪いが全員武器はそのままでいてくれるか?うちの仲間が回収するまでてたに動かないでくれよ?手元が狂って、この二人を攻撃しちまうかもしれない……」



 そう言った悪漢は、僕とレックに剣を突きつけたままそう言った。



「なんだよ……助けるんじゃなかったぜ!お前らなんか、あのままホブゴブリンに喰われて、クソになっちまえば良かったんだ……」



「おっと、そう言ってくれるなよ……お前達のお陰で助かって、上等な装備も頂けるんだ。感謝はしてるぜ?」



 ガルムはそう言う男に『儂等がダイバーズと知ってやってるのか?今なら冗談で許してやるぞ?』と言ったが、当然誰か知った上でやっている様だ。



「ガルム……お前こそ俺達が何者かしらねぇ様だな?俺達は『鬼蜘蛛一家』の実行部隊だ。裏にはお前さんも知ってる貴族様が居るから、俺達はやりたい放題って訳さ!冥途の土産だ……教えてやるぜタカリー様だぜ?くひひひひ……」



「それを言うって事は『逃がさない』って事じゃろう?」



「正確には違うな……。下層域の宝箱は流石に貴族だろうが、如何に権力があろうが無理だ……なんせ金で魔物は倒せねぇ。だから取引だ。この二人の命と引き換えに、お前らは下層域から最低箱を2つ持ってこい……。いいな?2つだ……早くしないと何方かは魔物の餌だ」



 僕とレックは剣を首元に突きつけられている……


 ガルムは溜息を吐きながら……



「2箱じゃと?欲張りもいい所だ……中層でも6人がかりで倒すんじゃぞ?それを………」



「うるせぇよ……知ってんだ俺は。ガルム……お前達の最高到達階層はギリギリ下層域に入るよな?だからそう言ってんだよ。下手な駆け引きするなら、短気な俺はコイツ達を今すぐ殺しちゃうよ?前に殺した馬鹿どもの様に……」



 僕はその言葉に引っかかった……『前に殺した馬鹿共』それは誰の事だろう……


 僕達が此処に来る前に、誰かが被害に遭った可能性まで出た。


 だから一芝居打つことにする……



「し……死にたく無いです……僕は………死にたく無いです!まだ駆け出しなんですよ!これからなんです………」



「はははは………お前なんだ?命乞いか?………まさかガルム達に憧れて一緒に行動してただけの駆け出しか?……」



「そ……そうです……。こ……この杖で魔法を唱えてました……。実力なんかまるっきり無いんです。今は魔力が無くなったので只の枝になりましたが……魔力を込め直すと水魔法の杖になります!!」



 僕は男達の静止を無視して、クロークにしまっていた薔薇村の香木を、クローク内側の収納から取り出す。


 当然だが、内ポケットから取り出す様に見せかけているのは言うまでも無い。



「ほう……面白いマジックアイテムだな。魔力充填タイプか……。ならお前は生かしておこう……このアイテムがどこのダンジョン産か聞きたいしな?」



「そんな……。それを渡したら命は助けて、今すぐ解放して貰えませんか?……僕はまだ死にたく無いんです!!貴方達だってアイテムさえ手に入ればいいんですよね?僕は今日の事は誰にも言いません!!」



 僕は只の香木をリーダー風の男に押し付ける……


 すると横に居たシーフの様な冒険者は、僕達の会話に首を突っ込んできた……



「おい、俺はそのガキが持ってたマジックアイテムが欲しいぞ!?前の武器はあのブーンとか言うガキが欲しがって、渡さなきゃならなかったんだ……。今度のは接近戦用じゃねぇんだから、俺が貰ってもいいだろう?」



「あ?なんだそれ?………ああ!!そういえば、かなり前にも似た様なことがあったな?」



「あの時は俺も本当にムカついたぜ!女はいいけど武器はちげぇって思ったもんな!!……ってかよ……結婚断られただけで殺すとか……マジで馬鹿すぎだ。それに理由が貴族らしいよな……」



「ああ!全くだぜ……。その上、武器を使えねぇのに当て付けにするから寄越せって……。マジックウエポンの価値をしらねぇクソ貴族が……。今思い出しただけで腹が立つぜ」



「確か持ち主はあの牛鬼組の女……スカリーとか言ったよな?……。あの時は相方のモルダーってガキが街で調子に乗って時期だったよな?焦って探し回るあの姿は傑作だった……マジでいい気味だったぜ……」



 キッカケがあった事で、昔の記憶が蘇ったのだろう……


 優位な状況と勘違いしたせいで、自分からベラベラと喋ってくれた。


 このまま泳がせば、聞きたい情報は全部聞けそうだ。



 僕はラックに何も言わない様にアイコンタクトをしようとしたが、ラックは僕より早く仲間にアイコンタクトをしていた。



 それも知らずに男達は、過去の悪事を自慢する様に話を続けた……


 この様な輩は、悪事こそが自分の箔をつける手段なのだろう……



「それにあの貴族共も、親に黙って持ってきた短剣を無くしたとか言ってたしな!あれも傑作だったぜ……何箇所もブッ刺して逃げられるとか、どんだけドン臭えんだか……」



「そう言えば、あの馬鹿貴族の親父がコネを使い漸く寺院で作ったタリスマン……。あの女に引き千切られてたなよな?……結局短剣もタリスマンも見つからなかったって話だぜ?」



「知ってるよ!まだドロップ報告がねぇから、運が良ければ下層の箱から出るかもだ!だから俺はコイツ等に、それを持ってこいって言ってんだ!!大金貨で売れるらしいから、見つけたら即闇販売決定なんだ……。分かったか?お前達は説明しないと理解もできんのか?」



 僕はそれを聞いて、心底この場にモルダーが居ない事にホッとした……


 彼がそれを聞いたならば間違いなく、この犯人達を殺しているだろう。



 そうなれば真犯人の貴族とその理由は闇の中で、貴族を捕らえ罪に問うこともできない。


 僕はそろそろ切り上げようと思ったが、ラックからアイコンタクトで合図が出た『今は絶対に動くな』……と言う合図だろう……

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