第791話「魔法陣の先にあったもの」
意識を失ったまま魔法陣に吸い込まれた後、辿り着いた先では新たな問題が発生していた。
僕は意識を回復する事なく横たわっていた……
『どうしよう……コレ……』
『意識無いの?………でも起きてもらわないと駄目だよね?回復させたら?』
『あら……なんか珍しい物を持ってるわね?コレを使いましょう!そうすれば私は直接関与していない事になるし……丁度良いわ!』
僕は意識を失っていたが、何か話をしているのか耳には聞こえている。
『マイマスターへ報告………意識障害を確認。直ちに回復します。……失敗……回復します……失敗………第二段階へ移行。電気ショックを実施。雷系魔法を構築。ショック開始!』
『バリバリ……バリバリバリ………バリバリバリバリ…………』
「ががががががががががが!?いてててててててて!!!な………なんだ!?なにが……………あばばばばばばばばばばばば…………」
『マイマスターへ報告。電気ショック……成功。意識レベル回復。意識は回復しましたが、HPの残り10……9……8……7。数分後に即死します。すぐにポーションの服用を勧めます。以上報告終了……』
僕はその報告を聞いて、慌ててベルトバックからポーションの瓶を抜き取り一気に飲み干す……
「ま……マジかよ……電気ショックで生き返った瞬間……数分後に即死って危険すぎやしないかな?………」
独り言を言ってしまい、若干恥ずかしいと思い周りを見る。
そこは見知らぬお姉さんが居る部屋の中だった。
「………ん?…………え!?…………何処……此処!?」
「え?此処?此処は、試練の間と人族や亜人種族は言ってるわね?正式には『原理の間』と言う場所で『狭間』の一つよ?……さぁ、意識が回復したなら、ちゃんと仕切り直しをしましょう?」
急に『原理の間よ?』と言われても僕には混乱するしかできない。
そもそも何故此処でダンジョン・アーティファクトが使えたのかも謎だ。
あのアイテムは、まともに使うのにトレンチのダンジョンの最下層に行かねばならない。
何故ならば機能の大半が死んでいるからだ。
「えっと……色々質問があるんですけど……」
僕がそう言うとお姉さんはニコニコしながら言葉を発する。
「ええ。そうよね?よく分かるわ。此処に来た全員がそう言うもの。私は『原理の間』の管理人『グレナディア』よ。そしてこっちがインガリツちゃん……リツちゃんって呼んであげて?」
「ぐ……くれなでぃあさんに院賀律さん?……え!?……まさか日本人ですか?僕と同じ様な被害でこっちの世界に?もしそうなら……あの……律さん!僕達には他にも仲間がいますよ!!」
つい、言いにくい名前に吃りが入る……
しかし日本人の様な名前を聞いて、僕は更なる被害者であり仲間に出会えたのかと思い、つい興奮する。
「私は貴方の世界の住人じゃありません。院賀律ではなく正しくはインガリツですね。グレナディアが揶揄う為にわざと発音を変えた様ですね……すいません。大馬鹿者は後でお仕置きしておきます!」
「………え!?………」
「はい?」
彼女の言葉に疑問で返したら、更に疑問で返される。
何故僕が考えていた事がわかるのか謎だから疑問で返したのだが、明確な言葉で返さないと伝わらないのかも知れない。と考えていると、すぐに返事が返ってきた。
「ですから、私は貴方の元々居た平行宇宙『太陽系MS5810-39』区画、地球の『日本人』では無いと言っているんです。ですので『因果』は苗字ではなく『律』も当然ですが名前ではありません。『インガリツ』です」
「え……日本人じゃない……の?………」
「発音が変わると意味が変わります。単純にインガリツそれが私に付けられた名称です。残念ながら、この名称も姿も貴方の知識に沿って合わせてあるものです。事象における因果関係それを全て管理する存在であり、決まった姿と名称を持たないのが本来の私です」
僕はぶったまげた……考えていた事を全部読み取られ、その上地球の話に名前のことまで話したのだから……『驚くな』と言うのが無理だろう。
もう一人のグレナディアは腹を抱えて『ゲラゲラ』笑っている。
「ひーーー!笑い死ぬ!!腹が捩れちゃう……リツちゃんを本気で怒らせた人初めてよ?でも確かに彼女『今日は初めて怒ることになるわね……』って言ってたからまぁそうなるのはわかっていたけど……まさか名前で……ぶははははは………因果律子ちゃん……良いじゃ無い!今日から律子で良いんじゃ無い?……ぶははははは………」
「却下です!………それに怒らせたのは彼で無く『クレア』貴女ですよ?」
インガリツはギロリと彼女を睨みつける……
どうやら僕がきて、今日彼女を怒らせる事は決定事項だったのだろう……
その理由は僕にはわからないが、何か理由があるから起こることになったのだけは理解できた。
何故なら彼女は因果関係を司る『ナニカ』なのだから……
「はぁ……インガリツ御免なさい大笑いして……お茶を淹れてあげるから許して?お茶好きでしょう?貴女……」
「飲み物で誤魔化さないでください。……まぁ珍しくこの身体を貰えたので頂きますけど!!」
インガリツのその言葉を聞いて僕は少し推測ができた。
何かの理由で彼女は実態を得たのだろう。
当然その理由などは教えて貰えるわけはないだろうが……
「なら結果的に怒らせたお詫びに、僕が飲み物を振る舞いますよ。珍しい物を持ってますし……」
そう言って僕はクロークからココアとチョコレートを出す。
グレナディアはそれを見て興味津々だが、インガリツは……
「どうですか?グレナディア……私が怒った結果彼は貴女の好きそうな物を提供した。言った通りになったでしょう?」
「本当だわ……はぁ良い匂い………律子ちゃんナイス!!…………ぶはははははははははははは…………」
『スッコーーン!』
大笑いしたグレナディアは勢いよく後頭部をインガリツにはたかれる……
そしてグレナディアは、勢い余って机に倒れ込み、異世界記念の一杯を一口も飲まずに全てひっくり返した……
◆◇
「………と言うわけよ?貴方がどうやって此処へきたかの説明は以上よ?」
インガリツは、僕が気を失ってからの全ての事象を話してくれた。
僕が側頭部を殴打され、穴に落ちた事。
精霊が助けてくれて僕は生きている事。
ユイにモアそしてスゥが魔法陣を起動してくれたお陰で僕はこの狭間の一つに来れた事。
そしてパーティーメンバー全員が無事脱出した事。
僕はギールの事を意識した覚えはないが、インガリツは彼について説明しなかった。
理由は『僕が聞きたくない』と心で語っていたからと言う。
「僕がギールさんの事を聞きたくない……って言いましたけど……本当ですか?」
「ええ?何故かしら?貴方は大した理由もなく側頭部を殴打され、今現時点で凄く彼を憎んでるわよね?だから『彼がどうなろうと知ったことではない』と心で思ってるじゃない?そう言う情報は私は教えないわよ?此処では情報一つにつき貴方の元の世界で言う『時間』が要求されるの。だから既に教えた情報で貴方の時間を幾らか貰ってるわよ………」
「あ……リツちゃん……ゴメン私そこ話してないわ……彼に………」
「え?知ってるわよ?でも彼はそれを了承する。知りたい情報を聞けたから感謝するんでしょう?」
「そうですね……気を失っていて知り得ない情報を教えてくれたんですから感謝以外ないですよ……」
僕はそう彼女に答えると、インガリツはニッコリ笑って……
「でも今までの情報に関してそれが『本当だと証明できるものは何もない』でしょう?……今貴方が同時に思ったことよ……。でもそれは簡単に証明できるわ。コレを見て……貴方はもう知ってるわよね?『モノリスプレート』よ?まぁ写ったものを信じるかも貴方次第だけどね?」
そう言って彼女は、モノリスプレートから映し出した映像を巻き戻す。
「コレで好きなだけ確認できるわ……でも教えた情報のみしか見れないからね?好きなだけ確認すると良いわ。私達はその間、貴方から貰ったココアとチョコレートという、異世界の食べ物を堪能するわ……」
しっかり心を読み取られて、僕には言う言葉がなかった。
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