第790話「火焔窟の攻略と其々の道」
ギール男爵は穴の底で怒声をあげる……
「ふざけるな!!なんだ……俺があの浮遊のせいで消えたって言うのか!!……ふざけるな……。俺はあのヒロ男爵を仕留めて、ドクリンゴ様に献上するんだ!!……こんな馬鹿な死に方あってたまるか!!」
それを聞いたソーラー侯爵は、辛辣な言葉とある真実を告げる。
「ギール……男爵……。お前は何故道を踏み外した?国王陛下は、決してお前の家を見限っては居ないぞ……。全部お前の父の上役である宰相の差し金だ……。自分の地位を守る為にアイツは、お前達家族と国王陛下を切り離した。お前の父はそれを知っていて、尚お前を陛下の元に送ったんだ!一から全てをやり直す為に……宰相と手を切る為に……。あの悪事に手を染めた宰相と、国王陛下を切り離す為に……この大馬鹿者が!!」
ソーラーの言葉に、マックスヴェルも言葉を詰まらせながら話す。
「お前がドクリンゴの派閥であることは、既に調査済みだ。だが自由に動かして居たのは、悪事にも色々あると知って貰いたかったからだ。悪事は決して褒められることではない……。だが……時には悪には悪を持って接しなければならない事もある。お前は何故それを見なかった……。憎しみで目をとざし、自分の家族の生き様を何故お前が曲げた!?馬鹿者め………」
マックスヴェル侯爵は『……お前は……純粋であれば……お前は間違いなく此処で戦死した……悪事などには手を出して居ない……大馬鹿者が……』とブツブツと呟きながら、ギール男爵が残る穴を後にする……
◆◇
『閑話 ウーラ家の没落』
彼の家族はギールが語った通り、先に起きた戦争時に大きな痛手を負った。
彼等は貴族の中でも有名な名家で、勇猛果敢が売りだった……
それを気に入っていた国王は直々に先鋒を言い渡したのがことの発端だった。
当然、国王の期待にそうのは彼等の誉だった。
だが残念な事に今回は相手が悪かったのだ。
相手は戦争をしに来たのであり、剣と剣を打ち合わせる気など毛頭無かったからだ。
勝てば官軍負ければ賊軍とは良く言ったものだが、ギール家の相手は結果主義者で勝利迄の過程や一騎打ちの栄光など興味がなかった。
結果、ギールの憧れであった祖父は戦死、父親は大怪我をした……
今まで勇猛果敢で名を馳せた父親は腕と脚を失い、武器を振れず戦場を駆け回れない父親にはその権威も無くなった。
それからと言うもの、内政にも必要とされず満足に活躍さえできない状態になった。
それは領地内での指示にも大きく影響してしまう。
その大きな皺寄せは、自領内のダンジョン管理だ。
遠征に参加出来ない為、満足にダンジョン内部の管理出来なくなった……
その所為で魔物の被害による人員損失が続き、無駄な死を生んだ。
そんな結果が出せないギールの父親を、宰相は職務怠慢だと咎めた。
活躍の場を失った彼の家は、次第に立場が悪くなっていった。
今まで共に歩んできた仲間は父親を見放し、彼の父親は私財を投げ打ってまで国の財政を助けた……
しかしその金銭は、王国の国庫に入ることなどなかった……悪辣貴族は当然王権派にもいるのだ。
その結果、彼の父親の爵位は伯爵から男爵へ降格。
そして自領の管理不備という理由から、管理する領地は半分にされた。
その事からウーラ家は没落貴族と呼ばれることになった。
満足に活躍できない父の代わりにギールが頑張っていたが、祖父が他界した三年後に汚名をそそげず無念の内に母が他界。
そして貧しい生活で、父親は病に侵された。
そこで彼は王権派を見限り、金回りが良いという噂の反王政派として生きる道を選んだのだ。
ヤクタと懇意になり、ドクリンゴ女公爵と契約を交わした……
そんな矢先、秘薬を発見しヤクタ男爵問題を解決した者が現れる……ちなみにそれが僕だ。
その上、ドクリンゴ女公爵の企みを打ち破り秘薬を姫に無事届けた……
反王政派側の悪辣貴族は軒並み調査対象にされる中、王都付近でダンジョンスタンピードが起きた。
『運命が自分に味方した!』と思った彼は、その混乱に乗じてドクリンゴ女公爵を救い出す案を模索した……
しかし彼が考えた救出案実行直前に、スタンピードが防がれ王国の危機を救った……王都のゴーレム配備によるものだ。
王都の貴族達は、その話で持ちきりになった……
奇しくもその時期は彼が王権派を捨て、ドクリンゴ女公爵に運命を時期と重なる。
そんな中、目立った実績がない彼の家は、当時冒険者だった僕と比べられた。
そして報酬を受け取らない僕の姿勢が気に入った王権派は、僕を貴族として召し抱えウーラ家には爵位を返上するべきだ……と声が上がってしまう。
当然、爵位返上案はウーラ家が王権派を抜けた事の腹いせだ。
だが彼はその怨みを王権派貴族では無く、度重なる結果を出し続けた僕に抱いた。
彼の企みが全て空振りで終わる中、王権派の領地でスタンピードに関する問題が起きた。
それを知った彼は、マックスヴェルに懇願しジェムズマイン遠征について同行の許可を貰った。
ダンジョンを沈静化させる事で、彼は王からの賞賛を取り返そうとしたのだ。
そしてその道中、新たな仲間である悪辣貴族からソーラー公爵家の話を聞くことになる。
『王家に不満を持ち、嘗ての自分の家族と同じ『武勇』で結果をだす貴族……』ともなれば、確かに興味を惹くだろう。
そして彼は思考を巡らせた……
ダンジョンの財宝でマックスヴェルの様に立ち回り、嘗ての勇猛果敢を武器にソーラーの様に国内のダンジョンという戦場を支配しようと……
だからマックスヴェルだけで無く、ソーラー公爵家にも関係を持とうとした訳だ。
彼はソーラーとマックスヴェルの両方に取り入り、自分の地位を確立するために動き出した。
その行動が自分に避けられない死を迎えるとは知らずに……
◆◇
エクシア一行が最下層を脱出した後、ギール男爵は一人穴の中で想いに耽る……
ソーラー侯爵が最後に発した言葉……そしてマックスヴェルが自分を泳がして居た事実……
彼は自分の馬鹿さ加減に気がついた……
「何故……俺は何故……あの男を憎んだんだ?……悪いのは国王でもアイツでもない……。お祖父様は勇敢に戦死した。父も勇敢に戦って、家の再興を俺に頼んだ……。なのに……俺は何でアイツを恨んだんだ………馬鹿だ俺は……」
彼は沈みゆく魔法陣のあった床板の中央で膝を抱いて、後悔を口に出す……
「あの宰相……アイツが……俺と親父をこんな目に………クソ…………あああ………死にたくねぇ……あのクソったれの宰相に………い……息が………空気が………く………あ……熱い………誰か!俺の代わりに………あああぁぁぁぁぁぁ………」
しかし彼には既に助かる手段がない。
溶岩から出る熱と炎は彼の衣服を焼き、彼は火に包まれる………
「あああぁぁぁぁぁ………母さん…………父さん………………御免なさい……………」
『おっと………失礼いたしますよ?貴方確か………王国の方でしたね?ちょっとお願いがあるのでご同行願えますか?まぁ報酬として……金と権力、後は焼けた体は元通りにしましょう……洋服の趣味は申し訳ないのですが……って意識が飛んで聞いてませんね?」
『まぁ断ったら………』……と言って、謎の声の主は彼を回収する……
そして不思議な呪文を唱えると、彼は黒い塊のナニカになって黒いブレスを吐くと全ての溶岩をただの岩に変える。
まぁ此処を当分の住まいにするにも悪く無いな……
どうせもう誰も来ないだろう……奴等の頭に中で此処は崩れたことになってるからな……
既に誰も居なくなったこの最下層で、人知れず起きた救出劇は何が目的か……
ギールは気を失っていたので聞くこともできず、新たな運命を与えられる……
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