第775話「精霊診療所!?僕の身体の使い道」


 念話で話す精霊達の雑談は皆には聞こえないが、かなり騒々しい。


 稀に念話で奇声が聞こえるのはどうやらサラマンダーが話している様だが、全員理解できているのに、僕だけ解らないのは正直やるせない気分になる……


「それで?どうするとこのジンニーヤは助かるの?」



『精霊核制御のためにヒロ……貴方の中で休ませるのよ。この火の上級種様は今は意識が無い以上自分で精霊界には帰れない上に、自分で精霊力を吸収も出来ない。でも貴方の中には有り余って破裂寸前の精霊力がある』



『風っ子のいう通りよ。付け加えるなら……それを糧にこの子は回復が出来る上に、ヒロは精霊力で暴走とパンクはしなくなるわ。結果的に助けられるし、目覚めたら自分から精霊界に帰るだろうしね?ヒロ的にも上級種と繋がりを持つにはいい機会でしょう?』



 サラマンダーは短い前脚で器用に僕のくるぶしをペチペチ叩きながら『早くしろ』と訴えているようだ。



『双子の私の妹を救っていただけませんか?……今のままではとても持ちません……せっかく助かりましたがこのままではいずれ精霊力が尽きて精霊核の暴走で消えてしまいます』



 ヘカテイアに救われた炎の双姫は僕に懇願するが、ウインドブレーカーのマモンは名前の通りその空気感をぶっ壊した……



「つべこべ面倒くせえな?俺達の契約者は学習不足で、入れちまえば自分でどうすることも出来ねぇんだ……こうして放り込んじまえばいいんだよ!」



 マモンは精霊達の円陣に割り込んで勝手に話を進める。


 そして炎の双姫の片方を魔力で包むと、何も言わずに僕の身体に押し付けた……



 スルリと違和感も何も無く精霊が僕の中に入り込む。


 その途端、火の精霊についての知識と精霊種の知識やタブーが流れる様に頭に流れ込んできた。



「エクシア!後は侵入会議だかなんだかをさっさとして、最下層に行くぞ?……その前に会議といえば……飯だよな?ユイナ飯はまだか?」



「呆れたもんだねぇ……。選択肢がないから有無を言わさずって言うのはこの状態だと悪くは無いけど……炎の精霊だったら私が変わりたいくらいだよ!!」


 精霊達は『ハッ!?』としてエクシアを見る……



「ちょ……まさか……私でもアリだったなんて……言わないよねぇ?」



 流れてきた知識を確認すると、チャンティコを扱えるエクシアで全く問題はなかった……


 それどころか僕の様に他種の精霊を扱わず、炎一本のエクシアは最適だった。



「そのまさかですね……寧ろエクシアさんにはチャンティコも居るし、属性は火属性のみなので……最適だった様です……」



「じゃあ!今からでも遅くないんじゃ無いかい?」



「悪いなエクシア……そりゃ無理だ。意識が無い精霊を引っ張り出せねぇんだよ。気がつく迄そのままだ。確かにエクシアでも良かったなぁスマンスマン……」


 マモンは精霊達が騒ぐので、顔に似合わず気を利かせたつもりだった様だ。


 精霊力暴走の件もあったので尚更気を利かせた様だが、エクシアの事は精霊含めて皆完全に頭から抜けていたという。



 ちなみにチャンティコに至っては、その事を黙っていたそうだ。


 理由は自分が使える精霊力が減る事で、この世界に化現できる時間が減るからだという……



 ◆◇



「じゃあ……情報を纏めるよ?……アンタ達炎の双姫ってのは火の上級精霊で珍しい双子だったと……。精霊にしては双子は珍しい事で、共にいる事で魔法効果が2倍になるんだね?」



『はい!そうです。私たち姉妹は珍しい個体なので……それで精霊界からこの地を救うために来たものの……最終的にはダンジョンに飲まれてしまったという訳です』



「でもそんなに強い精霊に何かができる魔物は居るのかい?」



『それが……実は魔物では無いんです……。見かけは人間の格好をしていて、人語を話していたので……惑わされたと言う訳です。服装が特殊で、まるでコオロギと言う異世界の虫の様な後ろ姿でした……』


 彼女は火を操りコオロギの形を作り出す。


 明確には伝わらないだろうが、少しでも情報になれば……と言う配慮からだ。



「エクシアさん………それって堀川では?」



「ああ……ほぼ間違いないね……。アイツはこの場所を知っていた。だからあの土精霊の最下層を弄くり回して、アタイ達をここへ送り込んだんだからね……」



 そんな会話から始まった精霊への聴き取り調査は、最下層の情報を聞くために始まった。



 この土地には王国の旧王都があったそうだ。


 その地下には墓所が広がり、更にその下にはエルフ王国の技術である魔法陣が用意されていたという。



 しかし、どういう訳で国王は王都地下に墓所を作り王家の墓にしたか……それは今となっては不明だ。


 そして市民の墓所に王都地下では無く関しては、今のジェムズマインの街がある場所に作ったという。



 その頃墓所は地上にあったが、当然ゼフィランサスやフレディ爺さんの過去の所業で、今となっては全て地中に埋まっている。



 旧王都がエルフ国と国交があったのかをエルフ達に聞くと、今の王国より頻繁に訪れていたくらい双方の仲は良かったという。



 しかし墓所という場所は、穢れが溜まりやすい。


 当然旧王都もそれは回避できず、その結果多くの穢れを引き寄せる場所になったという。



 悪しきアンデッドの巣窟には、浄化の火が欠かせない。


 そこで旧王都では当時のエルフ国に願いをだし、火の精霊を祀りその地を浄化しようとしたという。



 そこでこの地に来たのが炎の双姫と、もう一人の上級精霊アリファーンだという。



 アリファーンと呼ばれる精霊は、彼女達二人が一人前の火の精霊になる様に教育した教育係だという……要は精霊界では上役と言ったところだろう。


 ちなみに彼女達の名前は人間が命名したそうで、双姫の姉の方をフランムと、妹をフランメと呼んだ。



 意味はアリファーンは『火』で、姉妹の方は『炎』だと言う。



「それでフランムさん、最下層の封印を担当していたのがアリファーンって言う上級精霊で間違いないんですね?」


『はい。そうですね……彼女は私達ほど魔法の威力は高くは無いですが、手数と詠唱速度が段違いに速いのです……それにそもそも精霊はなんたるかを私たち姉妹に教えてくれたのは彼女ですから……』



「ちなみになんだけどさ……その上役が穢れている可能性は?」



『………………考えたくありませんが…………おそらく……』



 フランムがそう言うと、ホムンクルスの身体に化現しているイフリーテスが側に来る……


「私がいれば引き戻す位は出来るわよ?下級精霊は意識が小さいから、穢れの影響を受けない為に意識封印をしている中級種からじゃ無いと戻せないけど……」



『!?………えええ!?………何故此処に!?………炎の女帝イフリーテス様?……ですよね?……一体その身体は?」



「太陽エルフ族に憑魔を与えたら、偶然エルフレアという娘に渡ったみたいなの。一目見てあの人間は異常だからエルフレアに相談したら紹介してくれるって言うから、この人間と永続契約をしたのよ」



「ああ確かにこの永続契約はめっけもんだったな!契約一つでこのホムンクルスの身体も貰えるしな?周りは精霊信仰者しかいねぇから信仰心に困る事はねぇし……。イフリーテスお前も信仰のシンボルとして、太陽エルフ族の国へ行けばいいんじゃねぇか?どうせその坊主には山程精霊がくっついてんだからよぉ……」



 声の方向を見ると、あからさまに氷の精霊であると分かる格好のフロスティが居た。


 当然フランムは目を見開いて驚いている……


 

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