第780話「黒の心臓とアリファーンの剣」


 マモンは黒い心臓に刺さった剣を見て、驚きの表情をする。


「ほう……コイツは驚きだ……黒の心臓ごと結界で覆って、自分に降りかかる穢れを完全に防いだんだよ!このアリファーンって奴は。なかなかな切れ者だな。この状況からして運良く剣がコアの障壁を突き抜けて、ダメージを与えた様だな……。だが残念ながら決定打にはならなかった様だ……」



 その言葉を聞いた僕達は慌てて、マモン達に続き最下層の部屋へ侵入する。


 僕はようやく中に入れた事で最下層を確認できた。


 部屋は王宮内部の様な作りになっていて、その中央にダンジョンコアである黒い心臓が浮いている。


 その心臓にはマモンの言った通りの剣が刺さっていた。



 部屋に入ったメンバーの大半は、エクシアの指示で部屋の入り口周辺に集まる。


 何があっても退路だけは確保する為だ。



「マモン……コレはどう言う状態なんだい?どう見ても剣がしっかり刺さってる様に見えるんだけどね?……何故刺さってるのにコアを壊せてないんだい?」



「エクシア……簡単な話だぜ?此処を見てみろ……ダンジョンコアの周囲の障壁を破壊はできたが、剣の先端部しか刺さらなかったって事さ。本来そこでこの精霊はご臨終だったんだが、最後の力でこの空間の時を止めて封印したのさ……だからダンジョンの成長が止まり、此処のダンジョンの主も止まっちまった。だから、此処の主も攻撃してこねぇって事だな……」



 マモンの説明では、アリファーンは時間封印能力を使い、ダンジョンコアごとまるまる囲って主要機関をまるッと封印したようだ。



 このダンジョンの核を封印した事で、著しく成長が遅くなったので、火焔窟は5階層と言う低層帯のダンジョンになった。


 どうやらボスクラスの魔物の再誕生に7日もかかる理由は、コレが影響している様だとマモンは言う……



「だが封印を解けば、雑魚ではあるが間違いなくグレーターミミックには襲われるぞ?そしてこの精霊を助けるには、ヒロお前がこの剣を使い、封印障壁を破壊して精霊力を剣に注ぐ必要がある。その上でフロアボスを倒してから、この剣で黒い心臓を完全に破壊出来ればお前達の勝利で、精霊アリファーンはこのダンジョンから解放される……」



 どうやらこの剣を扱えるのは、精霊使いだけの様だ。


 その理由は簡単で、精霊が作った結界に自分の手を入れる事が出来るのが、そもそも精霊使いだけだとマモンは言う。


 目の前にある結界は、それだけ特殊なモノなのだろう……



「ヒロ!早く来い……。この剣はマモンの言う通り、俺達には今いるこの場から黒い心臓のダンジョンコアには一歩だって近付けやしない!!……魔物の攻撃は俺たちが何とかする……ソウマにロズはこっちに来い!」



 アスマがそう説明をすると、トラボルタも周囲に指示を飛ばす……



「ホプキンス!お前はテイラーとシャインを手伝って共に退路を確保しろ。今はマモンの言う通り敵さんは動かねぇ。今のうちに退路用の防御の陣をテイラーと構築しろ!今すぐだ、こっちはお前達の準備はまてんぞ?いいな……」



「おう!トラボルタ任せとけ!」



 トラボルタの言葉にホプキンスが答えるが、防御陣といえばテイラーが主体になる。


 テイラーは周囲の冒険者から選りすぐりのメンバーで、ダンジョンコアから階層入り口まで配置する。



「流石だな……テイラー男爵様!冒険者上がりの男爵様は仕事が早え!」



「ホプキンス……おべっかは辞めてくれ。コレでも銀級だからな、コレくらいできないければ銀級リーダーはやってられんさ。それより此処からの指示はホプキンスに頼むぞ?トラボルタとの付き合いが長いのは、アンタで間違いないんだからな?」



  ホプキンスは『ああ、任せとけ!さぁ……いよいよ運命の戦闘が始まるぜ?野郎ども!……何があっても死ぬんじゃねぇぞ?』と言うと、油断なく武器を構える……



 ◆◇



「マモン……こ……これで良いの?」



「お前は黙って剣の柄を握ってれば良い……いいか?精霊ども……俺が今、ダンジョンコアに刺激を与える。そうする事でダンジョンコアに貼ってる穢れの障壁は全部ぶっ壊れる。そうしたらお前達はコイツの中から精霊力を剣に流し込め!……ヒロ、テメェは周りの雑魚は冒険者に任せろ、そしてこっちに集中して精霊に話しかけ続けろ……いいな?ヒロお前が失敗したら……この周辺全部が吹き飛ぶぜ?」



 細かい説明を全て端折るマモンは僕達に説明をすると、ヘカテイアに指示を出す……



「ヘカテイア!いいか……お前は何があってもその出口を死守しろ……契約者が死んだらお前は向こうに逆戻りじゃねぇぞ?そのホムンクルスの身体に縛り付けられる。もう根が張ってんだろう?……いいかヤベェ時はコイツだけはそっちに放り投げる……。お前は抱えて上に行け!」



「はん……随分お優しいね?ってか失敗させんじゃねぇよ……何が何でも成功させな!……アタイは探し物があるんだ。契約者が意気消沈してたら探しに行けねぇだろう?……アタイがそっちと変わろうかい?」



「馬鹿をいえ……オメェに任せた方が失敗するわ!………」



 ヘカテイアと打ち合わせを短くしたマモンは、短く『行くぞ!』と言うと穢れの障壁を一気に破壊する。


 僕は紅い剣の柄を掴んだままで、念話で健に向かって話しかけ続ける……



『アリファーン!起きろ!……起きて僕に声を聞いてくれ!!』



 どんどん身体から精霊力をと言う物が流れ込んでいくのがわかる……


 酷い虚脱感に襲われるが、それをボヤいている暇はない。



『アリファーン!起きろ!……起きて僕に声を聞いてくれ!!……精霊界の火の精霊達に為に、この周囲の人族のために、生きている生き物達のために……目覚めてくれ!!』



『ドクン………ドクン………』



 僕の心臓が激しく脈を打つ……


 身体が悲鳴を上げている……精霊力を流し込んでいるだけでは無い。


 僕の身体にはもう一人、火の上級精霊のフランメが居るのだ。



 精霊力を必要とするのはアリファーンとフランメだけでは無い。


 力を貸してくれている、水っ子に風っ子そして森っ子にサラマンダー、ノーミーに雪ん子も全員が必要としている。



『うぉぉぉぉぉ!!ダンジョンコア……穢れと共に死にやがれー!!』



 目覚めたばかりのアリファーンは、攻撃の最中に封印状態になった様だ……


 剣の状態で念話を周囲にぶちまける……



『いけない!!眠る前の記憶を忘れているわ!……記憶の混濁よ……今すぐ彼女を抑えないと!……全力攻撃する気よ………』



『アドムマウトゥ………《ウォータープリズン!!》……ガボガボガボガボ…………』



 僕は水魔法でアリファーン諸共ダンジョンコアを水の檻に沈める………



 一瞬だったが、ウォータープリズンの中で火が起きる。


 だが燃焼には必要な要素が水の中には無いので、その火はすぐに消えてしまう……



『ウォータープリズン!解除!!』



 プリズン効果は短期間だったが、魔法は水の中で炸裂して効果が外に出ることはなかった。


 アリファーンが扱ったのが、炎の魔法だったのが幸いした様だ。


 瞬間爆発系の魔法だったら、水の檻ごと破壊されていたかもしれない。



『なんばしよっとかーーーーーー!!上級精霊たる私の火を消そうとするとは何事か!………それに私の魔法を台無しにして……邪魔するんじゃ無いよ人間!!誰に為に戦って……………あれ?………人間?……え!?………』



「今だ……ヒロその剣を引き抜け………今すぐだ。アスマ、ダンジョンコアだ。仙術をぶち込んで内部から破壊しろ!!ダンジョンコアの再活動が始まった……穢れ障壁再築まで時間がねぇぞ!……」



 アスマは力をすでに練っていた様で渾身の一撃を放った。

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