第827話「ゴロツキ・前編」
木の幹の後ろに半分隠れている写真だが、良く短時間で探したものだと感心する。
しかし問題はそれに留まらなかった。
「お兄ちゃんの妹ちゃんは、私の知っている人たちと格好が違うのね?この街で全く見たことのない洋服着てたわ!」
メルルの言葉にディーナが『街で見たことのない洋服?そんなに綺麗だったの?お母さん見逃しちゃったわ!』と反応する。
するとメルルは……
「お母さん、凄い綺麗でふわふわしてるお洋服だったの!……そう言えばお母さん、早く行かないとお店が全部閉まっちゃうよ?」
そう言ってメルルは思い出した様に言って、ディーナを上手く買い物へ誘導し始めた……
運が良いのかディーナも慌て気味に『あらイケナイ!メルルの言う通りだわゆっくりしてられなかったんだったわ……買いに行かないと!』と言い慌てて買い物カゴを用意する。
僕はここぞとばかりに、『じゃあ暗い道は危険ですから僕も一緒に行きますよ。お金を持って歩く以上、この周辺は危険もあるでしょうし!』と言う……その大きな理由はディーナの身体的特徴による。
腕がまともに動かず片足が無いのだ。
スラムのゴロツキにしてみれば良いカモにしか見えないだろう。
僕達は日が暮れた時刻の危険なスラムを通り、露店が立ち並ぶ商店街広場に向かった……
「おい!お前人にぶつかっておいて……すいませんじゃねぇだろう?骨が折れちまったよ!慰謝料寄越しな!!」
家を出て広場に足速に向かう最中、ディーナと僕達はゴロツキ二人に絡まれた。
思った通りスラムだけあって時間にが遅くなればなるだけ治安が悪い様だ。
「ぶつかってすいません……先を急いでいるので……」
「俺たちがこのスラムを牛耳る『牛鬼組』の者って分かっててそう言ってんのか?」
ディーナは元冒険者だからこの程度のゴロツキなどどうにでもなるだろう……しかし何故か謝る一方で、何も言おうとしない。
よく見ると、メルルが片脚に縋りつき震えている。
娘に何かあってからでは遅いのだ……だから穏便に済ませようとしているのだろう。
「ダメだな!金を寄越しな!幾ら持ってんだ?こんな時間に広場への道を使うってことは『買い物』だろう?俺たちも酒が飲みテェんだよ!」
「お母さん……わ……私なら平気だから……やっつけちゃって!!」
健気にメルルは強気でそう言う……しかしディーナはやはり謝りながら、銅貨を数枚ゴロツキに渡し始めた。
「わかりゃーいいんだよ!!クソガキの躾しとけよ?ディーナ!!」
そう言ってゴロツキは暗い夜道に姿を消した……
「すいません。ヒロさんに頂いているお金なのに……」
「いや別に構いませんよ……メルルちゃん絡みですよね?」
「はい……私が仕事でいない時に何をされるかわからないので……。失う物がない人間ほど怖い生き物はありません。魔物と違って知恵があり、悪事と分かっても簡単に手を染めますから」
ディーナは何度も僕に謝りつつ、先を急ぐ……
急ぐ理由は簡単で、このスラムではこんな事は日常茶飯事なのだろう。
新たなハイエナが来る前に、買い物を終えて帰る必要があるのだ。
◆◇
「らっしゃい!!らっしゃい!!白牙が安いよ。まるまる実った白牙大根だ!お?ディーナじゃねぇか!その顔はまたやられたな?じゃあ銅貨2枚割引で白牙大根売ってやるよ!」
「はははは……またやられちゃった!おじさんいつも有難う」
「良いって事よ!メルルがたまに店の手伝いで来てくれるんだ!その時はガッポガッポ儲けられるからな!銅貨2枚くらいなんて事はないさ!」
お店の人とディーナにやり取りを見ると、持ちつ持たれつの関係なのかもしれないと思う……
しかしまたもや先程のゴロツキが対面から現れる……
あちこちで言いがかりをつけては、小銭をせびっている様だ。
「おいディーナ向こう側から回っていけ!またあのチンピラだ……またカモにされるぞ?」
「そうね……メルル向こう側から回っていきましょう?」
しかしハイエナの嗅覚は馬鹿にはできない……
既にディーナをロックオンしているから解りやすく、反対から周囲に言いがかりを付けてきたのだった。
「おっとディーナさん?何処へ行くんでしょうか?銅貨数枚ではエール1杯しか飲めません……元冒険者ならわかるだろう?俺らは何人居るんだよ?言ってみてくれますか?」
「す……すいません……じゃあ……二人分って事で………」
言い方が若干胸糞悪いので相手を殺しそうだが、その場合はダンジョンに篭ってメルルのお父さん探しをしよう……
そう思いつつ、お金を渡そうとするディーナの前に僕は歩み出る……
「何だ?坊主……ちびっ子がママを虐めるな?ってか?ぎゃはははは……『瞬歩』…………ハグ!?…ぐぎぃ……」
僕は『瞬歩』を使いゴロツキの真横に行く……
そして脇腹の肉を摘んで、思いっきり捻りあげる。
それからゆっくりとした口調で話をする……ロズ直伝のわからずやへの『落とし前の付け方』だ。
しかしロズさんの落とし前の場合、言葉の最中に拳が飛ぶので、一応僕なりのアレンジを混ぜてやってみる……
「お兄さん、向こうで話しましょう?ちょっとここだと邪魔になるんで。良いですか?それとも『此処で肉片に変えましょうか?』見るも無惨にグチャグチャになりますが?……僕はどっちでも構いませんよ?」
「お……お前……こんな事して……」
「こんな事してタダで済むかって?お前達のアジトに連れていけって言ってんだよ!今から全員ぶっ殺す!弱みにつけ込んで既にやらかしてんだ。死ぬ覚悟はできてるんだろう?あと言っとくが騎士団の皆様とは僕は知り合いだ。全部を揉み消してもらうから安心してくれる?」
僕はロズ直伝の『ゴロツキに恐怖を与える為の脅し文句』に騎士団様を付け足してそう言うと、目の前に見えた騎士団の団長に手を振る。
「おお!ヒロ殿ではないか?何をしてるんだ?……うん?……ゴロツキか?成程……見た感じ締め上げてるんだな?後始末は我々騎士団がやろうではないか!好きな様に暴れてかまわんぞ?この街の治安が良くなって帝国とすれば願ったり叶ったりだ!ドブネズミが居なくなって哀しむのはノミだけだからな!わっはっは!!!」
「ふ……ふざけんなよ……俺だって帝国の市民だろうが!!騎士団が相手見てエコ贔屓して良いと思ってんのかよ?」
そう言うゴロツキに野菜売りのおっちゃんは……
「馬鹿も休み休み言え!!来るたびに小銭をたかりやがって……親分に言いつけるってしか言えねぇチンピラが!市民じゃねぇよお前なんか!!」
野菜売りのおじちゃんの言葉を皮切りに、あっという間にチンピラは周りの商店の店員に囲まれてボコボコにされる。
「ディーナ!ほれ!取り返してきたぞ?今までの分には全然足らんだろうがな?これからは儂等も一緒に戦うぞ!もうあのスラムの牛鬼一家には好き勝手やらせねぇ!」
「「「そうだそうだ!」」」
思いがけ無い加勢に僕は驚きが隠せ無いが、この露天商達の問題は解決しそうだ。
あとはお礼参りでディーナが困ら無いように、ロズ直伝後始末をナントカ一家にやるだけだろう……
「ヴァイスさん、すいませんけどディーナさんを家まで送ってもらえますか?他のゴロツキも居るんですよね……ちょっと僕はこのチンピラにアジトの場所聴いて、なんとか一家を壊してくるんで……」
「は………はははは……ああ!任せとけ!……そうか?アジトを壊すのか?なんか君が言うと凄く楽しそうだな?是非行きたかったぞ?………」
僕はチンピラAとBの腕を力一杯握る。
すると血管が塞がったせいで、あっというまに腕が青白くなる……
「いでぇ!いででででで…………腕ぇぇ!……言う!言うから離して……話し合いで解決しましょう!!ね?旦那!」
それを見た騎士団団長が反対の腕を取り力一杯締め上げ真似をする……
「いでぇ!!………き……騎士団の団長さん……もうしねぇ……真面目に働くよ……もうしねぇから………いでぇぇぇぇ………腕がか真っ白になっていく……この寒さじゃ二の腕から先が壊死しちまうよー!!」
「成程!これは効果覿面だなぁ……ヒロは何処で覚えたんだ?」
「知り合い人がチンピラを黙らせるのにこうしてたんですよ!……かなりの確率で反省するんで……もしお礼参りなんかしてきたら首を刎ねてましたね……」
「く……首を!?………刎ねる!?…………首を!?……悪かった!ディーナ達から奪った金は働いて返す!!アジトも教えるから!!いでででで!!」
僕は締め上げていた腕を離してから、スラムにあると言うアジトの場所を聞き出す。
正式名称は『牛鬼組』で構成員はゴロツキが10名ちょっと、仕切っているのが元冒険者のお尋ね者3名だった。
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