第805話「講習会という名の昇格試験」


 メルルは朝からお肉山盛りとご飯を二杯、そして味噌汁を4杯も飲んだ。


 そして歯を磨いた後、お腹がいっぱいすぎて寝転んでいるうちに、まさかの二度寝に突入している。



「すいません……お迎えしたはずが……。食材提供どころか……ご飯の用意に、土間の新調……そして家まで直していただき……」



 そう言いつつ、ディーナはチラチラ僕の肩に目をやる。



「もしかして………見えてます?ノーミーが………」



「えっと…………はい………土の精霊様なのですか?ヒロ様は…………」



 どうやら僕を、ノーミーの人間型の化現体と勘違いした様だ。



「僕は人間です!肩のはノーミー。土精霊種ではありますけど、準精霊なので今修行中の様なものですね………壁を直したのは僕で、土間を直したのはノーミーです」



 僕がそう言うとノーミーは姿を表す。



「あー!やっぱり見えてるのね……悔しいわ!!気のせいだと思わせたかったのに……。まだ精霊として修行不足ね………。ワタシはノーミー。ノーム族のメスよ。今ヒロが言った通り、精霊として特訓中。ちなみにコッチが完全に精霊になったノームよ!」



『うむ……こんにちわ……人間のお嬢さんよ!儂は偶然このヒロに助けられた時に、精霊化が進んだノームじゃ。準精霊から完全な精霊になったノームじゃよ!地盤が緩んでいたから家が崩れない様に直しておいたぞ?』



 その言葉に、今度は僕が驚く……『なんでついて来てんの!一族置いて!!そして地盤が緩んでるって何!?』としか、言いようがないからだ。



 ノーミーは風っ子と水っ子の絡みがあり、勢いで契約したので居るのも、呼べるのもわかるが……ノームはそうでは無い。



 僕は『どうして此処に?』と言うと……


 ノームは……『まぁその話は、夜にしようではないか!ヒロの予定も今日は忙しいのじゃろう?』と言って姿を消す。



 僕はノームにそう言われ、スマホを出して時刻を見る。


 すると既に9時を回っていた……



「確かに!今日はギルドに行かないといけない日だから、そろそろ此処を出ないと………」



 僕はディーナにそう告げてから『詳細は帰ってからにしますね?もうギルドに行かないと、ダンジョンでご主人を探すことも出来ないので!』と伝えてディーナの家を出た。



 ◆◇



「おお!やっと来おったな……朝イチで来ると思っていたが……なかなか余裕のある登場だな?」



「すいません……ちょっと訳ありで……」



 僕がそういうと、ギルマスのテカロンは『お前はいつでも訳ありだな……』と皮肉を言う。



「テカロンギルドマスター仕事の邪魔です!ヒロさんわたしはフィーテルと言い此処の受付担当で統括です。そして、後ろにいる娘がクィース事務担当です。昨日はすいませんでした。色々立て込んでましたので。では講習会へ向かいますので闘技場でお越し下さい」



 僕は『闘技場!?』と不思議な顔をしたが、フィーテルはマイペースに説明もなく闘技場に向かっていく。


 代わりに事務員のクィースが説明をしてくれた。



「今から行うのは課題用のペアマッチングです。無駄な座学は一切ありません。帝国内では全て実力でのし上がるだけです。依頼についての質問がある場合は、都度私たち事務員が対応します。今すぐ覚えるべき事は、絶対にダンジョンで死なない事……以上です」



「え?ギルドでの決まり事は?使っていい施設とか……その他諸々は?」



「各種施設の使用説明の本が受付に置かれています。それを読んでいただければすぐに理解出来ますよ?それか直接施設の担当に聞いて下さい。ちなみに立ち入り禁止の場所以外は、ランクの制限無く全てが使えます。逆にランクによる制限は、帝国にあるギルドでは一切ありません」



 そうクィースが説明をした後、彼女は僕に闘技場へ向かうように言う……


 僕は促されるままに闘技場に向かうと、そこには沢山の冒険者が集まっていた。



 闘技場に用意された壇上の上には、ギルマスが立っていた。



「諸君、冒険者ギルドへようこそ!帝国の冒険者は至って簡単になれる。ダンジョンで戦い生き残って帰って来ればそれで既に冒険者だ!そして初心者講習は至って簡単だ……武器を持ちダンジョンで戦い、ゴブリンを倒して来い!」



 その内容に僕は驚く……


 講習会では無く、内容はもう銅級資格昇級試験でしかないからだ。


 しかしギルマスの言葉は続く……



「10レベルを達成した奴からギルド指定の特殊鑑定スクロールを使い持ってこい!それが出来れば初心者講習終了で、銅級3位決定だ。それが出来ない奴は冒険者失格だ。以上!」


 ギルマスのテカロンがそう言うと、どよめきが起きる。


 特別説明なもなく戦ってレベルを上げろと言うのだから当然だろう……しかしそれを良しとする冒険者も少なくは無い。



 どよめきが起きる中、フィーテルが続きを話し始める……



「皆さん、今から配る魔性石を地下5階の担当官へお渡し下さい。それが出来た人は鑑定スクロールの提出が無くても、初心者講習を達成したと見做します。担当官は証明として魔性石に代わりにパワーリングをお渡しします。それを受付まで持って来て下さい。確認後パワーリングは支給品としてギルドからプレゼント致します。私からは以上です」



 より激しく歓声が上がる……


 支給品としてマジックリングが貰えるとなれば、初級冒険者とすれば当然だろう。



 フィーテルが壇上から降りると、次にクィースが壇上に上がる。



「はじめまして!事務担当統括のクィースです。ギルドの詳細についての説明はありません。施設紹介等ギルドの情報は受付に常備してありますので自分でご確認ください。等級による施設制限はありませんのでご自由にお使いください。初心者講習の期限ですが、1天以内にこなして下さい。それ以上の期間経過は無効になります」



 ギルド説明と、初心者講習期間の説明を簡潔にしたクィースは、次の説明に移る。



「ダンジョンに潜る際ですが初心者期間は2名で潜って頂きます。なのでこの場所でペアマッチングを行います。2名以上のマッチングは許可しません。尚ダンジョン内で共闘する場合最大三組で戦闘を行って下さい。ですので戦闘時の構成は、2名又は4名そして最大が6名になります。以上です」



 そう説明したクィースが壇上から降りると、テカロンがまた壇上に上がり、大声で『自分のペアを決定後、受付登録を済ませたものからダンジョンへの入場を許可する』と言うと、一斉にパートナー探しが始まった。



『ザワザワ……』


 非常に騒がしくなる闘技場だったが、至る所で喜びの声が上がる。


 そんな中、優秀そうなメンバー探しに白熱し過ぎて喧嘩も起きていた……



「おい!お前俺と組まないか?」



「あんた……コイツと話したのはアタイが最初だよ!!」



「よっしゃー!よろしく頼むぜ!」



「ふざけんな!この魔法使いは俺と組むんだよ!!」



「何言ってんだ……接近戦も出来なさそうな奴が何を言ってんだ!!」



 僕の周辺りではアピール合戦が始まっているが、僕に声を掛ける冒険者は1人もいない……



「あのすいません……僕とペアを……」


「あ……ごめん君……幼すぎだわ!」



 1回目のお誘いが撃沈して凹む……



「すいません……良ければ僕と……」


「え!?君かぁ………ちょっと無理かな?タンク募集してるんだ……俺……」



 5回目のお誘いが失敗して若干人間不信に……



「もしよければ僕と一緒にダンジョン……」


「うん……戦闘出来そうにないね?君……」



 8回目のお誘いが失敗して諦めムードが出て来た……


 通行人に金を渡し、鑑定スクロールでも出して1発クリアをしようかと悩みはじめた時、突然後ろから声をかけられた……

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