第843話「地下5階層へ……」


「マナカはちゃんと指示を出すんじゃ!それにアサヒ!!祝福をちゃんとかけ直せ……タイミングをちゃんと体に覚え込ませろ!アユニ……お前は魔法を撃つたびに壊れるんじゃない!」



 4階層では、ホブゴブリンが群れで棲家にしている、南側の中サイズの部屋で狩りをしている。



 この周辺にはゴーストが出る様なので、僕が魔法で蹴散らす為に移動したのだ。



 この階層のゴーストは倒された後、最下層から30日かけて4階まで上がってくるそうなので、今日倒したら駆け出したちは30日程は危険な状態が緩和されるだろう……



『ウォータースフィア!!』



「ゴガァ、……」


「グ……ビャ!?………」


「グギャ!……」



 ゴーストは必ず密着した状態で姿を表すので、現れたと同時のタイミングで衝撃波を放ち破裂する水球をそこへ放つと、衝撃波で体の半分が消し飛んで短い絶叫をあげ纏めて消滅する。


 初めはウォーターバレットで仕留めていたが、撃ち漏らすと逃げていき、手近な冒険者を襲い出す。


 だから高威力の魔法に切り替えたが、手負の魔物はより危険だと実感する出来事だった……



「ガルム……休憩だよ!もう半刻はとっくに過ぎたわ……」



「そうか?なかなか筋がいいもんでな……ついつい熱が入っちまった……スマンスマン……」



「「「ガルムさん!ご指導、有難う御座いました!」」」



「なんだよ……ガルムだけモテモテかよ……俺は罠外して宝箱開けて、回収までしてるってのによ?」



「レックさん!今日も有難う。安全部屋に戻って一緒にお茶しましょう!」



「わたし、皆で食べる分のお弁当作ってきたよ?ここ数日のお礼を兼ねて!」



 アユニとアサヒがそう言って、ダイバーズの全員を誘って安全部屋に向かう。



「マジか?おお……ヤベェ……俺にも運が回ってきた様だぜ!飯だーそれもタダ飯だ!!」



 その言葉を聞いて、僕はもう昼の時間か?と思いそっとクロークから携帯を出して時間を調べる……『13:34』………もうとっくにお昼過ぎてるのか……と思うと、急にお腹が空いてくる。



 僕もアユニ達の後を追って安全部屋に急いで向かう……



「なんだよ?ヒロは飯持ちか……いいなぁ……って言うか、一体誰に作ってもらってるんだ?」



「はい?ああ……コレは宿泊先で作ってくれてるんです。こうでもしないと、メルルちゃんが満足に肉を食べれなそうなので……」



「メルルって事はディーナさんか?……」



「そうですね!旦那さんが戻ってこない限り、生活は向上しなそうなので……」



 僕はそう言いながら、あまり味のしない野菜炒めを食べる……


 ディーナはベジタリアンな訳ではないが、長い間細々とした暮らしをしている様で、自由に使っていいお金があっても野菜を中心にした買い物をした様だ。


 調味料も最小限より、少ない量しか使ってないのでほぼ野菜の味だ。



「おうぅ?………コレは……何炒めだ?………」



 勝手に僕のご飯をつまみ食いしたレックも、不思議そうに首を傾げている……



「それよりこの後の話をしましょう。一応三人はホブゴブリンとの戦闘も経験したから、いよいよ5階層に降りて魔性石を交換して、ギルドに戻りましょう……目的さえ果たせば晴れて銅級冒険者ですから!」



 僕がそう言うと、三人は驚きの顔を見せる……



「わたし調べたんです……銅級冒険者になるには、最低30日はかかるんですよ?5階層に降りるのにはそれだけ大変って事で、階層に居る相手はホブゴブリンの群れだと聞きました……」



「でも、その群れは既に相手をしましたよね?今さっきまで4階層で……」



「「「え?」」」



「じゃから……ヒロが言っとるのは今まで戦っていたのはなんじゃ?って言っとるんだよ……魔物のレベルはそこまで大きく変わらんのじゃ。だから同じ位の群れなら注意すれば戦えると言ってるんじゃよ」



 ガルムのその言葉は、僕が発するより重みがある様だ。



 当然だが、帝国のギルドで実績を積んできたガルム達の言葉の方が、信用がおけるのは言うまでもない。



「ガルムさんの言う通りですね。階層が変わって魔物のレベルが10も20も上がるわけではないです。なので注意しつつ行手を遮る個体とだけ戦い、提出したら脱出すれば済むんですよ。目的は『交換』であって『殲滅』ではないですし、そもそも階層の魔物を完全にゼロにはできません」



 細かく噛み砕いて説明すると、ようやく理解出来たのか『確かにそうだ』と頷き始めた。



「じゃあ飯を食ったら下層階段に向かう……で良いんじゃな?……じゃあワシはアユニ特製肉炒めを貰おうかな……ディーナは『贅沢は敵だ』と毎回言っておるからな……。味が薄いのは既に知っておるしのぉ!」



 そう言ってガルムは、濃いめの味付けのアユニの料理をムシャムシャと食い始めた。



 ◆◇



 食事を早々に終えた僕らは一路下層への階段へ向かった……


 途中に階層主が居る『4階層の隠し部屋』の前を通ったが、スカリーの姿はなかった。



 何処かで冒険者を襲っているわけではなく……モルダーと共にダンジョンから出てあの世に旅立ったと信じたい。



 ガルム達は勿論僕も、部屋の事を一切アユニ達には説明しない……


 何故なら、変な情報で彼女達のメンタルに影響があれば、スカリーの二の舞になる事も起こり得るからだ。



「さぁ……此処が、目的の地下5階に降りる階段だ……」



 ガルムはもとより、ダイバーズのメンバー全員が僕達に早く降りる様に促す。


 その理由は簡単だ……


 未だ嘗て2日で5階層に到達した奴など居ないのだ。



 周囲に注意しながらも、僕を先頭にして階段を降りる……



「皆さん此処が目的の階層……地下5階層です。階層構成を調べつつギルド職員を探しましょう。ひとまず探す場所は転移陣に、安全部屋です」



 そう言ってから魔法の地図を出す……目指すは安全部屋と転移陣だ。



「おい!まだ見つからないのか?ブーンお兄様の宝剣は!?……この出来損ない共の冒険者め!!」



 聞き慣れた声とは言えないが、間違いなく『聞き覚えがある声』と差別的な発言だ。


 怒り真っ只中のモルダーが、今この場所に居なくて本当に良かったと思うくらい、怒声をあげていたのは弟のボーンだ。



「おお!この階におったな。相手にしている群れの数も中規模で丁度いい。奴等はホブゴブリンの餌にでもしていくか……」



 ガルムは力強くバトルアックスを振り回すと、本気で殺しに行こうとする……



「ガルムさん、今はダメですよ?あの貴族は死んでも当然ですが、貴族を守れなかったゴロツキの様な冒険者は、責任を取らされて奴隷落ちになってしまいます」



 僕がそう言うと、アンガは『しらねぇよ……あんなクソ貴族に仕える能無し共なんか、共に死んでくれれば俺は清々するぜ……』と過激な表現を口に出す。



 だがその言葉には、ちゃんとした理由があった。



 貴族のどら息子二人だけでスカリーを騙した上、あの犯行に及んだとは120%言えない。


 何故ならスカリーは、あの兄弟二人を知らない筈がない……



 スカリーと同じ家で暮らしていたモルダーが、そう話したからだ。



 その上、あの兄弟は手に持った武器をまともに扱えてはいないのだ……。


 離れた場所でただ闇雲に振り回すだけで、戦闘の邪魔にさえなっている。



 銀級に近いとされたスカリーが、その攻撃を貰うはずがない。


 兄弟以外の第三者がいて、スカリーの行動が制限される状況下になってはじめて、彼等の不意の一撃は成立する。



 しかしながら、アイツ達の父親が管理する騎士団にやらせた可能性こそ100%無い。


 あの場にあった貴族の短剣がその証拠で、仕える主人の首を絞める様な証拠を、騎士団が残すはずが無い。


 そうなると残るは、悪事を成立させるための『金で雇った冒険者』しか出てこない。



 その冒険者が今一緒にいる彼等なのか、既にもう始末済みなのかは不明だが……



 それに人知れず始末をしてしまえば、スカリーの無念もそのまま闇に葬ることになってしまう。


 それはあまりにも宜しくない……と言うのが僕の意見だ。

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