第840話「スカリー・クリプティッドと謎の部屋」
ガルムは怒りに任せてモルダーを殴ってにお灸をすえる……
「いいか?モルダーよく聞け……ヒロはお前に『帰れ』と言ったんじゃ!……なのについて来てこのザマはなんだ?万が一冒険者が巻き添えで死んじまったらなんて言い訳する?お前がクソ貴族と言っていたが、今のお前は今クソ冒険者じゃろうが!!このアホンダラが!!」
『ズガン……』
「ぐは………」
「いいか?冒険者には死んでいい命なんか一つもない!それに周りが迷惑をかけて摘み取られていい命も一つだって無い!最低限のマナーが守れんのなら今すぐ帰れ!!邪魔って事じゃないぞ?ダンジョンでは無能に用はない!!消え失せろ!!」
「ぐぅ………スカリーが………スカリーが………いるかもしれねぇんすよ……ずっとこんな薄暗い場所で……俺を待てたかも……ううううう……」
「それで待ってたからって、貴方は着いていって死ぬんですか?モルダーさん?……ゴーストの類の発生条件は未練と怨念です……スカリーさんが万が一ゴーストになっていたなら……貴方への未練かもしれません。ですが……貴方が死んだら仲間はどうするんですか?放っておくんですか?」
「!!………うわぁぁぁぁ………ううう………出来ねぇ!俺の兄弟分を捨ててはいけねぇ…………うわぁぁぁぁ…………すまねぇ……スカリー………すまねぇ………」
モルダーが泣き崩れて、その場に武器を落として座り込む……
すると通路の一番奥に女性のゴーストが現れた……
『モルダー?…………モルダーなの?』
「!?………ス………スカリー?………」
『モルダーなのね?………長かったわ………いつか来てくれると思って。ワタシはこの薄暗い階層を漂い続けた……今行くわ……貴方のそばに……愛するモルダー……』
「な!?なんじゃと?…………念話?………ゴーストが!?………い……いかん!ゴーストではないぞ!ありゃぁ……バンシー以上のバケモンじゃ!全員武器を持て!!く……来るぞ……」
「くそ……マジかよ!?……アサヒ連れて来るべきだったんじゃねぇか?バンシーでも絶叫系スキルは耐性が無い俺達は即死するぞ?………モルダー担いで逃げるしかねぇよ!ガルム!!」
「ガルム……アタシもラックの意見に賛成だ……バンシーで手に負えないのに……それ以上ってなったら死んじまうどころか、アイツの仲間決定じゃんか!!」
慌てふためくダイバーズのパーティーメンバー……ガルムのみがモルダーに真横に歩み出ている。
ガルムは油断無く武器を構えるも、女性冒険者の格好をしたゴーストはゆっくり近づくと、モルダーの側で立ち止まりしばらく眺めた後『クルリ』と向きを変え元に場所へ戻っていく……
そして突き当たりの壁に行くと、ゴーストになったスカリーは壁を触る行動をとる……すると壁に吸い込まれるように消えてしまった。
「き……消えちまった………何なんだい?アタシには何が何だか……」
「皆は行ってくれ……スカリーは俺を待ってたんだ……。此処でアイツが誰かを殺す前に……俺が落とし前をつける……。アイツはまだ誰も殺しちゃいないって話だ……だから……誰も殺させない……」
そう言ってモルダーは落とした剣を握ると、力強く立ち上がる……
「俺が………俺がやらなきゃダメって事なんだ……スカリーはそう言ってるんだよ!!……だからアイツは誰も殺さず……自分が消えるのを待ってるんだ……だから……『この俺を待ってたんだ』……ようやく意味がわかった………『誰も襲わないゴースト』の意味が……長く待たせ過ぎちまった」
モルダーはそう言いながらゆっくりと息を吐いて、一歩ずつ壁の方へ向かっていく……
僕は何故壁に消えたのか……
本当のモルダーの言う通り『死ぬ事』を待っていたのだろうか?
と思ってしまう……
ダンジョンは非常に姑息だ……
感情を利用して弱みを突いてくる……今心が一番衰弱しきっている人間は『モルダー』で間違いがない……
僕はモルダーの気持ちを考えつつ、悩みながらも魔法の地図をクロークから取り出して開いてみる……
「!?………駄目だ!!モルダー……罠だ!その先には『部屋』がある!!」
僕が大声を上げたが既に遅かった……
モルダーが壁に触った瞬間、彼のその姿は消えていた……
「へ……部屋じゃと!?………」
「ガルム!!………消えちまった……モルダーが…………」
ガルムがびっくりして僕を見て、レックはモルダーが消えた事で慌て出す。
僕はモルダーが消えた壁に向かって一直線に走り出す……
今ならまだ間に合う筈だ……と祈りながら……
部屋から連れ出して、なんとか次の対策を練らねばならない……心が弱っている相手を取り込む強敵だ……
戦闘など、ほぼ間違いなく冷静に出来るはずがない……
「ヒ……ヒロ!?…………いかん!!アイツを止めるんじゃ!!………あの化け物がいる部屋に行く気じゃ!!」
ガルムが止めるも、僕は壁に張り付く……そしてゴーストが触ったあたりの壁を見ると1箇所だけ魔法印が刻印された場所があった……
僕はそこを即座に触り転移をする……
『ブィィィン』
「ヒロ!!いかん……いかんぞ……幾らお前でも………ああ!!くそぅ…………全員腹を括れ!!行くぞ!!……」
僕が消えた後、ガルム達は壁に走り込んだ……壁をすり抜けて進めると勘違いしたのだ……
一番最初を走るのはレック……
俊敏かつ感知持ちなので、一番最初に飛び込み危険回避行動に注力し、危険を後続に伝える為だった……
『ドカン……』
「イッテェ………あ!?待て待て!ストップだ!ガルム来るな……此処は幻影の壁じゃ……ぐえぇぇ………」
6人は壁に自分の身体を強かに打ちつけた……
◆◇
「うう……………ううう………」
「!?」
転移した先で泣き声が聞こえた……
僕はクロークから剣を抜き放ったが、その声の主がモルダーだと気がつくのには時間は要らなかった。
「うううう………ヒロの旦那……来てくれたんですかい?………スカリーが見つかりました………こんな酷い姿に成り果てて………ううううう………」
僕は地面にへたり込むモルダーを見る。
すると、彼の膝の上には埃に塗れて薄汚れた装備に身を包んだ、髪の長い白骨化した遺体があった。
「アイツ……自分の居場所を知らせる為に待ってたんすよ………ゴーストになっても意識を保ってるって……相当頑固っすよね………うううう………」
「でも……頑固者だったお陰で……モルダーさんの誤解だってわかったじゃないですか……彼女は意地でも冒険者は襲わなかった……そうでしょう?」
「そうっすね…………俺が信じてやらないでどうするんだって……皆にも怒られちまう……うううう…………」
僕は遺体を包む為の麻袋を、そっとモルダーの足元に置く。
「ちゃんとお別れをしてください。彼女もそれを望んでるのでしょう……僕は……皆を呼んできます……」
「はい………」
僕は壁を隈なく見回すと、魔法印がある場所を発見した……
多分この壁の行き来は魔法印を触って移動するタイプなのだろう。
そして壁に向こう側では、ひたすら壁を叩くガルム達を見つけた……
「お!オヌシ……………無事か?ヒロなのか?………バケモンじゃ無いよな?」
「ヒロの場合元がバケモンみたいだから……どっちにしてもバケモンだな……」
レックは呑気にそんなことを言っているので、僕は壁の向こう側の事情を話す……
「なんじゃと?遺体じゃと?死んでダンジョンに吸収されず?……残ってると言うのか!?どうしてじゃ?どうやってそんな事が?………あ……いや……今それはどうでも良いな……そうか……あのゴーストはスカリーじゃったか……」
「じゃあ皆さん……此処はこの壁の魔法印で移動できるようですので、触って移動してください……」
そう言って僕は先に移動した……
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