第769話「地下奥に続く巨大な螺旋階段」
マモンが立体構造で第四層を再現する。
空間魔法の一つで既に使った魔法だが、その精度は魔法の地図とは比べ物にならないほど凄かった……
「マジかよ………まさか……こんな長さが?マモン何かの冗談だよな?」
「そのまさかだな……ロズ。此処は塔だとすれば、入って来たところは屋上だろう?だったら一番下まであるんじゃねぇか?だって……話では塔なんだろう?」
エクシアやマックスヴェル達も、マモンの言う事を既に想定していたのだろう。
驚きこそ少ないが、顔はうんざりしている様子が見て取れる。
「何にせよかなり高い上場所にいる上に、時間があるわけでも無い……文句を言う前に一段でも速く降りるしか無いね。でも落ちちまったら命は無いから安全に降りるよ!運がいい事に王宮にある塔がモチーフなだけあって、足場の心配は今の所ないからね!」
エクシアの言葉で僕達は緩やかな石畳を進んでいく……
塔の作りが余りにも巨大なので、階段にはあまり勾配が急では無く割と緩やかなのだ。
そのかわり非常に長い距離を歩かなければならないので、膝に疲労が溜まる……
「魔物がいねぇのが救いですね……まぁ横並びでも四人は余裕で立てるくらい一段がデカいから、魔物が居ても何とかなりそうですがね……」
ロズの言った通り、先に進むに連れて一段は大きくなり今や四人は横に並べるほど段そのものが大きかった。
そして所々に部屋があり、その前だけは幅の広い作りになっていたので十分に休むことができた。
問題は部屋だったが、中に入ると魔物が湧き出す仕組みの様だった。
そしてその部屋の魔物は湧き出すスピードが異常に早いので、部屋の中ではとても休息を取れる環境では無かった。
「まぁ休憩を取るなら階段で十分だけど……これは流石に飯を作るにも大変だわな。そろそろ満足な飯を取っておかないとね……。お日さんやお月さんを見てないから時間感覚がおかしいけど、かなりダンジョンに居るんだからね!」
途中、小休憩時に其々が軽く何かしらを食べてはいたが、満足できる量の食事では決して無かった。
エクシアはそれを気にしていた様だ。
「いっその事こと此処で休憩をしっかり取ろうかね……。この先どれだけ休める場所があるかわからないから、睡眠含めて取っておくのが無難かもだね……」
エクシアはそう言うと見張りの順序を決める……
僕達は寝るには全く適さない幅の広い階段で食事を取り寝る事になった。
「唯一の救いはユイナとミサの飯だな……。こんなダンジョンの奥深くで干し肉と乾涸びた保存用の黒パンじゃないのが救われるねぇ。そう思わないか?マックスヴェ………」
「ガツガツ………むしゃむしゃ………ゴクン。グビグビ………おい、そっちの肉取ってくれ、こっちの肉も絶品で美味いぞ!お前達も遠慮なんかせずに食べろ、今日が最後の晩餐になるかも知れないんだぞ?……エクシアなんだ?すまないな……食べるのに夢中で聞きそびれた……おいマモン!皿を抱えて食うのは行儀が悪いぞ!」
「まぁ……いいさね……。ゆっくり……しっかり食って、ちゃんと見張りやってくれればね………」
エクシアがそう言うのも無理はなかった……
本来、ダンジョンで食べられるものと言えば塩漬けにして長期保存できる様になった干し肉や、水分が完全に抜けるまでガチガチに干した黒パンと呼ばれる保存用のパンだ。
通常冒険者達は、それをお湯で戻しスープなどにして食べるのだ……
稀にパーティー内に料理人を抱えている冒険者達も居るが、その多くは貴族であったり金級冒険者が多い。
マジックバッグに生鮮食品を詰め込む事も勿論あるが、入れられる量は保存食に比べ非常に少ない。
その上、討伐の結果得た素材や宝が嵩張りマジックバッグの保存領域を占有するのは目に見えている。
だからこそ予定以上の食料などを持ちこむ事はできないのだ。
だからこそマジックバッグと同等のスキルを持つダンジョン・コック『料理人』は重宝されるのだ……
例え戦闘では補助職の役目であっても、冒険全般において身体管理を任せられる存在は彼らしか居ないからだ。
しかし、彼らが喜んで食べている料理を用意したユイナとミサは、ダンジョン・コックではない。
あくまで栄養士免許を持つユイナと、普段から母親の家事手伝いをしていた親孝行者であるミサの料理の腕前が既にスキルに反映される程の状態だっただけだろう。
なのでダンジョン・コックの様な、食材収納に関するスキルを彼女達は持っていない。
材料はあくまで僕が預かっているだけだ。
今はマジックグローブがないのでマジッククロークだが、持ち込める量はグローブと同じだ。
取り込む際にはサイズにこそ問題はあるが、クロークで包める物ならば問題なくしまえるからだ。
しかしその事実は言えないので、ユイナはマジックバッグを例に挙げて言う……
「貴方達も大型のマジックバッグを持っていれば、今より多くの生鮮食品を運べるわよ?それに万が一の時の薬品もね?武器防具の新調もいいけど、健康の維持こそ冒険の成功に繋がるの!よく覚えておきなさい?……さぁ、野菜炒めのオカワリよ?ちゃんとビタミンも取らないとね!」
「飯の量は十分あるから奪い合うなよ?あとは飯を食い終わった奴は見張りと交代してやれよ。これから先は今くらいしか休めねぇからな?」
ユイナの話の後にロズが、マックスヴェル侯爵とソーラー侯爵の連れてきた冒険者にそう言うと『おしじゃあ俺は見張りに行ってきますぜ!姉さん。ユイナとミサご馳走さん!今日も飯は滅茶苦茶美味かったぜ!テリアに今度料理教えてやってくれ』と言うと見張りを交代に行く。
テリアも会釈をした後『今度宿泊先の宿に行きますので料理教えてくださいね!』と言ってからロズを追っかけていった。
「何だかねぇ……あのロズに彼女が出来るってなると……なんかこうモヤモヤっとするね……。悪い事じゃないんだがあのロズの何処がいいんだかねぇ?テリアのヤツは……」
「エクシアさんロズさんって実は意外とモテるんですよ?ギルドでも割とパーティー組んでくださいって言う声があるんですから……私はミオさんからそう聞いてますよ?でも奥手で鈍感なのは見てて分かるので……まず気がついてない筈です」
エクシアも久々に警戒を解いて世間話に華を咲かせていた……
その食事からキッチリ6時間は何事も無く順番に休憩をした。
6時間の休憩は睡眠不足だと判断に影響が出るためだと言う……
休憩においての時間配分までは確認はしなかったが、6時間で起きて皆移動準備を始めたので大方ダンジョン内部での冒険者の休息は6時間がマックスなのだろう。
◆◇
「準備は良いかい?ユイナとミサから『サンドイッチとドリンク』は受け取ったね?それは移動中の携帯食で用意してくれた物だ。中身に使った素材が日持ちする物じゃ無いらしいから、腹が減ったらすぐに喰いな。歩きながら食える作りだって言うから移動中でも問題がない筈だ」
そう言ってエクシアは荷物の確認をさせる。
ユイナとミサは早めに起きて皆の分のサンドイッチとドリンクを仕込んでいた。
どうやら料理を教わりたかった女性冒険者達も調理に混じったので、準備は予定より早く終わった様だ。
緩やかな勾配ではあるが、非常に長い螺旋階段とたまにある部屋の確認で時間が費やされる。
エクシアは最初から気にしていたが、今ではマックスヴェル侯爵とソーラー侯爵も口に出して心配をし始めている。
「エクシア……僅かだが下が見えてきたぞ……この距離正直問題だな……何かあってもこの螺旋階段を登り切るにはとんでも無く時間が掛かる……」
「うむ……マックスヴェルの言う通りだな。だからと言ってテロル達を今から呼びに行っても時間だけが無駄に過ぎてしまう……どうしたもんだかな……」
マックスヴェルとソーラーの言葉に僕は一言だけで返した……
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