第779話「火焔窟最下層と精霊アリファーン」
ソーラー侯爵が意外な事に最後までエクシアに食い下がる……
「まさか最後のダンジョンボスがグレーターミミックだとはな……騎士団でも最新の注意さえすれば、どうにか狩れる魔物だぞ?あ……いや……エクシア……手柄が欲しいわけではないぞ?決してな……」
「ソーラー、それは分かっちゃ居るけどね……万が一グレーターミミックの亜種だと困るだろう?亜種ってだけで何倍も強くなるんだからね……アンタ達だけに任せて全滅……からのダンジョンの活性化なんて、この地域からすればシャレにもならないだろう?」
ソーラー侯爵は、手柄の横取り問題は今後のファイアフォックスとの確執になると判断して、強めにその気は無いと言葉にした。
当然エクシアもそれを理解していたが、彼女は別の問題があるとハッキリといった。
冒険者はダンジョン潜りのプロだ、王国内のダンジョンをソーラー公爵が多くの兵を使ってどれほど多く潜ろうと、本職の冒険者の知識と感には敵わない。
その話に割り込む様にチャックが話し出す……彼なりに空気を読んでの事だ。
「エクシアの姉さん……結局は安定的なこのメンバーってことなんですね?四階へ降りるメンバーってのが一番無難な人選なのは確かに頷けますからね!まぁ俺的には、テロルの旦那と此処で安全を確保してた方が無難なんで良いんですけどね?宝箱出たら呼んでくだせぇや……。ミミック種って奴は、かなり宝を落としやすいっすからね!」
チャックは『シーフの仕事は宝箱の解錠がメインですからね!皆さんお気をつけて!』と言って、三階層で別れた時の緊迫感などなく送り出した……
◆◇
問題の火焔窟最下層の階段は、螺旋階段がそのまま続く形だった。
階段自体は上から降りてきた時点で、既に発見済みとなるので探す必要もなく問題は無かった。
だがこの四階層での目的は、万が一の時の避難場所と遠征失敗時に逃げ帰る為の転移陣の発見が最優先だった。
予期せぬ上級精霊の救出劇もあり、精霊救出という目的の一部も果たした。
その上、その精霊から最下層のダンジョンの主たる魔物の情報も得た……
この情報は、ダンジョン踏破に向かう一行にしてみれば吉報だった。
目的地はもう目の前にある今、下層への侵入を止める理由はなにも無かった。
だが、この遠征で失敗は許されない……
下層へ降りる前にソーラーが転移陣で行ける階層を確認したところ、火焔窟の四階層からでも地上まで出れることがわかった。
上層部である穢れノームの迷宮のダンジョンコアが崩壊した事もあり、下層の火焔窟が穢れノームの迷宮を飲み込んだようだ。
そのせいで全体が火焔窟となった為だと見られる……
この情報は、上層部の本陣にいたハラグロ男爵が、各階層から集めた情報であった。
魔物の繁殖域が大きく変わり、見られる個体が火属性の魔物に変わったという事だった。
急ぐ中この行動に至った理由は、マモンが食事を要求した為でがんとして動かなかった為であった。
その休憩を挟む間に、ソーラーが流行る気持ちを抑える為にダンジョン内部の本陣に向かった事で、運良く得られた情報でもあった……
◆◇
「とんだ時間を食っちまった……。マモンちゃんと飯を与えたんだ……その分は働けよ?」
「でもエク姉さん……飯をねだったのもマモンの計画の一部じゃねぇっすかね?……テリアが言ってたんですけど、ヒロ兄貴とエク姉さんあそこで休まなかったら連戦じゃねぇですか?魔力の枯渇とかもあったと思うんですよね?」
「確かにそうだな……シャインが甲斐甲斐しく魔力回復薬を配ってなかったら姉さん魔力量ヤバかったって言ってたじゃ無いですか……マモンとヘカテイアは魔力が馬鹿みてぇにあるから平気だろうけど、姉さん達はそうはいかないでしょう?」
エクシアの言葉に意外にもロズとベンが口を挟んだ。
確かに休憩中に色々足らないものを補給しておく時間が取れた。
まず魔力回復薬で回復できたことが大きい。
そしてポーションの類をクロークの中から、腰ベルトとボディバックに移せたのは休憩のお陰だ。
エクシアも、ポーションと異常状態の回復薬をベルトバックに移していたので、助かったのは僕と同じだろう。
「まぁ確かに?言われてみればあの休憩で補充関係は出来たことは確かだし、魔力も回復できたのは確かだよ?でも飯休憩は流石に無しだろう?長すぎんだよ……こいつ食い始めるとさ!」
エクシアはそう文句を言うが、小さな声で……『まぁ助かったけどな……』と言っていた。
「そんな事よりもう階段の一番下に着くぞ?狭い螺旋階段もようやく終わりだぜ?お前達……突入する準備は出来てんだろうな?」
「ああ、マモン……。突入はアンタが一番最初だ……。大概のことならアンタが一番対処出来んだろうからね!」
「そんな事分かってんだよ!だが言っとくぜ………既に此処からダンジョンコアが見えてやがる……。部屋はデカくねぇ……そして……残念なお知らせだ。上級精霊のアリファーンとか言う火の精霊は、既にその姿を変えちまった……」
マモンが、部屋の状況と視覚で確認できる情報を後列に居たエクシアに話す……
螺旋階段は降りるに連れて狭くなり、既に並べるのは肩を寄せた状態で三人が限界だった。
その為最前列は機動力とタフが売りのマモンとアスマ、そしてタンクのトラボルタが居た。
二列目はタンクのロズと、攻撃主体のベンとホプキンスそして三列目でやっとエクシアと僕、そしてソウマだったのだ。
ヘカテイアは?と言えば最後尾で欠伸をしている。
ほぼマモンに任せてやる気なしだ。
僕達はその隊列順序のせいで、最下層の部屋の視認ができなかった。
エクシアがマモンの報告を冗談かどうか確認するには、二列目にいたロズとベンに聞く以外方法はない……
「なんだって!?ロズ……ベン………それは本当かい?……」
「「…………………」」
「どうなんだい!?ハッキリ言いな!!」
「エク姉さん……マモンの言う通り、上のダンジョンで見た『黒い心臓』のダンジョンコアがあります……そこには紅い剣が刺さってます……多分アレがその上級精霊かと………」
「今ロズが言った事で間違いはないっす……もう部屋にはダンジョンコアと剣以外は何も見えません………」
皆はその報告に絶句する……助けに来たのが遅かったのだ……
炎の上級精霊アリファーンは、既に剣に姿を変えて最後の一撃をダンジョンコアに与えた所で息絶えたのだろう……
「じゃあ……魔物は?……アリファーンが倒して……最後の一撃を?」
エクシアが途切れ途切れに言葉を発する……最前列の三人はその言葉で、マモンを先頭にして部屋へ侵入していく……
アスマとトラボルタに至っては武器を構えてさえいない……
「だ………駄目です!!魔物の反応が部屋にあります!!」
「「!!」」
僕の言葉に『しくじった!』と言う顔をする、アスマとトラボルタだった。
だがマモンは……
「契約者……慌てんな!そんな事は既に分かってるよ……。俺にして見ればどんな敵も雑魚なんだよ……」
そう言ってマモンは、ダンジョンコアである黒い心臓が目掛けて歩いていく……そして『………ほぅ……中々やるな?……コイツ……穢れを入れねぇ様に意識を封印してやがる……。この精霊は抜け殻じゃねぇな……成程……ガス欠か……』と感心して言う……
「おい、朗報だぜ?まだコイツは助けられるぞ?アリファーンとか言ったっけか?」
「「本当か!マモン!!」」
その言葉に驚きが隠せない、アスマとトラボルタはすぐさま突き刺さった剣の側に行き、武器を構えて防御の体制を取る。
どの角度から攻撃されても良い様に、完全防御の体勢だ。
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