第807話「スパルタ教育の賜物」
僕は休憩中にココアを飲む為のお湯を沸かす……
「アイツ絶対ヤバイって……此処でお湯沸かしてるぞ?」
「流石に魔物も寄っていかないわよ?この部屋って結構魔物居るのに……ヤバイ奴だって魔物も分かるんじゃないの?」
「ある意味魔物も怖い存在ってか?ぎゃははははは……」
この部屋の魔物はテンタクルワームと呼ばれる芋虫だ。
身体中に触手があり特殊な攻撃をしそうで一見気色悪いが、1階層だけあって階層に見あった雑魚だ。
因みに魔物が寄ってこないのは、僕達がヤバイからではなく、例のタリスマン効果だ。
中級種以下の魔物は僕達に近寄ることさえできない。
僕達が部屋の端で戦っている理由は、しっかり意味がある。
第一にアユニの魔物への抵抗を和らげる為であり、第二にタリスマン効果で魔物を周囲に弾かない為だ。
中央付近で今僕等がやっていることをすれば、魔物が周囲に押しやられる。
そうなる事で周囲の新人冒険者は一度に戦うワームの数が増えて、怪我人が出るかもしれないからだ。
僕は一度沸かしたお湯に顆粒粉末のココアを入れて溶かす。
ダンジョンの中に非常に良い匂いが漂うが、僕達を馬鹿にしていた周囲は気まずくて、今更話しかけることも出来ない。
「アユニさんはホット?アイス?僕は教えるのについ熱が入って暑いので、アイスにするけど……」
「えっと……わたしも冷や汗かいてるので……冷たい方で……」
『アイス!』
「!?………え!?…………」
僕は冷やしたココアをアユニに渡し、自分の分をさらに冷やす。
『アイス!』
今まで湯気が出ていたホットココアだったが、今ではキンキンに冷えたアイスココアになっている。
それを見たアユニは非常に驚くが、周りはワームと戦いつつ大爆笑する。
「聞いたか?今……アイスだって……詠唱なしで今度は……『アイス!』………ぶはははは………」
「笑うなよ……頭を冷やしてんだろう?きっと………」
「くっくっく………駄目だ笑いがツボに入って……剣が……手に力が………ぶはははははは………」
周囲の反応を見て、アユニは我慢できなかったのだろう……僕にその真意を聞く。
「何で黙ってるんですか?ちゃんと冷えてるのに!!見せに行けば本当に冷えてるって分かりますよ……ヒロさんが行かないならわたしが……」
「僕はアユニさんに伝われば十分です。だって、僕の魔法を信じて居なかったのはアユニさん本人でしょう?でもこれで信じられますよね?じゃあ、飲んだら魔法習得を再開しますよ?今日中にレベル10にするんですから……10レベルにアユニさんがなるまでダンジョンからは出ませんので!そのつもりで。ちなみに食料は山ほど有りますので!!」
「え!?………今日中?………」
僕の無茶難題を聞いて流石に苦笑いをするアユニだったが、まさか地獄の特訓が始まるとは思いもしてなかった。
「この飲み物本当に美味しいです!残して皮袋に移しても良いですか?」
「疲れた時に糖分摂ると良いので、確かにおすすめですね。残ったお湯でアユニさんの持っているその皮袋分くらい作れるので、今持っているそれは飲んで良いですよ?」
僕は生活魔法の火おこしで火力を強めて、再沸騰させてココアを作り冷ましてから魔法容器に詰めて流し込む……
当然アユニを壁にしつつ、僕自身は壁を向いて皮袋へ注ぎ入れるので、他の冒険者にはこの方法を見せないようにする。
「な!?何ですか……それは……。もうヒロさんを見ていると常識が崩れます……」
「はい!入れ終わりました。アユニさんウォーターで食器を洗ったら特訓の再開です!今度はちゃんと信じてやって下さいね?僕達は運命共同体ですから!」
アユニは『ハイ!!』と元気よく言うと『スクッ』っと立ち上がる。
そして近くのテンタクルワームに向けて手を翳し……
「水の精霊様!いつも綺麗な飲み水を有難うございます!」
『ウォーター・アロー!!』
『ドシュ!ドス……ドスドスドス………ブシュゥゥ…………』
「ギシャーーー!?キゥー……クゥ………」
「で!出来た?………出来たぁぁ!!魔法が!!出たー!!」
大喜びで飛び上がるアユニ……
それと対照的に、彼女を笑っていた冒険者は驚き攻撃の手が止まる……
「いて!!……くそ……ワームの触手針に………」
「な!?なに?今の……魔法なの?あれは本当に……いったぁぁい!……え!?……ワームの触手が足に?もう!!」
近くで見て馬鹿にしていた冒険者達は、軒並み攻撃を喰らい被害を増やす……
その攻撃は大した事はないが、稀に麻痺を起こす神経毒針なので雑魚ながら侮れない攻撃だ。
だが僕としては、彼等よりアユニの魔法が成功した方が重要だ。
「おお!ちゃんとできるじゃ無いですか!!……って事は……やっぱり信じてなかったんですね?僕のアイスの魔法を見るまで?……」
僕は若干意地悪をする……
「え!?………いや………あの………その………だってあんな説明で分からないですよ!ヒロさんも魔法を唱えてるのに魔法でてなかったじゃ無いですか!」
「だって魔法を出すと、同じパーティーだから勝手にアユニさんのレベルだけ上がっちゃうでしょう?そうなったら最後、実力とレベルが伴わなくなって、最終的に困るのはアユニさんだもん!」
僕はその理由を説明する……
「な……ならそれを説明してください!……出来ないのに、口から出まかせを言っているのかと思いました!!」
「じゃあ今から反復練習です。魔力ポーションは持ってきたのでどんどん撃って行きましょう!今からは僕も戦いますから」
僕はそう言ってタリスマンを取る。
「そう言えば……そのタリスマンを置いたら魔物が来ないんですけど……何ですかそれ?魔物避けにしてはそんな物聞いたことも無いですし……」
「ん?今言った魔物避けだよ?中級種までは近付かせないから、練習の時には良いでしょう?今からは実戦だから魔物が必要だし。魔物との魔法戦に慣れたら接近戦も覚えるからね?」
「あ……はい……って!魔物避け?……サラッと凄いことを言って流しましたけど……何故そんな事を知っていて、そんな物を持っているのですか?おかしいですよ!絶対に……」
そう言ってから、アイスの魔法を思い出したアユニは……
「あ……訳ありって事ですね……はぁぁ……わたしってばそんな事を気が付かずに……。でも!年齢からして同じくらいじゃ無いですか?私達……それなのに実力の差がありすぎる気がする………」
そう言ったアユニは17歳で、ほぼ僕と同じ歳だった。
僕は、狭間の世界に長く留まっていた様なので、実際は今19から20歳と言う事になるだろう。
だが詳細は確認しない事には分からない……
「確かに同じくらいですね一応18か19歳です……かね?下手すると20歳って事もあるんですけど……」
「ヒロさんは歳の割には余り大人っぽく無いですね?でも18歳と20歳ではかなり差がありますよ?冒険者としては……あ!でもヒロさんはわたしとは、そもそも実力が天と地ほど多分違そうですね……ははは……」
ついさっきまで元気だったのに、何かを勘繰るアユニはまた気分を落ち込ませる。
なので僕はタバサの時の事を思い出しながら元気が出そうな事を言う。
「はじめは誰でもそうですよ?ファイアフォックスって言うギルドのギルドマスターさんは、昔はオーク娘って馬鹿にされていたそうです。でも今ではプラチナギルドのギルマスですからね?……頑張れば出来るけど、諦めたら何も前には進まないですよ?アユニさん」
そう言うと少し元気が出たのか……
「そうですね。今の私は特訓あるのみ!!頑張ります!!」
僕達は荷物を壁際に置く……
『スラ……悪いけど荷物番をお願い……皆が大騒ぎするからリュックからは出せないけど……』
僕はリュックの中に居るスライムに指示を出す……
『はーい!モンブランと話してるからヘイキー!』
念話でスライムから返事がくる……どうやら今日もお互い話す事が山盛りの様だ……
何を毎日そんなに話す事があるのか不思議だが、それだけ仲がいい事の印だろう。
お陰で僕は、安心してアユニのレベル上げに専念できそうだ。
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