第776話「精霊の常識」


 疑問だったイフリーテスとジンニーヤの名前の関係性を、魔法に詳しいゲオルに聞くといたって簡単だった。


 イフリーテスと名乗れるのは炎帝になった者だけで、それ以外は基本的にはジンニーヤと呼ばれるそうだ。



 一応その呼び方は、精霊から伝わってきたもので、この世界の人が決めたものでは無いらしい。


 しかし彼女達には個々の名前の概念は希薄で、信仰の対象としての総称としてしか機能していないと言う。



 なので、フランムやフランメそしてアリファーンの様な個体名称がある精霊は、識別の為に人間からも精霊からもその個体名称で呼ばれるそうだ。



 謎が解決したので一安心した僕は、イフリーテスの個体名称が気になった……



「じゃあイフリーテスさんは、本来なんと呼ばれてるんですか?」



「は!?何言ってんだいアンタ……」



「え!?……だから……って……何言ってんですか?ヒロ兄……マジで言ってます?」



「え?イフリーテスよ?炎帝はそんなに沢山いる訳ないからねぇ……あとは一応……炎の女帝とは呼ばれてるはね?男性型はちなみにイフリートもしくは炎帝とか……ランプの魔王とか紅宝石の魔神とかよ?そもそも私達をホイホイと簡単には呼べないのよ……ねぇ?エルフレア?」



「ヒロさんそうですよ!このエルフレア、召喚に失敗して消し炭になりそうになった事が何度もあるんですから!!って言うかこのパーティーに居ると気がおかしくなりそうなんです……だってエクシアさんは火の神を降ろすし、ヒロさんは精霊どころか雨と雷の神様まで化現されるし………肩身が狭いです……」



 僕はどうやらエルフレアの気にしている部分をついた様だ……


 珍しくエルフレアの女性らしさを見せて涙ぐんでいる。


 僕はバツが悪くなり、元の話を強引に持ってくる……



「な……何はともあれ最下層にいる階層主には、上級精霊アリファーンが取り込まれている可能性がある訳ですね?ならば行く人数を厳選しないと、かなり危険と言うことになるのでは?堀川がもし居たら尚更危険ですし……」



「まぁそう言う事になるね。フランムは一緒に来て欲しいと言いたいところだけど……今の状況では無理なのはわかってる。だからこの階層でテロル達と帰りを待っててくれるかい?出来れば、ガーディアンが復活した時にテロル達を助けてくれるとアタイ達とすれば尚更いいね……」



 エクシアはなるべく足手纏いは避けたい様だ。


 それが例え力ある精霊種であっても、助けるべき精霊種だけに万が一にもその精霊が弱点になるのだけは避けたいのだろう。


 それを理解してだか、フランムは自分の知っている限りの情報をエクシアに伝えた。



『エクシアそれについては心配はありませんよ?この階層主が再度誕生するのは今日から7日後です。火焔窟のボスクラスの魔物は特殊系なので、再度出現するまでが長いのです……。ダンジョンに取り込まれこの階層の階層主をやっていた時の記憶なので間違いはありません』



「そうなのかい?なら逆にその空白期間は大助かりだ……。因みに再出現するのは……あの邪龍ポゼストドラコーなのかい?」



『いえいえ……此処の魔物はパイロジャイアントです。あのポゼストドラコーは、別の空間から無理やり放り込まれたものですから……。偶然此処にいた私達姉妹は、あのポゼストドラコーにパイロジャイアント諸共捕食された形になりますね……』



 僕はパイロジャイアントと聞いて、水魔法を撃ったパイロオーガを思い出した……



「ちょっと聞きたいのですが……此処のパイロジャイアントもパイロオーガの様に水魔法で大爆発するって事ですか?もしそうならミミさんでも対処できそうだと思って……。あと知ってたらで良いのですが、最下層の魔物はパイロと名がつく魔物ですかね?」



『いえ……この火焔窟のダンジョンボスはグレーター・ミミックと呼ばれる擬態が得意なミミック種ですね。あと……名前にパイロを冠する種は、主に水魔法で蒸気爆発を起こす傾向が強いです。なので威力の強い水魔法は爆発しますが……パイロオーガを爆発させられる水魔法は、主に精霊魔法であると思うのですが……』



 そう言ってフランムは僕の横にいる水っ子を見ると、若干引いた目をする。



『ちょっと待ちなさいよ!私は何もしてないわよ?勝手にヒロがワテクシが教えたウォータースフィアをぶっ放しただけですから!私は無実です!!』



『水っ子さん………いえ……精霊同士なので、ウンディーネとお呼びした方がいいですね、まさか貴女は人間に対して精霊が扱う魔法の手解きをしたと?そしてこの方がそれを覚えたと……本当に言うんですか?嘘を言うにも程がありますよ?精霊は嘘を………え?……何この空気……』



 全員が若干引き気味で僕を見る……


 そしてカーデルは幼馴染のミミを見て大きなため息をつく……


 当然彼女もウォータースフィアを扱えるからだ。



「一見は百聞にしかずって言うから……フランムに見せたほうがいいんじゃないか?絶対信用してないから、やって見せた方がいいぜ?」



 ソウマがそう言うので、僕はウォータースフィアを手の平に出してから、近くの壁にぶつける………




『ドガーーーーーーン』



『!?……え?………今の魔法は何ですか?……え!?……』



『ホラ!私が言った通りでしょう?……コイツ変なのよ……。そもそも聖樹っ子の話では、人族が扱える『アイスの魔法』を説明半ばで会得したとか言ってたから……脳の作りが人じゃないんじゃない?……ってか教えた時より、威力が倍以上増してるんですけど?……どうやったのよ?言いなさいよ!今すぐ!!』



 それを聞いた風っ子もウンウンと頷きながら……



『そもそも勝手に魔法作るしね?変な奴を通り越してキショイわ………でもね?フランム。他の人族はこうじゃないのよ?此処も異世界も人間は割とまともなの!いい良く聞いてね?あくまでもこのヒロが特別製なだけで、他の人間は至って普通なのよ?』



『ウンディーネ、たしかに貴女の言いたい事は分かるわ!あの魔法はどう見ても人族が扱える威力じゃ無いもの!!パイロオーガが爆発ってなんの事?って思ったけど……絶対に異常よ!あの壁……見てよ?向こうの通路まで丸見えよ?ダンジョンの壁はそうそう壊せない作りなのよ?……でも良かったわ。今の世の中がこんな人間ばかりになったのか……ちょっと心配したもの……』



『あ………うん………たしかにヒロ以外にも、ちょっと変わってる感はあるけどね?でもほぼ他の人種はマトモよ?………』



『ちょっと……ウンディーネ怖いこと言わないでよ……ほぼマトモよって………。あ…………エクシアって人もまともじゃ無いわね……少なくとも私は6000天近くは見てないから……神格降臨絡みは……。それも現在の神々では無く、チャンティコ様って言ったら古の神の一柱よ?……だからヒロって人は異常なのよ!!考えてみれば……この人は神格化現に神格降臨の両方じゃない!!』



 風っ子もフランムも辛辣な言葉を言うが、今はそれは問題ではない……


 そもそもエクシアだってチャンティコを化現させられる……


 今回は手っ取り早く仕留める為に、完全なチャンティコになっただけなのだから。



 それはそうと、僕の関心を引いた事……それは何故か風っ子が『キショイ』と言う言葉を使った事だ。


 僕がアーチを見ると、アーチはすぐに目を逸らす………どうやら犯人は見つかった………



 最近風っ子が現代じみた発言やら、やたら向こうに世界に興味を示していたのだが……


 どうやらその根源はアーチの様だった。



 それにそもそもの事だが、パイロオーガの爆発情報は金級冒険者の三人から聞いた情報だ。


 特に詳しく教えてくれたのがアスマで、追加情報はトラボルタとホプキンスなので僕由来ではない……

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