第841話「失意のモルダーとスカリーの死因」


「モルダー……」



 言葉を無くしてボーとしているモルダーに、ガルムが声をかける。


 だが流石になんと言って良いかわからない様子だ。



 しかし僕は彼女がどうしてこの場所を知っていたのかが気になった……



 そして僕はスカリーの遺体を見ていて異変を見つける……



「ガルムさん………此処を見てもらえますか?コレは……刺し傷じゃないでしょうか?」



「うん?………なんて事じゃ……コレは……間違い無く刺し傷じゃ………じゃが……おかしいな。この様な傷は不意の一撃でしかできない傷じゃぞ?」



 ガルムがそう言った後、ラックがしゃがみ込み覗き込んでから、その直後にモルダーの顔面を強くはたく……



「………おい……モルダー!惚けている場合じゃないぞ?テメェの目は節穴か?……コレは……魔物の仕業じゃねぇぞ?……お前馬鹿だろう?……敵討ちする気ねぇのか?……よくみろ!コレは貴族の持つ短剣だ……帝国のエンブレムがついてやがる」



「!?………待ってくれ……ラックさん……何が言いたいんだ?スカリーを殺したのは魔物じゃねぇのか?まさか……人間の仕業か?……スカリーをこんな目に合わせたのは……魔物じゃ無くて……人間なのか!?」



「それを今言ってんだろうが!!……コレはお前の足元に落ちてた短剣だ。よくみろ……一般人は持てねぇ代物だ。それに刃に刻印がされてる。コレで帝国の貴族って事は丸分かりさ!おいレイラ……このエンブレムは何処の家だ?」



「うん?……イケ好かないタカリークソ貴族様だね……スカリーがアンタを待っていた理由……それは殺された相手を教える為もあるかもね?……」



 ラックは、スカリーは相手を知らせる為に此処へモルダーを呼んだと言い出した……


 彼はパーティー内で情報絡みを扱う関係上、その手の情報には強かった。


 そして部屋の状況を見て想像を始める……



「刺された時は此処の場所じゃ無かったんだろうな……魔物と戦っていたなら、お前が入った瞬間も魔物がいるはずだ。モルダーお前は何も倒してねぇんだろう?」



「ああ……倒してねぇ……」



「なら『何に刺されたか』になるよな?……そして貴族の短剣があるのに、その貴族は拾ってねぇ……本来消えるはずの死体も消えねぇ……アイテムも消えねぇ……何でかは俺にもわからねぇが……」



 それについては僕には既に答えが出ている。


 彼女の遺体がその白骨化した手に持っているタリスマンに、その効果があったのだ……



 僕は仕方なく『モノクル』を出して説明する。



「消えなかった理由はもうわかってます……マジックアイテムの効果です……モルダーさん心して聞いてください。皮肉な事に……彼女の遺体は、貴族が持っていたタリスマンの効果で護られていました……そして……残念な事に、この部屋から奥は『階層主の部屋』ですね……」



 僕の言葉にモルダーを含めて全員がびっくりする……


 モルダーは遺体の件で、ダイバーズの面々はマジックアイテムと階層部屋の情報の両方に驚いた。


 僕はモルダーにモノクルを渡す。



「コレでみれば一目瞭然です。鑑定できますので……アイテムを見て下さい……」



 モルダーは僕が指差す方向を恐る恐る見ると、スカリーの白骨化した手の中にあるマジックアイテムを発見した。


 そしてモノクルを使ってアイテムを見る。



 僕はモノクルで見ていない人の為に、その効果を説明する。



『聖なる息吹の結界(タカリー家エンブレム入り)……帝都寺院にてタカリー家の依頼により造られたマジックアイテム。力ある高僧が77日間祈祷をあげて結界の力を宿したタリスマンで非常に呪力が高い。価値大金貨50枚。効果・タリスマンの周囲7メートルを結界で保護する。(遮蔽物による区切りは受ける) 結界内部は穢れの侵食を一切受けず、魔物を跳ね除ける。タリスマンはダンジョンの吸収効果を阻害する。袋(遮蔽物)などに入っているとその内部にしか効果がない。』



「………これがアイテムの説明です。彼女の遺体が守られた理由が分かりましたか?」



「……そんなマジックアイテムが!?ダンジョンなのに遺体が残っている理由がようやく分かったわ……。貴方は何故効果をそこまで詳しく知っているの?モノクルも覗かずによく話せるわね?」



 僕の言葉に反応したのはモルダーではなく、レイラだった……


 ひとまず僕が持つタリスマンの話をする……そこから真犯人への話に持っていく為だ……



「コレに似た結界のタリスマンを僕は持っています」



 そう言ってから、僕が持つ予備のタリスマンを見せる……



「ですが今はこの事より、スカリーさんの話をしましょう……そのタリスマン鎖が引きちぎられてますよね?スカリーさんはダイイング・メッセージを残したんですよ……」



「「「「ダイイング・メッセージ!?」」」」



「死ぬのが分かっている以上、その犯人の手がかりを残す行為です……。この場合……そのタリスマンのエンブレムに意味があるんですよ……貴族の持ち物ですよね?短剣同様……」



 僕は、短剣とタリスマンがワンセットである話をする。


 凶器が貴族の短剣で、その犯人の手がかりがタリスマンであると……



 そしてこのタリスマン効果を、スカリーは聞いていた可能性さえ出てくる。


 引き千切って手に持っている以上間違いないだろう。



 問題はこの場所だ……何故、スカリーはこの場所に逃げ込んだのか……


 地上に出れば息がある以上間違いなく貴族の仕業と言えて、周囲の冒険者も悪辣貴族の悪質さが分かっただろう。


 それにギルド職員がポーションを使えば、運が良ければ助かっただろう。



「彼女はどうして此処に逃げ込んだかはわかりません……。でも……貴族達はこの場所を知らない筈です。理由は、犯行を示す二つのアイテムを彼女が持ったまま此処に逃げ込んだ後、貴族達によって回収されてないからです」



 僕はあえて『貴族達』と呼んだ……その理由は簡単で、刺された跡が前だけではないからだ。



 モルダーは恐る恐るスカリーの掌から『タリスマン』を取り出して、その刻まれたエンブレムを見る……



「あのクソ野郎……結局こう言うことか……。あの武器はスカリーの物で……犯人は彼奴等だ……。殺してやる………俺が……スカリーの仇を……」



「スカリーさんの事を考えたのならば、直接手を下す方法での仕返しはやめた方がいいですよ?……彼女はそんな事を望んではいないと思います。じゃ無かったら、ゴーストにまでなって『待ってた』とは言わないのでは?」



 僕はモルダーの為に言わなかったが、どうせあの二人が死んでも怨みははらせない……そう思った。



 それに息子達が出来底ないの脛齧りなのであれば、体面を気にする貴族であれば面倒に思っている可能性もある。


 死んでくれて清々される……と陰で言われるのも癪に触る……



 話では相当出来が悪い兄弟の様で、同じ年代の周囲の貴族は既に爵位を貰っているそうなのだ。



 するとガルムも同じように言い始めた……



「モルダー馬鹿な考えはやめんか!お前……スカリーがそれを望んでいると思ったのか?……彼女はお前の元に帰りたかったから、この壁の前でずっと待っていたんじゃろう?それも……誰も襲わない様に壁を見続けていた……その気持ちを無駄にする気か?」



「でも……ヒロの旦那にガルムさん……彼女が苦しんで死んで、奴等がお咎め無しじゃ……あんまりじゃ無いですか!!……腕の1本でも切らないと……気が済まないです……」



 僕にも気持ちは充分に理解できるが、スカリーは猛反対の意思を示すに違いない……



「でも……貴族不敬罪で縛首に合うのはモルダーさんですよ?……もっと効果的に……そして後悔しても仕切れない様に、より残虐に仕返しをするべきでは?仕返しは何も力で解決するだけではないでしょう?」



 僕はそう言ってから、タカリー家の転落計画を話した……


 ヤクタの時と同じで、彼等には痛い目を見て貰い、次手に地獄に行って貰おう……


 親がどんな相手かは分からないが、馬鹿な息子の責任は親にもちゃんと取って貰おう……



 ◆◇



「モルダーさん……今はこの場所から出ましょう……。スカリーさんの為にも、この場所に留まるのは間違ってます。一度僕達も地上へ帰ります。転移陣を使う必要もあるし、安全部屋に残してきた彼女達の件もありますから……」



 僕はモルダーとラームには、彼等にとって大切な人であったスカリーの弔いを先にして貰おうと思い、そう切り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る