第808話「想定外の猛特訓に壊れる精神」


 僕達は壁際にいる魔物を乱獲する。



「アユニさん、両手を使って!距離があるのでタイムラグを計算して撃って下さい!こうです!『ウォーターバレット!!』……」



『ドスドスドス………バン!ババン!!』



「は!はい!!……ウォーターアロー!……ウォーターアロー!!……ぜぇぜぇ……ウォーターアロー!!」



『ドスドスドス』



「ペースは今の感じで、今度は撃ったら次の的まで走る様に!良いですか?アユニさん!!」



「は………はい………ウォーターアロー!!………ウォーターアロー!!あ……あれ?……出ない………」



「魔力不足です!魔法が出なくなったら、遠慮なくさっき渡したポーションを飲んで下さいね?」



「あ!?これが魔力切れ?………」



 僕達は既に40匹以上の魔物を倒している。



 周囲の冒険者は、若干青ざめながらその様を見学している。



「おい!お前……今さっきこの部屋に来た新人冒険者だよな?あそこに居るアイツ等知ってるか?名前はなんて言うんだ?何だよしらねぇのか……名前くらい知っとけよ!!」



「奴ら……ヤベェ奴だぜ!知り合いになって損はねぇぞ?話に行くか?……」



「何アンタ……彼とパーティー組まないかって誘われたのに断ったの?貴方顔面が可愛いだけで頭は馬鹿なの?彼はとんでもない逸材よ……見てみなさいよ……あの落ちてる宝箱の数……既に5個目よ?」



 僕はアユニに魔物を倒すのを継続させつつ、周囲を見回す……すると偶然ガルム達のパーティーを見かけた。



 彼等のパーティーにはシーフのレックが居る……宝箱の罠外しと回収をして貰うにはもってこいだ。



「アユニさん、引き続き魔物を倒してください。僕はちょっと人を呼びますので!」



「え!?どっかに行くんですか……私1人では………流石に怖いんですが………」



「大丈夫ですよ!すぐそこの通路までですから!ほら宝箱が五箱出てるんで……解錠をお願いしないと!」



 僕はそうアユニに説明をしてから、部屋の入り口付近から大声で叫ぶ。



「ガルムさーん!!ちょっとこっちに来てくれませんか?」



「ん!?………おお!ヒロか?何だそこで大声なんぞ出して……ここは通路が崩れててそっちへ行けないんじゃ!回り道して今行く。そこにある部屋でちょっと待っとれ!」



 ガルムが居た場所は、どうやら崩れた通路の先だった様だ。


 魔法の地図を出してみてみると、確かに崩れた箇所が表示されていて穴の表示がある。



 重装備の冒険者は飛び越えては行けない位の距離だった。



「じゃあこの部屋で、魔物を狩って待ってます。今初心者講習中なんですよ!」



「おお!そうだったか!じゃあ様子を見に行かせてもらおうかの?お前さんが選んだパートナーをのぉ!」



 そう言ってガルムは、遠回りしてまで部屋に来る約束をしてくれた。



「ガルムさーんって……マジかよ……あのダイバーズと普通に話す新人って何者だ?血縁者か?もしかして……」



「アンタ達大馬鹿だねぇ……彼の誘いを蹴ったんだろう?あのダイバーズと知り合いになるチャンスを全部捨てちまって……」



 後から来て僕とアユニの様子を見ていた冒険者達は、口々にそう言う。



 それを聞いた僕の誘いを断った冒険者は、唇を噛み締め……『マジで最悪ですよ……だって見てくれは、只のパッとしない奴ですよ?』と言っている。



 割と近い場所にいるので、全て会話が聞こえる……



 初心者講習会で言われた内容は、2名ないし4名最大6名でパーティーが組めるのだ。


 全員がレベル上げ目的で、側に寄ってきている事は間違いはない。



 しかし人数が増えれば、アユニが取得する経験値が減る。


 それでは本末転倒どころか、経験値の無駄遣いだ。



 なので誰にも声をかけずに、そして声をかけられない様に小走りですぐにアユニに元に戻る。



「アユニさんお待たせ。知り合いのパーティーに来て貰うんで話してました」



「仲間が増えるんですか!?……やっとこのハイペースから………ふぅ……」



 何を勘違いしたのかアユニがそう言うので、僕は勘違いを正す。



「いえいえ……くるのはダイバーズの皆さんで、ここは正直居ても意味がないんです。低層階で何の旨味も無い1階層ですからね?……なのでシーフさんだけ一時お借りして、宝箱を回収しようと言う考えで呼んだんですよ!」



 僕には宝箱解錠に必要なモノクルも魔法の鍵もあるが、その存在をアユニには知らせないつもりだ。


 一定期間のみのパーティーであれば、情報が出回り問題を増やすだけだと思ったからだ。



「なのでアユニさんは今まで通り狩りをして下さい。最悪周囲のシーフさんだけ雇って開封して貰うのも手なので!」



「は………はい………はぁぁ……何故こんな事に………」



「まぁレベル10までの我慢ですよ!」



「でも!5階に魔性石を置いたら終わりなんですよ?……そっちの方が簡単じゃ……」



 アユニは流石に根を上げたのか、魔性石の話を始める……



「ですがその階層にアユニさんを連れて行っても、貴女の力量が上がるわけでは無いでしょう?皆に馬鹿にされた、あの悔しさを忘れたんですか?」



「くっ!!…………確かにそうでした!………頑張らねばですね!」



 アユニはそう言って再度やる気を取り戻した。



 ◆◇



「なんじゃ……何なんじゃ!?この有様は?なんで見学者が………あんの馬鹿もん共……何をやらかしとんじゃ………」



「は……はじめまして!僕は冒険者のパームスと言います!、良ければ此処の場所をどうぞ……座ってください!!僕はめっちゃガルムさんに憧れて冒険者を始めました!!」



「おお!そうかい!だったら儂等に追い付くためにも、早う戦え!アイツ等みたいになってみろ!そうすりゃ、俺のパーティーで連合組んでやるよ!」



 ガルムは部屋に着くと周囲の冒険者に話しかけられていた。


 それを目ざとく発見した僕は……



「ガルムさーん!レックさんを今だけ貸してください!宝箱が………」



『ゴトン……』



「ああ……儂にも意味がわかったよ!今出た宝物もそうじゃが、此処の箱は全部お前さん達のって事なんじゃな?……おいレック開けてやれ!」



「マジかよ!ひぃ……ふぅ……みぃ………って!7箱だぜ?マジかよ……」



「何か良いもの出たら、一つくらいくれるかも知れねぇぞ?」



 僕の言いたい事を即座に理解したガルムは呆れつつもレックに指示をする。



「どうせ一階で出る宝だ……対したのになんか………おお!?コレランクSの箱だ………1階で?ランクS!?マジかよなんて強運だよ……ちょっと期待しちゃうぜぇ………」



「レックさん開封と回収をお願いしますねー!僕は今アユニちゃんのレベル上げ中なので!」



 そう言ってレックにお願いをする。



「か!回収もか?……マジかよ……おい誰か祝福持ちいねぇか?」



 レックの一言で大騒ぎになるガルムの周囲……



「じゃあそこの!お前は祝福レベル幾つじゃ?」



「わ……私は、アサヒと言います!!祝福レベルは3です!!ガルムさんのパーティーダイバーズが目標で憧れです!!」



「そうかじゃあ悪いがレックの手伝いを頼んでええかの?報酬はヒロに今聞くからな……」



 ガルムはそう言うと僕に大声で話す……



「おい!ヒロ手伝いの報酬はどうすりゃいい?俺たちは流石に払わんぞ?」



「ああ!そうでした。今アユニにそっちに行く説明したら、すぐ行きます!」



 僕はそう返事をする。



「アユニちゃん悪いけど報酬の話をしに行ってくるね?リュックの所にタリスマン置いてあるから、危険と感じたらそっちに逃げ込んでね?」



「ぜぇぜぇ………はい!………ウォーターアロー!!こんちくしょー!もう1発!ウォーターアロー!!早く死ねー!!お前達が沸くから私は此処に居ないといけないんだ……ウォーターアロー!!うりゃーーー!」



「MPなくなったら……」



「回復薬飲むんですよね?知ってます。ウォーターアロー!!うりゃー、死にさらせー!!ウォーターアロー!!く……出ないですと!?……もう切れた……MPが……グビグビ……ぷはー!!コレで満タンよ!うふふふふ……たくさん撃って殺るわ!!ウォーターアロー!!………………」



 僕はアユニの『コレで満タンよ!うふふふふ……たくさん撃って殺るわ!!』と発した言葉に、二、三歩後ろに後ずさる……。


 そしてボソッと『行ってきます……』と言って、その場を離れた………

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