第837話「4階層とゴースト」
ラームは戦闘訓練当初、完全な指示待ちをしていた為に予備動作に時間がかかり、前衛の連携が上手く機能していなかった。
しかし、今はそれも無くなり非常にスムーズだ。
「感知で敵を把握したら合図するので、そこからはマナカさんの指示で戦って下さい。やり方は今みたいな感じで。因みに、突き当たりのT字路に左右に敵が居ます……ではマナカさんよろしくお願いしますね?」
僕がそう言うとマナカは手頃な距離まで進むと、同じように転がっている石を投げて、敵を誘導して見事に敵を仕留めた。
「マナカは完全に私達のリーダーだね!」
「うんうん……戦士でリーダーシップあるし!任せてて安心するー」
「アサヒとアユニは調子に乗らないの!ヒロさんが言った通りにしているだけだから……そもそも感知で教えてくれてるのはヒロさんでしょう?」
マナカはそう言うが、笑顔を見ると満更ではないと伺える。
それを聞いたガルムはマナカに……
「大概リーダーは判断するだけじゃぞ?感知は儂も持ってない。レイラやレックがそれをしてくれてるんじゃ。指示向きの性格は確かにあるからな!それを養って行くのは大切じゃぞ?マナカもリーダー目指して、これからも頑張るといいじゃろう!!」
そうガルムが話した後、リーダーの仕事をマナカがここぞとばかりに質問しつつ、カビ臭いダンジョンを進む……
漸く僕らは安全部屋に辿り着いた……
◆◇
「一応無事に安全部屋には辿り着きましたね……。この後は転移陣を使えるようにして、そのあと中央エリアで少し戦ってホブゴブリン討伐を経験してから下に降りましょう。下層はホブゴブリンが多いんですよね?」
僕が行程を説明すると、ガルムが……
「うむ。そうじゃな……。じゃが不思議なんじゃが……どう見ても3人のレベルは既に……」
「!?………ガルムさん!!」
「ん?………なんじゃ?…………あ!!………」
ガルムは天然なのだろう……思った事を口に出してしまう事があるようだ。
しかし運がいい事に『3人も天然』だった……
「えへへへ〜気がついちゃいました?レベル上がったみたいなんですよ!これは5階まで降りてから鑑定スクロール使うのが楽しみですよー!」
「そうそう、昨日3人で話してたのよね!絶対にレベルが3つは上がったんじゃ無いか!って………」
「昨日マナカめっちゃ興奮してたもんね?……でも私もレベル1を脱出だわ!3つ上がってたら私はレベル4よ?だからゴブリンも怖くなくなったのかしら?」
それを聞いて呆れ果てるガルムは……『ヒロが関わると馬鹿が移るのか?………はぁ……嘗て無い程の難題じゃ……』と言った。
しかし僕達のその、のほほんとした空気は終わりを迎える……冒険者達が入ってきて話していた内容に、モルダーが過剰反応を示したからだ。
「見たか?あれがこの階に現れる『襲ってこない幽霊』だぜ?変だろう……普通ゴーストっていうと襲ってくるのに……自我があるっていうか……冒険者の時のままって感じだろ?」
「ああ……だけど壁の中に消えていったぞ?間違いなく誘ってるんじゃ無いか?後をついて行ったら向こうの仲間入りって感じでよ……」
「だから皆言ってんだよ。あのゴーストには近ずくなってな!間違いなく他と違う……『知恵』があるとしか思えないからな!『怨念』じゃ無いのが手に負えねぇ……。ああ言うのがいずれ『リッチ』になるんじゃねぇかな?」
「でも髪に長い女性冒険者のゴーストがリッチって……魔法使えそうじゃぁねぜけどな?」
そう冒険者の一人が言った瞬間、モルダーが男の肩を引っ張る……
「そ………そいつは女の冒険者のゴーストなのか?……髪が長い?……何処にいる?……そいつは何処に?」
「え!?………ああ………そうだったぜ?……何処って大広間の通路沿い南側だ。此処じゃ有名だろう?襲ってこないゴーストが居るってのは……この階層じゃ………ってかアンタ……。帝国の武器庫、牛鬼組のモルダー頭領じゃねぇか!?……ダンジョン復帰したのか!こりゃめでたいぜ!」
「ジョン……マジか?モルダー?あのモルダーさんか!?……うぉぉ!マジじゃねぇか!駆け出しの為にアンタ……復帰してくれたのか?……俺は駆け出しの時に、アンタ達に武器を融通してもらってたピエールだ。今は銅級資格も手に入れて冒険者になれたよ!アンタ達のお陰だ!!仲間は元気か?」
「そ……そうか!そりゃよかった!それより、今言ってた話をもっと詳しく教えてくれねぇか?」
「うん?………あ!!………ま……待てよ………あのゴーストには見覚えがあるって皆言ってたけど……アンタを見て思い出した!!モルダーさん……アンタの相方スカリーさんに似てたんだ!!」
「あああ!たしかに……。普段は店で店番してたから、冒険者の姿はなかなか拝めねぇって話題が持ちきりだったもんな?……」
「………いやいや………そんな筈ねぇよ!お前たち馬鹿を言うな!!モルダーさん……絶対俺達の見間違いだ!女性冒険者なんか山ほど居るんだ!!ちょ……モルダーさん!!」
モルダーは話が終わる前に、部屋を飛び出して行く……
「不味いぞ……奴は冷静さを欠いておる。ヒロ行くぞ!!駆け出し3人はここにおるんじゃ!ゴースト相手ではお前達は邪魔になる……」
「わ……私は回復師なので、祝福が出来ます!………ゴーストは大の苦手ですが……モルダーさんを放っておけません。だから……い……一緒に行きます!」
アサヒはそう言って、必死について行こうとする。
「アサヒさん。申し訳ないけど此処にいて下さい。今はモルダーさんだけを連れ帰るのが目的ですから。ゴーストと無理には戦いません。それにもじ闘う事になればガルムさんたちが居るんです。この階層のゴーストは駆け出しには強敵ですが、ガルムさんにとっては雑魚です」
僕はアサヒにそう言うと、マナカとアユニに彼女を見張っているように伝える。
「じゃあラームさんは彼女たちが此処から出ないように見張りを!もし彼女達に絡む輩が居たらお願いしますね?メンバーが分断されて、これ以上問題が増えると困るんです……」
僕はそう言った後『ではガルムさん行きましょう!』と言って部屋を出る。
◆◇
『モルダー目線』
「はぁはぁ……そんな馬鹿な事があってたまるか!!スカリー……お前のはずが無い……。お前は誰より駆け出しを心配してた……それなのに駆け出しを襲って殺しているだなんて………もしそんな事をしていたら……俺は……俺は………はぁはぁ………」
モルダーは只ひたすらダンジョンを全力疾走で突き進み、4階層大部屋南部を目指した。
スカリーと言う女性は、モルダーが奴隷商の売り物だった時からの付き合いだった……
モルダーはハリスコに買い取られる際に、生意気な事を言った……『スカリーと共に自分を買い取る気がないなら、絶対に行かない……脱走してスカリーの元へ戻ってやる』と言ったのだ。
しかし子供奴隷の吐いた生意気な言葉など、奴隷商が鞭を打てばすぐに黙る。
奴隷商は折角の客を逃したくないので、即座に黙らせようとしたが、ハリスコはその行為を止めさせた。
意外にもハリスコはその条件を呑んで、モルダーと共にスカリーも買ったのだ。
突然対して役に立たない子供の奴隷が売れたのだ……奴隷商は大喜びで『服従の印』を押そうとしたが、ハリスコはそれさえも拒んだ。
モルダーはハリスコを意外に思ったが、その考えをすぐに改めた……主人であるハリスコは幼女愛好者だと思ったのだ。
しかしそのハリスコは予想外の行動に出た……商団に戻るなり、スカリーには目もくれずモルダーを溺愛し始めたのだ。
そしてモルダーを養子に迎え、スカリーをモルダーの側仕えにした……
『モルダー目線……次話へ続く………』
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