第770話「4階層の底にある部屋」


 僕は侯爵の二人へ返答する……


「転移陣があればそこから上の階層へ飛んで、此処の螺旋階段はスキップ出来ますよ?今までの部屋を確認しているのはあくまでも『転移陣のある部屋』を確認しているからなので……」



 マックスヴェルとソーラーだけで無く、エクシアまでもビックリして僕を見る。



「アンタ……全部の部屋に入って地図で確認していた理由はそれなのかい!?アタシャてっきり安全部屋の確認の為だとばかり思っていたよ!そうか……転移陣があればこの長い道は関係無いんだな……って事は最下層近くに転移陣の部屋があるのが濃厚って事になるかもだね……」


「成程な……。何故魔物が居ると外からわかる部屋を見て回るのか謎だったが……そうか転移陣の部屋か……。ちなみにスキップっていう意味は『飛ばす』って事で良いんだよな?……」



 ソーラー侯爵のその言葉に僕は小さい時にスキップもした事がないのか?と思ってしまうと、リーチウムが父親へ耳打ちをした。


 ソーラーは顔を赤くしながら『か……確認しただけだ!大人になってからするもんでは無いだろう!?』と怒っているのでスキップという言葉はこの世界でも共通の様だ。



 そんなやり取りをしつつ緊張感のない移動を続ける。


 休息を含め丸一日という長い時間を費やして、漸く螺旋階段フロア第四層の一番底へ到着した……



 そして僕達は漸く探し求めていた転移陣のある部屋を発見した。



「くそ………よりによって……ガーディアンの部屋じゃねぇか……」



「ああ……ホプキンス予想はしていただろう?この階層はヌルイ階層だと。魔物は部屋から出てこない、その上螺旋階段だけが延々と続きやがる。だとしたらこの先にあるのはこの部屋しかねぇってな!!」



「確かにな!でもよ……トラボルタ……視認阻害の部屋だって想像してたか?お前……」



「してねぇよ……それもこの部屋は最悪だ……。入ったら最後倒すまで出られねぇ『試練の間』じゃねぇか……。それにしても巨大な塔型の螺旋階段と言い……試練の間といい……視認阻害といい……このダンジョンは性格が悪いぜ!」



 トラボルタとホプキンスは、自分たち金級冒険者が先陣を切って入る事を覚悟していた様だ。


 しかしエクシアは全く違うことを言い始める……



「マモン、ヘカテイアアンタ達二人はアタイに手を貸せ!嫌とは言わせない。ヒロの所属しているギルドのリーダーはアタイだ。嫌だっていうなら、お前達のいた世界へ今すぐ帰る様にヒロに言い渡す……マモン、アンタは自由になったからと言って『ヘカテイア』に変な命令をされて何かがあったら困るだろう?」



 その言葉に皆がびっくりする……当然僕もだ……



「マモン……エクシアが割と真面目にお願いしてるわよ?笑ってないから本気みたいよ?」



「どっちが悪魔だかこうなったら本当にわからねぇな……。まぁ良いぜ……お前の我が儘に乗ってやるよ。その代わり何かいい物あったら頂くぜ?そっちの炎帝と氷獣に言っとけよ?俺たちから奪うのは無しだってな?」



「大丈夫だ。此処から先はアタイとヒロ。そしてマモン……アンタとヘカテイアの四人で行く。休息と螺旋を降りるのに1日かけちまった……時間がねぇんだ。だから全開で行くから周りが居ると迷惑なんだよ……」



 僕はエクシアの言いたい事をすぐに理解した。


 ヘカテイアとマモンは、チャンティコを化現させたエクシアの攻撃に耐えられる。


 そして僕がトラロックを化現させても同様だ。



 周りに冒険者がいれば被害も出る上威力を調節しなければならない……そうなると不必要な時間がかかると言いたいのだろう。



「くっくっく……この最下層間近にきて全力か?まだ最下層じゃないのにか?まぁお前が決めた事に反対などはせんがな……」



 そう笑い声をあげたのはマックスヴェル侯爵だった。



「そうだなマックヴェル私達がどう足掻いても試練の間に入る事など出来ぬ。エクシア達が討伐した後以外はな……。侵入した冒険者パーティー分、無駄に魔物を増やし彼等の手間を増やすだけだ。しかしショックだな……実際に足手纏いと言われるとは……訓練せねばならない理由ができたなお互いに……」



「ああ……ソーラー。悔しくて叶わんよ………今までは何としてでも……貴族の力を使ってでも……脅してでもついて行ったこのマックスヴェルが……ついて行くと言えない状況とはな……」



 ロズもベンもエクシアに決定には口を挟まない。


 唯一シャインだけが泣きそうな顔で僕を止める様に、ロズや兄であるテイラーに怒鳴っている。



「ヒロ良いかい?今すぐ準備をするよ?一番手はアタイだ。状況判断は各々に任せる。相手を見たら即接敵で周りを見ずに全力攻撃だ!反撃の時間を与えるんじゃないよ……いいね?」



 エクシアはそういうと、周囲に意見を言わさない様にチャンティコになるための詠唱をする。



「おいで!現し身の焔蛇!……『炎の女神!山神たる力を!』我らが眷属を救う為に、悪しき敵を焼き払え!!来れ!『チャンティコ』」



 エクシアがチャンティコになりガーディアンの居る部屋に飛び込もうとすると、エクシアに進路を妨害する様にヘカテイアが一番最初に飛び込む……



「エクシア悪いわね!私が一番よ?」



「テ………テメェ!汚ねぇぞ!また独り占めする気か……クソアマが!!させねぇぞ?炎の双姫の片割れの穢れは俺が貰う!!」



 そう言ってマモンまでヘカテイアの後を追い飛び込んでいく……



「エクシアさん……炎の双姫って?……」



「そんなもんアタイが知るかよ!!中に入ればすぐに分かる筈だろうが!!アイツら勝手ばかりしやがって……いくぞヒロ!!アイツ等にはお仕置きだ!!」



 そう言って激怒するエクシアも、僕を置いて試練の間に飛び込んでいった……



 ◆◇



「エクシアさん?ちょっと……待って………。ああもう!!………皆さん、この場は任せますね?僕はエクシアさんを追っかけます。僕かエクシアさんが出てくるまでは一応中に入らず待機して下さい。1時間しても出てこなかったらソウマさんは、後の行動をウィンディア伯爵と決めてください。では行ってきます!」



 僕は矢継ぎ早にそう言うと、視認阻害効果のある門を潜り中に入る。


 そして僕は、入った瞬間トラロックを化現させる。



『トラロック、今すぐ力を貸して!』



『当たり前だ!流石のお前でも、こんな場所にいたらコンガリ丸焦げだ。そうなったら俺の計画が総崩れじゃないか……折角あの街で私の信者を増やす計画をしていたのに!!当分はトラロック神への信仰の力も問題ないと思っておったのに……』



『ゲシェムオスカーヴァント!!』



 何処から話を把握していたのか、トラロックはあっという間に化現をしてから即座に魔法を唱える。


 すると若干だが周囲の様子が歪んで見え始めた。


 どうやら僕の周囲には結界が張り巡らされた様だ……



 状況の変化はそれだけでは無い……トラロックが何かを唱えた途端、雨雲も無いのに部屋の天井から雨が激しく降り出した。


 天井がボヤけて見えるので、何か特殊な効果があるのだろう……



 そして雷鳴が轟いたかと思うと僕目掛けて雷が落ちる……


 しかし僕は感電することもなく、何故か落ちたはずの雷は僕の周囲を回る様に放電し続けている……



 この特殊な雨と雷も含めてトラロックが張った結界だと気がつくには、あまり時間は掛からなかった。



 その理由は簡単で、死角から巨大な尻尾で僕は打ち据えられそうになったのだ。


 しかし周りで放電する雷が壁になり、その巨大な尻尾を跳ね返したので結界だと気がつくことが出来た。



 僕は尻尾が来た方向を見ると、そこには巨大かつ真っ赤に燃える火龍が居た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る