第842話「撤退!」
ガルムはモルダーに気を使う……
スカリーの話題を避ける為に僕へ質問をした。
「それでヒロ……此処が階層主の部屋って言ってたが……どう言う意味じゃ?まさかそれも特殊条件か何かで、この狭い場所で闘うとか言うまいな?」
「このモノクルでそこの壁を見て貰えば意味が分かりますよ?……階層主の部屋やガーディアンが居る部屋が稀に幻影の壁になってます」
それを言うと、ガルム達は『壁になってますって言うより……完全な壁じゃろう?』と言ってからモノクルを見て腰を抜かす……
「きょ……巨大な扉じゃと?天井も幻影か………なんと言う事じゃ………ラック……お前も見ておけ!!」
「こ!……このモノクル俺にくれよ!………ってか……ヒロって本当に何者だよ?ブルミノタウラーをミンチにするし……何か言うと姿はあっという間に消えるし……俺が本気で走っても追いつかねぇし!!……」
「あげませんよ?だってそれ……大切な頂き物ですから……」
レックにそう言うと、『そんな懐の広い奴なら俺にも紹介してくれよ!絶対に俺にも何かくれる筈だよ!!』と言ってきた……
僕はその言葉に『確かにくれる筈……新しい人生とか……記憶も元の身体も無くなるけど……』と言いたくなるが辞めておいた。
「さぁ……もう安全部屋に戻りましょう……あの安全部屋に放置しているのが『駆け出し』と言う事を忘れちゃダメです……」
「「「「「おい!?お前も駆け出しだぞ?」」」」」
モルダー以外の総ツッコミを受けたので、僕はモノクルを返して貰うと一番で部屋から出た……
ひょんなことから階層主の居る隠し部屋を見つけた……だが、この状態で階層主とは戦え無い。
モルダーの現状では戦闘で集中力など保てず、大怪我を負う可能性がある。
そう思った僕は、遠回りに撤退を提案したのだ……
◆◇
僕達は隠し部屋から出ると、一目散に安全部屋を目指した……
「モ……モルダーさん!!大丈夫ですか?」
「そんなに憔悴して………余程怖い目に……」
「アサヒじゃ無いんだから、モルダーさんはゴーストくらい平気だと思うわよ?」
天然で返しているわけでは無い……
状況を理解しての言葉で、3人はモルダーを元気付けようとしているのだろう。
しかしながら三人は、まさか遺体が見つかったとは夢にも思っていない筈だ。
この話題の言い出し主である冒険者達も、モルダーに気を使っている様だ。
「すいません仲間が無神経な事を言ったせいで……でもその様子だとスカリーさんじゃ無かったって事っすね?どっかで生きてますって!モルダーさん!!」
「………いや……お前達のお陰だ……スカリーは見つかった。だが詳細は言えねぇ……すまねぇな……お前達もこの事は黙っててくれるか?『牛鬼組』としてオトシマエ付ける案件なんだ……」
「お……俺達……言いません!!それに牛鬼組がオトシマエつけるなら……俺たちも手伝います!!今の俺達があるのはモルダーさんがいたお陰なんですから!皆協力しますよ?帝国の冒険者だったら、モルダーさんの掛け声一つで誰だって駆けつけます」
「有難うな?もしその時が来たら……是非力を貸してくれ……この通りだ!!」
そう言ってモルダーは頭を下げる……
「や………やめて下さいよ!モルダーさん………」
「そうっすよ!俺達は少しでも牛鬼組の役に立ちたいんです……」
「ああ!その通りですよ!!」
銅級冒険者たちはそう言うと、モルダーに寄り添う様に頭を上げさせる。
僕はモルダーの精神状態が気になったので、一度地上に出る事を留守番組に伝える……
「じゃあ転移陣で一度地上に出よう……モルダーとラームは一度ギルドに立ち寄ってから、牛鬼組に帰って下さい。アユニとアサヒそしてマナカは僕と一緒に移動で……ガルムさんは……お任せします」
「お……俺もですかい?俺はお払い箱ですか?」
「ちげぇよ……ラーム……オマエはお払い箱なわけないだろう?それより先にやる事があんだよ……大親分の言葉ちゃんと聞けや……」
何気なく言ったモルダーの言葉に、全員が僕を凝視した……
「さ……さぁ転移陣はこっちだったなー……行こうか?……」
「はーい……大親分!」
「ホーイ………大親分!!」
「わっかりましたぁ!!大親分!!!」
僕は三人の脳みそお花畑娘に『早く行くよ!』と言って安全部屋を後にする……
僕達は安全部屋を出て数ブロック先の転移陣の小部屋に向かう。
「三人は初めてだよね?この場所は『転移陣』と言って、上層部から下層部までを繋ぐ特殊な装置です。コレを使えば行った階層であれば行ったり来たり自由にできます。でも一度でも起動させて移動をしなければなら無いので階層を降りたら一番最初にここを目指す方がいい。途中に安全に休む事ができる安全部屋も把握しておくと尚いいから」
僕はそう言った後、三人を魔法陣に乗せる。
僕は『念じると1階層が思い浮かぶでしょう?それで実際に移動すれば1階に行けるから』と言うと、マナカの姿が消える……そしてアサヒが続きアユニも続いて消えた……
「じゃあ皆さん……地上へ行きましょう……」
そう言って僕達は4階層を後にした……
◆◇
1階層の転移陣に転送されると、そこには大興奮の三人がいた。
彼女達が4階層までもう一度戻りたいと言うので『一度外の空気を吸ってから戻ろう』と言う。
目と鼻の先がダンジョンの出入り口なので、出口はそんな距離ではない。
「じゃあ、ラーム、モルダーを見張っててね?勝手な真似でどっかに行かせ無い様に!」
「今更何もしませんよ。叔父貴にも話さないといけない事が山積みだし、ラームを含めて話す事が多いんですから………」
「お……俺もですかい?」
モルダーは『ああ、お前も牛鬼組の一員だろう?……』と言う。
すると流石に鈍いラームでも、モルダーが大事そうに抱える麻袋の中身に気がついた様で目を潤ませる……
「ぐ……ぐふぅ……うぅ……姉さん……」
「ラーム……堪えろ……今じゃねぇ………」
「うす……親分……うぅ……行きましょう!今すぐ……ハリスコの叔父貴の所へ!!」
「馬鹿野郎……ヒロの旦那の言葉忘れたか?それに俺はモルダーの兄貴だ……そして行く場所はギルドだ!覚えとけ……ちゃんとしねぇとスカリーにまたケツ叩かれるぞ!!」
「は………はははは………いくらでも叩いてもらいます!……馬鹿やって……姉さんにまた。………俺……馬鹿だから………」
モルダーとラームはでかい身体を小さく丸めて、ギルドへ向かって行った……
「ふぅ……やり辛いのぉ……コレばっかりは…何があっても慣れん……」
「ガルム……俺たちは今ギルドに行くべきじゃない……」
「ああ……そうだな……。クレム……アンガ……このまま儂等はヒロについて行くぞ……。下手するとあの馬鹿が、また懲りずに何かやってるかもしれんからな……」
「ああ……分かった。なぁガルム………止めるなよ?」
「クレム……誰に言ってるんじゃ?ここはダンジョンじゃ……誰が死んでアンデッドになろうが『それが普通に起きる場所』……じゃろう?ワシは知らんし、そもそもワシも手が滑るかもしれんからな……斧は……うん……ヨシ!!グレートアックスにしようかの……」
そう言ってダイバーズの士気がモリモリ上がって行く……
アンガとクレムそしてアンガのステータスには『奮起・精神制御』・『破壊衝動』・『ベルセルク化』・『威圧(威圧耐性LV10以下自動敗走)』と出ている。
一言で言えば『怒っていらっしゃる』様だ……それも相当だ……
三人ともオデコには青筋が立っているので、入り口付近の冒険者はその威圧に負けて、近づいてくることもない……
「じゃあ行きましょうか……」
「…………は……はいぃぃ!……行きましょぉ!!」
僕が掛け声を出すと、変なふうにスイッチが入るアユニに……ガルムが『ぶははははは』と大笑いする……
「おっと……すまんな!若いものを怖がらせちゃいかんぞ?お前たち……」
「アンタが一番怖いんだよ……ガルム………。ほらアユニ一緒に行こうねー?怖くないよーレイラおねぇさんは!!」
アユニは『シュタ!』っと素早い動きでレイラの右横を陣取ると、アサヒも負けずにレイラに引っ付く……
「う……密着されすぎて……動きづらい………………」
そうレイラが呟きつつも、背中には抱きつく形のマナカをくっつけて転移陣の方へ歩いて行った……
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