第839話「モルダーの暴走と怒るガルム」
「あ!?」
僕はモルダーを探していて、まさかの別のゴーストの群れを発見した……
しかし女性冒険者のゴーストではなく、このダンジョンで非業の死を遂げた冒険者達の成れの果てのようだ。
「おったか?………く!?ありゃ……ゴーストでも目的の女冒険者じゃ無いぞ?……なんじゃ?奴等どこ見ておる?」
「ガルム!!そんなこと言ってる場合じゃ無いよ!!……感知に引っかかったんだけど、曲がり角の先には駆け出しが居る!ボブゴブリン相手にしてて背後の守りが手薄なんだ……ありゃ見えてない!!」
「レイラの言う通りだ!あのゴーストは駆け出し4人を狙ってるようだぜ?今すぐ助けないと、其奴等はゴーストの霊障を受けちまう。相手はホブゴブリン4匹にゴースト5匹だ!……霊障効果は一時麻痺だ。いそがねぇと駆け出し達は、ホブゴブリンの攻撃をモロに受けちまう!」
僕はレイラとレックの説明で、ゴーストが駆け出し冒険者の背後から襲おうとしている事を知った。
『瞬歩!!………瞬歩!!………瞬歩!!』
今は女性ゴーストに構っていられない……瞬歩でゴーストまでの距離を一気に縮める。
「ギヒヒヒ!!」
「ゲヒィゲヒィ……」
「う……うわぁ………ヤベェ………ゴ……ゴーストの群れだ!!」
「ヤベェも何も……前にはホブゴブリンが4匹いるんだぞ?挟撃じゃねぇか!後衛何してやがるんだ!!」
「突然姿を現したんだ……感知持ちがいねぇんだから………無理言うな………安全部屋に逃げ込むぞ!」
「どうやってだよ?壁を通り抜けられねぇだろうが!!……ぐわぁ!?……くそ……ホブゴブリンに斧で籠手ごと肉を抉られた……」
絶叫が響く中、どうにかゴーストの近くまで来た僕は、物理攻撃無効のゴースト相手には手に持つ武器は意味が無いと判断してすぐにクロークへしまう。
そして両手でウォーターバレットを射撃する準備をする……
「ホブゴブリンをぶっ倒して走って逃げるぞ!ダメージは覚悟………って……だ……誰だ!?アンタ?……」
『ウォーターバレット!!』
「………ギヒヒヒ……ギ……ヒ!?………『バシュン』………ギィ!!……ギィヤァァァ!?」
僕は説明もする時間が惜しかったので数匹を仕留める……敵に当たると『バン!!』と破裂音をたててゴーストが破裂する……
「ギヒ…………ギョ!?…………プペ………」
笑い声を上げている最中に頭部が破裂するので、奇妙な声を上げてからゴーストは消え去る……
「ゴーストは僕がなんとかおさえてます!今すぐその怪我の手当てと、ホブゴブリンの前衛対処を!」
「「「「え!?」」」」
「早く、対処が遅い!!敵は待ってくれないんですよ?」
「「「「は……!はい!!……」」」」
「傷薬で怪我を塞ぐ間、悪いが盾役と指示を頼む!」
「ああ!任せとけ……後衛は射撃で後続を蹴散らせ!ホブゴブリンを今すぐ蹴散らすぞ!!」
「「おうよ!!」」
僕はゴーストの頭を狙いウォーターバレットで仕留めていく……
冒険者4人組は、ゴーストの相手がなくなったお陰で、なんとか戦況を立て直すことができたようだ。
「これでホブゴブリンは最後だ!アンタ!!スマンな……今すぐ祝福が使える回復師をすぐに呼んでくる!!全員傷薬で彼を………え?………あれ?………終わってる?………」
「ご苦労様です……コッチは終わってるので平気ですよ?途中で戦闘に混ざると、貴方達が逆に混乱すると思って見てました……」
僕はそうってから瞬歩で一気に走ってきた通路を見ると、ようやく追いついて来たガルム達が見えた。
「はぁはぁ……大丈夫か?……っていうか愚問だな……ヒロがいて大丈夫も何も無いか……ぜぇぜぇ……」
「はぁはぁ……そうじゃぞ?……ゼェゼェ……この距離移動して息を切らさず……はぁはぁ……ゴースト仕留めて壁に寄りかかってるんじゃ……。心配など無用じゃ!!………グビグビ……ぶはぁ………。流石にフルプレートで全力疾走は辛いのぉ……」
「「「「ダ……ダイバーズの皆さん?…………」」」」
戦闘も無事終わって少しゆとりが出たのか、周りを冷静に見ることが出来たようだ。
「ちょっと聞いていいですか?男性冒険者がこっちに来ませんでしたか?女性冒険者のゴーストを探して、中央エリアの南部側に勝手に突っ走ってしまって……」
「女性冒険者のゴースト?あの襲わない奴か?アイツならこの南通路の壁を越えた場所にほぼ毎日いるぜ?……男性冒険者と言えば……さっき叫んでた奴か?」
「多分そうだろうな?思い当たりそうな冒険者はソイツだけだろう。でも早く行ったほうがいいぜ?大声あげてたから下手するとホブゴブリンを集めてるかもしれねぇし……。この部屋から真っ直ぐ行った辺りから声が聞こえて、そこも中央エリア南部側だから」
僕達は有力な情報を得た。どうやらショートカットしたのか部屋を跨いで移動しているらしい……
「有難う御座います。これ+1修正付きの傷薬です。その傷口だと通常のだと、多分傷が開きますので使ってください……」
「い!?……ぷらすいち修正付き?………え?貰ったとしてもお金が……」
「それお手製なので!薬用瓶は捨てずにギルマスに渡してくれれば助かります。再利用するので!先を急ぐのですいません!……では……」
「あ………『でわ!』ってあの………ちょっと!!銀貨1枚くらい……ああ………」
「いいから使っとけ!お手製って言ってたじゃろう?どうせかかってても瓶代金と薬草代じゃろう。元手はタダみたいなもんだ……。一度回復する為に安全部屋に行ったほうがいいぞ?はぁ……アイツも走るんが速いんじゃ……こっちはプレート着込んでるっちゅうに……じゃあな!」
そう言って僕達は4人組パーティーと別れ、声が聞こえた方と言う場所へ走っていく。
◆◇
「くそ!!邪魔すんな……ホブゴブリン程度が………おぅらぁ!!」
モルダーはそう言って迫り来るホブゴブリンに裏拳を入れると、鼻が凄い音を立ててひん曲がる……
『グシャ……』
「ギエェェェェ!!」
「馬鹿ナ人間ダ……コレだけの相手二!!野郎共ヤッチマエ!!……」
「グゲゲゲゲ!!」
「シネェ!!」
「邪魔だって言ってんだろうが!!……くたばれコラァ!」
『ズバ!……ドシュ………』
「ギエェェ!?」
「ザン!……ズバ…………ザシュ………」
「怯むナ!取り囲メ!!いずれ疲れテ、動けなくナル……カカレ!!あの武器モ、鎧モ殺した奴の物だゾ!!」
「ギヒャヒャヒャ!!俺が貰ウ!!」
「俺は鎧ダ!ギヒヒヒ」
僕達が南側通路に到着した時には、ホブゴブリンに取り囲まれているモルダーが居た。
モルダーは十字路で大声を出したようで大部屋からも続々と魔物が寄って来ていた……
本来部屋の魔物は部屋から出る事は無いが、モルダーはよほど目立った行動を取ったのだろう。
冒険者における迷惑行為だ……
「あの馬鹿何をやっとるんじゃ!……此処はアイツに取って雑魚エリアでも他の冒険者にしてみれば命に関わるっちゅうのに……レイラ!ラック……遠距離じゃ!後続を断ち切れ!……」
「はぁ仕方ないねぇ……」
「全く……モルダーの野郎……貧乏くじは俺らかよ!!」
そう言って二人は次々にホブゴブリンを仕留めていく。
そしてガルムはモルダーの元にゆっくりとした足取りで向かっていく……。
「コレで最後だ!!うらぁ………はぁはぁ………」
『ザン!!』
「この………大馬鹿者が!!」
最後の一匹を倒したモルダーの元にガルムは行くと、思いっきりぶん殴る……
『ドガン……』
「ぐはぁ………いってぇ………な!?何するんですかイキナリ………ガルムさん……」
「何をするじゃと?よく見てみろ!!お前がやった行動を……此処の万が一駆け出しがいたら……大怪我では済まんじゃろうが!!」
「!!」
モルダーはガルムに言われて、ようやく気がついた。
彼は自分の目的に為に、他の冒険者の命を危険に晒していた。
モルダーにとって雑魚でも、周りはそうでは無い……
更に、目的では無いゴーストも引き寄せる可能性さえある。
その相手がモルダーでは無く、他の冒険者である可能性だって出てくるのだ。
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