第806話「新たな出会いと昇級試験」
声をかけて来たのは女の子で、すごくオドオドしている……
「あ……あのぉ………良ければ組みませんか?わたしと………って……む……無理ですよね?背が低いし、トロそうだし……非力そうですもんね?…………えっと……他当たります……」
僕は何も言ってないのに、勝手に引き下がる女の子。
多分僕と同じように連戦連敗なのだろう……
「よ……良ければ僕と!!是非!」
諦めていた時に声をかけられ、余りの嬉しさに結構な声量でそう言ってしまった。
そんな僕は全員の注目を集めてガン見される……
「あ……さっきの坊主だぜ?あれ……マジかよ……あんな鈍臭いのと……」
「マジで笑える……あんなに喜ぶ普通?相手はあんなトロそうな奴なのに……」
その声を聞いた僕は、タバサの時を思い出す……オーク娘事件だ。
『あの時もこんな感じだったなぁ……確かタバサはオーク娘って言われてたけど、ソウマさんの盾捌きを覚えてかなり強くなったなぁ……この子も僕が教えれば強くなれるだろうから………ん!?……ソウマさんって誰だ?顔が思い出せないな……うーん……どこであったパーティーだったかな?レガントさんのパーティーメンバーだったかな?』
僕は懐かしい気分になるが、昨晩どれだけの期間をロスしたのかチェックするのを忘れたことを思い出した……
『なんかこの期間ロスの苦しみはなって見ないと分からないものだなぁ……雛美ちゃんも、ミサちゃんもよく頑張ったよなぁ……僕みたいに数十分が伸びた訳じゃ無いから相当苦労………あ……あれ?雛美ちゃん?ミサちゃんも?………誰だ………それ?あれ?………』
若干混乱していた僕に、女の子は『ああ……わたしに所為ですいません………』と謝り始める。
「ああ!違うんだ………昔似た事があって……それを若干思い出してただけだから……君が平気なら僕は平気だよ?それに強くなれば済むだけだから!」
僕がそう言うと、更に周りから笑いが起きる……
その笑いの内容は大概が『本当に強くなれると思っているのか?』だった……
女の子はその笑いに耐えられなくなったのか、闘技場を出て行こうとする。
「ねぇ君……こんな笑いで諦めていいの?……笑われたって別にいいじゃ無いか!強い人は見かけによらぬものだって事は結構あるよ?」
僕は激励をかねてそう彼女に言う……
すると彼女は立ち止まって……
「わたしの所為で迷惑はかけられません……だって……失敗が目に見えてますから……わたし……鈍臭いし!」
そう言って部屋から出て行く……
僕は周囲を睨みつけてから、ギルマスのテカロンに……
「僕はあの子と組みます。もし組めなかったら、その時は鑑定スクロールを提出しますので!では!!……」
と言って部屋から出ると……闘技場の中で爆笑が起きる。
「おや?ヒロじゃねぇか……どうしたい?お!?………なんじゃ怒っとるのか……ギルドで馬鹿なことはするなよ?お前さんが暴れたら全員生きてはいないからな………はっはっは………」
そう笑っていたのは、昨日助けたガルムだった……
「あ!ガルムさん……女の子見ませんでした?身長が低くて……ちょうど今、闘技場から出て行った子なんですけど……」
そうガルムに聞くと、ギルドの端を指差す……そこにはギルドの端で隠れる様に泣いている女の子が居た。
「今日が例の日か……お主もあの子もデビュー戦は失敗……って所かのぉ?でも……あの子はお前さんを見つけて仲間に引き入れたんだったら、あの闘技場の馬鹿どもより大物になるのぉ……こればかりは儂等もうかうかしてられんな?……新人に抜かれたら今度はワシらが笑い物だ!はっはっは……」
そう笑うガルムだったが、アンガがそばに来て……
「笑い事じゃねぇよ……俺らがヒロを引き入れたいくらいなんだからな?……ガルム……ヒロがあの子の捕獲に成功したら、お前あの子を俺達のギルドに誘えよ?ヒロが関わってんなら、間違いなく大化けするに決まってる」
アンガはガルムにそうと言うと、今度は僕に『受付行ってこいよ。もうアイツで決めたんだろう?』と言う。
僕は小走りで受付に向かうと、クィースは闘技場から既に戻っていた。
「あら?ヒロさん……もう決めたんですね?一番乗りですよ。……じゃあこの羊皮紙に貴方の名前と、彼女の名前を直筆で書いて下さい。羽ペンとインク、ここに置いておきますね?」
クィースはそう言って自分の仕事をする為に受付の奥へ向かう。
僕はその羊皮紙と羽ペンそれにインクを持って、部屋の隅の彼女のところへ向かう。
「ねぇ君……ここに名前書いて!今すぐダンジョンへ行って特訓しよう。見返してやろうよ……アイツら全員さ!!」
それを聞いた彼女は目を赤くさせながら……
「でも……足手纏いに絶対なりますよ?わたし………」
その言葉を聞いていたガルムは……近づいてきて話し始めた……
「お嬢ちゃん安心せい!冒険者は1人では務まらん職業じゃ。皆全員がそれぞれの足を引っ張って強くなるんじゃよ!……それに……この坊主の足手纏いにならない奴は……それはそれでやばい奴じゃ……ガハハハハハ!!」
ガラムはそう笑うと、横の店でエールを買って仲間の元に向かう……
「あの人は貴方のお知り合いですか?随分強そうですが……でも……なんかやってみようって気になりました!……それに名前を書けばいいんですね?……今すぐ書きます。わたしはアユニと言います……アユニ・ドロシーです。よろしくお願いします」
「僕はヒロです!よろしくお願いします。」
僕達はそうお互いに自己紹介をして、羊皮紙に名前をそれぞれ書く。
そして受付に持って行くと、クィースがギルドの冒険者証を渡してくれた。
もう既に用意されていたと言うことは、僕が羊皮紙を受け取りに行った時に用意をしていてくれてたと言うことだ。
「じゃあ……早速だけどダンジョンへ行こう!」
「はい!」
そう言った僕と返事をしたアユニに、クィースは魔性石をそれぞれ渡す。
「では……クィースさん行って来ます!!」
「行ってきます!」
同じ様に言うアユニにクィースはニッコリして……
「ヒロさん今日行くなら地下5階までですからね?……良いですね?5階層ですよ?15階層では無いですからね?………5階の前に1は入りませんからね?」
僕はクィースに、そんな風に釘を刺される……それを聞いたアユニは僕を見て首を傾げるが、僕は聞かなかったふりをする……
今日の僕の目的は初心者講習の課題であるアユニのレベルアップと、消えたディーナの御主人探しだからだ。
◆◇
『ウォーターバレット!!』
『ウ……ウォーター……あろぉぉ…………ひぃぃぃぃ…………』
「アユニさんもっとしっかり発声して下さい!」
「だ……だって……こんな呪文の使い方聞いたことも見たこともないです!!詠唱は!?詠唱は何処に行っちゃったんですか!?」
「精霊達は魔法を使うのに、人間のように発音すると思いますか?そもそも喋れないサラマンダーはどうやって魔法を?」
そんなやり取りをしつつ大部屋の隅で魔法練習をする僕達……
実際呪文で水弾や水矢は出ていないので、周りの冒険者は僕達を見て大笑いをしている。
「なんだアイツら?今回の新人は馬鹿なのか?」
「でもさっき入ってきた新人は武器で攻撃してるぜ?ホラあそこ……」
「アイツらが特殊なんだよ!頭とか………いや得に頭がだな!!」
そんな風に僕達を馬鹿にする声が聞こえる。
しかし僕はめげずににアユニに教える。
「恥ずかしがってないで、ちゃんと水の有り難みに感謝して!!コレはミミでも出来たんだから。素直に感謝する心が大切なんだから……まぁ良いや一度休憩にしよう!」
熱弁をした所為で流石に汗をかいた僕は、此処が安全部屋でも無いのにマジックバックから、ココアと手鍋そして火を起こす為の木片を出した。
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