第829話「ゴロツキ・後編」
既に時刻は20時を回っていて、店内には灯りは完全にない。
ゴロツキが襲ってくるには適した環境で、隠れ潜むにも適している。
購入する場合に備えて居抜き状態なのか、店内には未だに店舗だった時の名残が沢山ある。
「随分と暗いですね……アジトにしては暗すぎる。何処にも灯はないですし……」
「うるせぇぞガキが!……調子に乗ってるとボスが許しても……俺が………」
ラームがそう言った瞬間、モルダーは回転する様に剣を薙ぎ払う。
僕はデスアサシンのスキル、緊急回避スキルのお陰でその攻撃を躱せた。
『ガキィン!!』
躱し様に僕はクロークから剣を引き抜き、打ち据えて次の攻撃を止める。
「ほう!?小僧……この攻撃が躱せるか?………そしてお前の武器エモノは持っているソレがメイン武器って事だな?まさか収納付きマジッククロークとはな……恐れ入ったぜ!」
「何の真似ですか?……所詮貴方も同じ穴の狢って事なんですね?なら遠慮なく………」
「勘違いするなよ?俺は『武器の持ち込みは禁止する』と言ったのに、お前が持ち込んだんだろう?まさかマジッククロークとは思わなかったが、予備の武器くらいは持てると思ったんでな?攻撃を当てる気はねぇよ……見てみろ……コレは剣じゃねぇ!農具……クワだ!」
そう言って、その男は『ライト』と生活魔法を唱える。
「くそ………まさか農具とは…………でも……あの速度で当たったら痛いです!!」
「ぶ!はははははは!あの速度で当たったら痛いですぅ?…………モルダー!!間違いねぇよ。いてぇよ?農具の柄で殴られたら……下手すれば子供だったら死ぬぜ?頭に当たればな?」
声がする方を向くと、既に僕は囲まれていた………
◆◇
「クソガキ!!武器を隠し持ってたのか?………さっさとそのマジッククロークをよこせ!」
「嫌です!」
僕は周囲を既に囲まれている状態に焦りはしたものの、相手が何も仕掛けてこない事に違和感を感じた。
暗闇の時点で取り押さえようとすればできたのだ。
しかしそれを『しなかった』となれば『何故そうしなかったのか?』と言う疑問に行き着くのは当然だろう……
「ラームやめろ………マジッククロークの時点で、ソイツは死んでもお前にソレは渡さねぇ……」
「そうだぜ?ラーム。マジッククロークってのは耐性付きでも大金貨がガッポガッポなんだぜ?それも収納付きってなれば下手すれば自分の村や街が買えちまう…………だよな?モルダー」
「ああ、クーワン流石に詳しいな?戦争屋ってのは、情報だけは俺達冒険者と同じでピカイチだな!」
ラームはその事を聞いて文句をたれる……
「だったら何で奪わんのですか?尚更手に入れても良いじゃねぇですかい?世間知らずのガキが持ってるんですぜ?これだってスラムでの世間勉強だって言えば良いんすよ!スラムは弱肉強食ですぜ?」
「だからお前には見張りしかさせねぇんだよ。俺らの仕事をオマエが汚すのか?ああ?」
ラームが言葉を発すると、上から声がした……
「少し考えろ……ラームお前は満足に考えないからダメだって、前にも言ったよな?」
天井の梁から飛び降りてきた男がそう言うと、ラームに向かって話し始める。
「何故ガキがそれを持ってるか……お前は考えたか?……街に転がってるか?マジッククロークがよ?だったら探して来いよ!ラーム。いいか?このガキは貴族様のガキンチョだってんだ。それもかなり裕福な……だろう?モルダー」
飛び降りた男が、ボスに向かってそう言うと頭を抱え出すボス……
「スクロム……お前元冒険者だろ……鈍ったのか?って言うか……ソイツの動き見てなかったのか?」
「あ?天井で寝てたよ……見てねぇし……おい!クーワン何してんだ?」
「あ?決まってんだろう?マジッククロークを頂いて売っぱらうんだ……俺は戦争屋だぜ?追い剥ぎは戦場じゃ当たり前だ……」
そう言ってクーワンという男は、ラームと一緒に僕のマジッククロークを奪おうとジリジリと近づいてくる。
「はぁ……馬鹿ばっかりだ……お前たち……まず間違いなく死ぬぞ?そのガキをよく見ろ。初心者装備にマジッククローク、そして俺の農具の柄を弾いた桁違いの価値の武器……『全部がチグハグ』だろう?ソイツは接近戦仕様じゃねぇ……魔法だ……。それも剣を使う所を見ると魔法剣士……そして限り無く金級に近い銀級冒険者……いや……下手すれば金級で合ってるかもな……」
「は?………コイツが?……金級?」
クーワンと言う男が僕を馬鹿にした感じで見たので、僕は片手を突き出して唱える……
『ウォータースフィア!』
「げぇ!?………ちょっと待った!!ジョークだって。奪わねぇよ!…………ってか……金級が何でそんな格好してやがるんだ!……紛らわしい!!」
「それよりガキ……お前の目的はどうした?……俺は武器を持ち込まない代わりに『連れて行く』と言ったんだぜ?約束も守れないのか?」
僕はそう言われて魔法を消して、クロークに剣を仕舞う
そしてモルダーと呼ばれたボスにクロークを投げて渡す。
「それを持ち去ろうとしたら、このスラムを全て破壊する。周囲にいるゴロツキも無差別に纏めて始末する……そしてお前たちを地の果てまで追いかけて絶対に殺す……」
「ほう?そこまで言う理由は何だ?」
「もう今は会えない家族の品が入ってる……だから奪った奴は許さない……理由も聞かずこの世から消滅させる!!」
僕が真顔で言うと、ラームとクーワンは後ずさって、近くにあった物で見事に足を掬われて盛大にすっ転ぶ……
「大丈夫だ。俺はそんな事はしねぇ……牛鬼の名にかけてな!……お前と同じで譲れないもが俺にもある」
そう言ったモルダーはすぐに質問の先を変える……
「おいテメェ等……ここ最近、小銭をせびってスラムを歩いたか?」
全員が首を傾げている……
「なぁ……モルダー……それってよう……。鬼蜘蛛一家の事じゃねぇか?……あそこは此処を縄張りにしてる喧嘩屋だぜ?俺たちとは違う。俺たちは武器商人だ……誰もそんな事はしねぇよ……って言っても既に国境封鎖で商売もできねぇから廃業だけどな?」
「武器商人?……武器を取り扱う商人ですよね?……何故そんな人がこんなスラムでゴロツキまがいな事してるんですか?」
「あ?何だ坊主……武器商人を知ってんのか?ゴロツキって今言ったけどなあ。俺達は冒険者から武器を買い上げて方々に売る仕事をしてんだよ。ダンジョンで生計を立てる家業だからな……俺は戦争屋だから意味は少しちげぇが……モルダー達は根っからの武器商人お抱えの冒険者さ!」
「なら……何でそのダンジョンから手に入れた武器を売らないんですか?武器商人なんでしょう?此処で一体何をしてるんです?って言うか……鬼蜘蛛一家ってなんですか?」
僕がそう言うと、クーワンが事細かく教えてくれた。
武器商人はダンジョンで得た武器を、冒険者はもとより戦争をする国や騎士団にも降ろす仕事だと言う。
しかし帝国は鎖国状態で、隣国との武器売買が全面禁止になったそうだ。
満足な武器の持ち出しと仕入れが出来ない以上、商売にはならない。
だから武器商人である商団はお手上げ状態になった……
このスラムは、2年前まではなかなかに栄えた場所だったそうだが、鎖国と同時に衰退して今はスラムになった様だ。
鬼蜘蛛一家は『喧嘩屋』と呼ばれて要は暴力団組織の様な物だった。
やる事は主にスラムを巡回して脅しと暴力行為、露天商を巡ってみかじめ料の徴収、街民を脅してカツアゲだ。
やることが中途半端なので、半グレに近いかもしれない……
「って事はあの犯人が言っていたのは……牛鬼組ではなく鬼蜘蛛一家なのですか?でも確かに牛鬼組って言ってましたよ?」
「聞き違いじゃねぇのか?坊主の……」
「ちょっとクローク返してもらえます?証拠があります……」
僕がそう言うと、モルダーは投げて僕に返す……
それを見たラームとクーワンが『ああ………勿体ねぇ………』と、そこそこ大きい声で言う……
プレゼントした覚えはない!と言いたいが、それは後にしよう……
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