第828話「ゴロツキ・中編」


 帝国騎士団長は構成員の人数聞いて、若干心配そうな表情を浮かべる……



「13名か……騎士団の下っ端でよければ今巡回中だから呼べるぞ?」



「13人くらいなら問題はないです。町民ならゴブリン以下ですし。元冒険者もランクにもよりますけど、金級冒険者がゴロツキはし無いでしょうから……」



「そ……そうだな……金級冒険者は間違いなくゴロツキなんかし無いな……そもそも十分金がある。ゴロツキをやる意味が無い……からな?……そうか金級冒険者……か……」



「嫌だなぁ勘繰ら無いでください!金級冒険者は見かけただけですよ?アスマさんとかトラボルタさんとか……遠くから見てたくらいなんですから……」



 細目をして騎士団長は僕をみる……


 しかし僕は目を逸らして、ディーナに話をする。



「買い物の続きはこの騎士団団長にお願いしたので、買い物はまず安心して出来ます。ちょっと一仕事してきますので!メルルちゃんもママと一緒に居てね?危険があれば、すぐにこの人が相手をボッコボコにしてくれるはずだよ!なんせ騎士団の偉い人だから!もうお母さんが苦しむ事はないからね?」



「は!?………て!帝国騎士団長!?………いやいや……買い物はメルルと二人で平気です!!……ご……護衛………って感じになって気まずい……ってヒロさん?ちょっと!!聞いて!!おぃ無視するなぁ……聞けコラァーーー!!」



 僕は勝手に帝国騎士団 第一師団の団長ヴァイスにディーナを任せる。


 メルルだけが僕に『行ってらっしゃーい!』と元気に言って、送り出してくれた。



 ◆◇



「おい坊主……オメェみたいなガキが来る場所じゃねぇぞ!はけろ今すぐ!!……」



「貴方達のボスに用事があるんです。スラムでもう弱い人を食い物にしない様に言いにきたんですから!案内して貰えませんか?」



 僕は門番風の男に案内する様に言うが、門番は何故か口で文句は言うが手を出そうとはしない。


 力ずくで何かをしてくれればやり易いのだが、まさかの反応だ……



「……………」



 その上、返事もせず、今度はダンマリを決め込んだ……



「聞いてますか?貴方達のボスの所まで案内してください!!」



「クソガキが……調子に乗るな!!またお前みたいなのが来るとは思わなかったぜ……。あのメルルとか言う、頭のおかしいガキで充分だ……あのガキ毎日来るんだ。いいか?何度も言うが、此処はお前達ガキが来る場所じゃねぇ……」



 僕はその言葉にびっくりする。


 メルルが毎日此処にきているって事を聞いたからだ。



 しかし小さい子は流石に面倒で、この見張りも相手にはしないようだ。



 だが彼等がメルルを放置しても、チンピラがディーナのちょっかいを出し困っていることには変わらない。



 非道な所業を辞めさせる事が、メルルの生活を少しは良くする筈だ。


 だから僕は、この問いかけを止めるつもりはない。



「聞いてますか?………」



「なんだガキ?………俺様に何か用か?………」



 見張り役の男に聞いたはずが、突然背後から声をかけられ僕はすぐに振り返る。


 若干慌てたが、危害を及ぼすなら話し掛けずに既にやっている筈だ。



 言葉ではガキと言っているが、僕の年齢はこの世界では充分成人として扱われている……


 言葉通りのガキの扱いはされない筈なのだ……相手が反社会的な相手なら尚更だろう。



 相手が元冒険者なら危険もある、充分用心しつつ少し様子を伺う……



「何だ?用事があるって言っていたから、お前にわざわざ聴いてやったのに……話す気がないならさっさと帰れ!そいつが言った通り、此処はお前達ガキが来る場所じゃねぇ……」



「いいえ帰りません……何故貴方達は悪さをするんですか?たかが小銭でも、家によってはその価値が大きく違うんですよ?それもチンピラを使って何度も何度も……」



 僕は先程のチンピラの言葉を思い出して、若干腹立たしくなってきた為にしっかり最後まで話さなかった。



「チンピラ?何のことだ?俺は手下にそんなセコイ指示を出した覚えはない。それにお前の妹だか孤児の集まりか何だか知らんが、毎日此処に来させる方がどうかと思うぜ?」



 カチンときた僕は、剣に手をかける……しかしそれはフリであって、武器を使う意思はない。


 あくまでも向こうに抜かせてから、その対処をするためだ。



「お前達は牛鬼組のチンピラだろう?ちゃんと手下を懲らしめてから、聞いた上で此処へ来たんだ……今更言い逃れはできない。部下の管理も出来ないで何が親分だ!」



「お前……それはオモチャじゃねぇぞ?スラムで落ちぶれても俺は元冒険者だぜ?駆け出し冒険者が正義を名乗っても、怪我するだけだ。黙って帰れ!それを抜いたら、例えガキでも痛い目じゃすまねぇからな?」



 僕は一向に謝らない相手に、若干苛々していた。


 何故苦しい思いをしているディーナ親子が、スラムで無駄な人生を歩んでいる奴等に脚を引っ張られないとならないのか……そう思うと腹がったってきたのだ。



 僕が剣を抜く様な素振りを見せると、横に居た見張りの男が持っていた剣を男に投げた。


 更にもう一本の大剣を取り、おおきく振りかぶって振り下ろした。



 僕はその軌道を読んで躱したあと、腹に拳でも撃ち込もうかと思った。


 だが違和感を感じて、目の前の男に視線を向ける。



 男はビックリした事に剣を受けとりはしたが、地面に突き刺して座り込んでいた。



「おい坊主、斬り合う気がねぇなら武器をしまえ。俺達に無駄な時間を取らせんな!俺だって暇じゃねぇんだ……もう一度要件を言え。今度はしっかり聞いてやる……」



「ボ………ボス……何言ってんですか?こんなガキの話を……」



「黙ってろラーム……お前の攻撃は見切られてから避けられた。その時に剣を、ガラ空きの腹に刺そうとすれば刺せたんだよ。その小僧は……」



 ビックリだ……僕が考えていた腹パンチとは違うが、隙を見ていた事は気がついていた様だ。


 しかし態度があからさまに変わったのは良い兆候だ……



「僕は何度も言ってます。姑息な手段で弱者からたかる真似はやめて下さいと」



「俺はそんな指示はしてねぇ、それにカタギにそんな真似するバカはこの牛鬼にはいねぇよ。だがお前の言い分だとそうじゃねぇ………。なら誰が指示してそうなったのか、今すぐ明らかにしてやる。だがガキとは言えど、武器の持ち込みはご勘弁願おうか?ラーム、そのガキから武器を預かれ」



「で……ですが……ボス!!相手はガキですぜ?周りには牛鬼が舐められたって話題になりますよ!!」



 僕はラームの言い分を無視して、手に持っているショートソードを押しつける様に渡す。


 この武器は、先程の特訓時にダンジョン内で手に入れた物で、万が一失っても痛くない。



 因みにショートソードを持っている理由は簡単で、チンピラやゴロツキ程度の人間相手では流石にエルフ達から貰った武器は使えない。



 それに僕は絶賛『駆け出し冒険者』扱いで有り、皆はその認識なのだ。


 剣以外の装備も、前の初心者装備に着替えているくらいである。



「ボスの命令じゃ仕方ねぇ………武器は預かるぜ……チィ……牛鬼も焼きが回ったもんだ……。案内する、黙ってついて来い!」



 僕はボスと呼ばれた男と、ラームという男の後ろをついていく。


 従って歩きスラムの奥に暫く進むと、寂れた商店の跡地に辿り着いた。



 外装は未だにしっかりしており、以前は商団の持ち物だった様だ。


 だがどうやら既に廃業した様で、外装含めて手入れは全くされていない……装いからしてスラムになる前はそれは立派な店だったのだろう。



 どういう理由から、此処がスラムになったのかは分からない……だがこの牛鬼組と言う輩はこの場所を根城にしている様だ。



「ついたぜ!此処だ。中にいる奴等には俺から事情を聴く。お前は黙って話を聞いていろ」



「本当に明らかにする気があるなら黙ってますが、そうじゃ無かったら僕も黙ってません。ちゃんと自分の口で話しますから……そのつもりで!」



「テメェ……ガキだからって甘い顔してれば調子に乗りやがって……ボスの言う事は絶対なんだ!黙ってろ!!」



「ラーム!やめろ………ガキが毎日来る厄介で面倒な事は今日でおしまいだ!ガキが毎日来るだけで、周辺のゴロツキ共に舐められてんだウチはな!」



 男はそういってから、薄暗い店舗跡に入って行った……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る