第846話「鬼蜘蛛一家の悪辣冒険者」


 するとラックの読みは大当たりした……



「地上に逃がさねぇ様にあの馬鹿貴族が包囲したせいで、あのスカリーって女は地上に出られなかったんだろう?あの傷なんだから、地上で捕獲して『不敬罪』の罪擦り付ければ早えのに……馬鹿だよな!」



「おい!お前達……あの馬鹿を、馬鹿馬鹿言うな……。今回の雇い主はまた奴等なんだ!万が一にもあのボンクラ貴族の耳に入って、親分に文句を言われたら、俺達になんて言われるか分からんぞ?」



「へいへい……すいませんね……。まぁ罪を全て包み隠してくれるんだから馬鹿でも許しますよ?がははははは………」



「そうだぜ?あの大馬鹿包囲網が無ければ、短剣もタリスマンもアイツ達の元に戻ってて、俺たちは大金貨が手にはいらねぇんだ。あの女はダンジョンから出られても、遅かれ早かれどうせ死ぬ奴だ……。此処で死んでくれて大助かりだ」



「違いねぇ!!はははははは!!」



 ラックの合図は間違いがなかった……


 スカリーの最後……謎の行動の一端が彼らの言葉からわかったのだ……



 だが彼等の言葉には思いやりのかけらも無い……それどころか悪事について後悔の念も無いのだ。



 こうなったもう容赦は要らないだろう……



 なので僕は容赦を棄てる事にした……


 既に僕は殺されそうなのだから、それも当然だろう。


 ここは異世界であり地球では無い……そして平和ボケした日常も無い……



「此処にポーションも僅かですがあります……これを渡す代わりに命だけは………」



 僕はそう言って、ベルトポーチを指差して、腕を自由に動かせる様に誘導する……



「ほぉ……なかなか世渡りが上手いな?ダイバーズの面々よりは使えそうだ……。じゃあベルトポーチをこっちに渡したら、その時に考えてやるよ……。騎士団のせいでポーションは高値だからな!」



「おいガルム、お前達は仲間を救うために早く行動しろや!!このガキの方がまだ理解が早えぞ?」



「おっと……そこの小娘三人は置いてけよ?俺は其奴等で遊んで待ってるから……遊び終わったら期待するなよ?ホブゴブリンの餌は決定だからな?」



 ゲス野郎はどこにでも居るが、とんでも無いゲス野郎だ……


 僕はそう思いながら3人を見ると、かなり怯えながらアンガの背後に隠れていた。



 なのでアイコンタクトをする為にガルムを見る……



「く!!……分かった……仕方がないの……だがお前らも無事で帰れると思うなよ?……宝を渡したあと仲間が無事で居られないのは分かってるからな……数人は死ぬ事くらい覚悟しろよ?」



 ガルムはそう言って、男の注意を僕から逸らす……


 僕はその間にマジッククロークに手を突っ込み、武器を抜くと同時に男の腕を斬り飛ばす。



「ぐぁ!?」



「どうした!?……テメェなんだその武器……何処から出しやがった!?……」



 男は僕がベルトポーチを渡すと思って、間抜けな顔をして手を伸ばしていた。


 だから僕は、一歩踏み込み右脇下から丸々腕一本を斬り飛ばして、そのまま剣を振り下ろし反対の左肩から真っ直ぐ斬る。



 どっかの国では泥棒をした罪人の手を切るそうだ。


 彼は無くした腕を使い多くの人を殺した様だ……


 殺した理由も敵討ちでもなんでもない……ならばそんな腕などいらない。



 次の犠牲者は決して出してはいけない……だからこそ僕は、彼から『被害を増やす不必要な腕』を切り離した。



「う…………う!?……腕が………ぎゃぁぁ……俺の両腕……俺の………腕ぇ!!」



「!?……クソガキ何しやがるテメェ……騙し討ちしやがって……死にさらせ……ぐ!!……がぁ!?………」



 真横に居たシーフの様な男が、襲い掛かってくる事を僕は見越していた。


 だから、そいつの腕も同じ様に脇の下から上部に斬りあげようとした。



 僕はすぐに体勢を整え、その男に目をやるが既にチャックの攻撃で床に転がされていた。



 彼等の背後にいた残りの4人の冒険者に目をやると、少し後に下がり武器を構えていた。



 そして一番破壊力がありそうな武器を持つ男が、僕向けて間合いを詰めた……攻撃をする為だ。



 相手の一人が持つ武器は、動作にマイナス効果のペナルティが付く両手剣防備のグレートソードだった。



「このくそガキ冒険者が!!脳味噌ぶち撒けて後悔しろ!!」



『ブン!!』



 レベル差の効果もあった為、素で僕の反射神経が優ってしまった……


 振り下ろすモーションがばっちみ見えてしまい、斬撃の軌道も全部読み取れてしまう。



 しかし、相手の攻撃が物理攻撃だった為に、予想外の事が起きた。



『緊急回避発動』



 勝手に身体が動き、攻撃を回避する……



「!?………く……今のタイミングで避けるだと?駆け出しの癖に……くそがぁ!!」



 僕は悪漢の物理攻撃を、予定外のパッシブスキルの緊急回避で躱す。


 すると、振り下ろした両手が見えたので彼の真似をして、一気に剣を振り下ろす。



 狙う場所は籠手から出た上部分、要は防具が無い場所だ。


 幾ら切れ味が良くても、防具に叩きつければ剣へのダメージは甚大だ。


 こんな相手に馬鹿をやって、武器の切れ味を損なうのは我慢ならない。



 だが彼等にも、自分がやってきた事を思い知らせる必要もある。



『ザン!!』



「ぎぃやぁぁ!!……腕が………俺の腕………。お前なんでこんな事をするんだ!!お前には良心が無いのか?」



 男がそう言った瞬間、ガルムが無言でグレートアックスを頭に叩き込む………



『グシャ!!』



「お前達はもう喋るな!……聞くに堪えんのじゃ。儂がどれだけ堪えていたか……分かりもせず……言うに事欠いて『良心』じゃと?お前達には微塵も良心を出す気は無い!!さっさとモノを言わぬ死体になれ!!」



 ガルムがそう言って、グレートアクスを振り回し皆殺しにしようとするので、レイラが『待った』をかけた……


 そしてレイラは小さな声で『アンタの役回りじゃねぇだろうが!これはモルダーの役目だ……黙ってな!』と言うと、ガルムの前に立って話し出す……



「アンタ達……いいかい?教えておいてやるよ。あたし達の様なダンジョン探索を生業にする冒険者はね、アンタ達ゴロツキ冒険者と違って、本来は剣を向けられた時点で即殺し合いなんだよ!今アンタ達がこうして生きているのは、お前達を殺すのに私達より適任者がいるって事さ!だから黙ってただけだ……」



 レイラがそう言うと、レックは抑え込んだ男の頭部を強打して意識を飛ばす。


 そして首をコキコキ言わせから、不機嫌そうに言う。



「お前ら雑魚なんか、俺にかかれば既に10回は死んでんだよ……。殺されてねぇだけ、ありがてぇと思え。いいか?これだけは言っとくぞ?お前らは雑魚だ!……それもこの程度で人質だと?雑魚中の雑魚が調子に乗るな」



 レックはそう言い終わると、ゆっくり立ってショートソードを抜き身構える。


 彼がゆっくり立ったのは、何時でも躱せると言う意味だ。



「くそ……ガキに腕斬り飛ばされるとか……それでもリーダーか!雑魚すぎんだろうが!!」



「雑魚はほっとけ。ゴースにテッコ行くぞ!!」



「行くぞって……ジェスタ……マジか?ゴース……マジで置いていくのか?」



「まぁ腕もねぇなら役にもたたねぇしな……おいテッコ、ジェスタの言う通りだ……馬鹿なリーダーがゲロしちまった!俺たちは此処で捕まるわけにはいかねぇ。」



 てっきり観念するとばかり思っていた悪辣冒険者は、襲ってくる訳でも無く捕まった仲間を助けるわけでも無い、第三の選択肢別を選んだ。


 それは仲間を見捨てての『逃走』だった……



「これでも食らえ!!」



「「「「「!?」」」」」



「ゴホゴホ………煙幕……煙玉じゃと!?……全員攻撃に注意じゃ!!」



「ガルムさん攻撃はありません……平気です。彼等は反対方向に走って行きます!……」



「ああガルム間違いない。アイツら本当にクズだ!!……」



「な!?なんじゃと?今度は仲間を見捨てて逃げるのか!!この碌でなしどもが!!」



 僕はひとまず腕を切り落とした悪辣冒険者の元へ行く。


 そのまま失血死されても困るので、初級ポーションを使い血止めをする為だ。

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