第768話「火焔窟第4層への侵入」


 マックスヴェルはテロルとウィンディアのやり取りを見て、自分が率いて来た悪辣貴族を1箇所へ集めて指示を出した。


 理由は簡単で、三階層転移陣の防衛に充てる為だ。



 当初は彼自身も転移陣防衛を理由に残ると思われた。


 しかし意外な事に、マックスヴェル侯爵はウィンディア伯爵と共に下層へ降りると言い出した。


 それを聞いたギール男爵は、危険性を訴え辞めさせようとしたがマックスヴェルの意思は変わらなかった。



 エクシアや悪辣貴族達からすれば、当然だが宝の独り占めだと思った。



 だがどうやら、そうでは無いらしい……



 ソーラー侯爵と共に深部までダンジョン攻略をしていた事で、彼の中の何かが変わって来ている兆しが自分自身で感じ取れた様だ。



 安全な場所から指示をしていた今までとは違い、自らの意思で死地へ脚を踏み入れた事で見えるものが変わってきたのだろう……



 マックスヴェルは、必死に止めるギール男爵や悪辣貴族達に『生活に欠かせない火の精霊無くして我々に未来はありえん!』と一喝し黙らせた。



 だがしかし、ギール男爵はガンとして譲らない……


 終いには自分もついて行くと言い始めて大きな騒動にまでなってしまった。



 そこでマックスヴェルは、自分に何かがあった時の伝令の役目であれば腰巾着としてギールの同行を許すと言った。



 周りの貴族にして見ればギール男爵と自分達に明確な溝が出来てしまった瞬間だが、今の階層を見る限り自分達であれば間違いなく死ぬと理解しているのでギールの様に強く言うことができなかった……



 その結果マックスヴェル侯爵にギール男爵が同伴者として伴い下層へ降りる事で話が纏まった訳だった。



 ◆◇



「じゃあ良いかい?って言っても結局このメンバーだね……。ファイアフォックスの主力メンバーにアルベイ、アンタ達の輝きの旋風それにエルフ達……」



「そうっすね!まぁ変わったのは銅級メンバーの代わりに金級組が来たのとウルフハウンド達とテイラーのグループが増えた感じっすね……まぁ…あとは貴族のお偉いさんが確認の為に同行してるくらいですね……」



 エクシアの言葉にロズが続く……


 見慣れたメンバーのファイアフォックス主力メンバーに、アルベイをリーダーとする銀級冒険者である輝きの旋風そしてエルフの3グループに僕を含む異世界組……ファイアフォックス側の例外があるとすれば、レッドアイズのパーティーからミミだけが同行する感じだ……


 ミミが来る理由は簡単で『水精霊』を扱えるからだ。


 相手は火の精霊だけあって、弱点を使わないと勝てない場合も予想される。



 そしてテイラー男爵もとい銀級冒険者パーティーの『希望の盾』が同行する。


 当然シャインが僕に付いて行くと言って聞かないので、兄であるテイラー達のパーティーも同行する形だ。



 テイラー達以外の銀級冒険者は、装備の問題もある。


 その為、僕達と同じ装備のウルフハウンド率いる銀級冒険者グループ『天翼の獅子』が同行する事になった。


 エクシアに惚れているウルフハウンドの我が儘が元の様に思えるが、実はそうでは無くソウマの身を案じたテリアが原因だった。


 

 攻撃と防御の要になるだろう金級冒険者は、マックスヴェル侯爵に雇われている拳闘士『アスマ』とソーラー侯爵の所持する冒険者グループ『天響の咆哮』パーティーだ。


 アスマのパーティーは力不足なのでアスマ単独が前戦担当で天響の咆哮に混じり単独参加になった。


 それ以外の冒険者はマックスヴェル侯爵を護衛する任務だ。



 各貴族共に、冒険者以外はボス部屋の侵入は御法度になった。


 理由は簡単で、パーティーと認識されれば駆除する魔物が増えるからだ。



 この問題点は、トレンチのダンジョンで既に味わっているので絶対条件になる。



 マモンやヘカテイアの様な幸運に恵まれる事などまず無い……と言うのが全員の意見だった。


 ヘカテイアが脱走計画を企てたからこそ、そこに綻びが出て僕達は命を拾ったのだから……



 なのでエクシアが危険と判断した場合、貴族達は即座にその階層の転移陣もしくはテロルが守る上の階層へ戻らせる事……それが火焔窟四階層以降へ降りる条件となる。



「じゃあ行くよ?一応此処から先は連携が重要になる……良いかい?貴族の三人はハッキリ言って『足手纏い』だ!絶対に前に出るな、部屋には指示があるまで入るなよ?いいな?」



「うむ……分かっておる。この階層で既に護符を持って来たのはウィンディアだけだ……私の考えも甘かった事になるからな……。マックスヴェルお前もそれで依存は無いな?」



「依存などあるわけも無い!精霊が住む領域がダンジョンになっているのだ……もはや危険でしか無い。本来我々などが脚を踏み入れても何もできない事など分かっているからな……私としても、最早王都にいる貴族への説明くらいしか買って出ることができんのだ。その為の動向さ……ソーラーよ……」



「なんか……やりにくいねぇ………アンタはこう……もっと金に貪欲だと思ってたんだけどねぇ……」



 エクシアがマックスヴェルにそう言うと、彼は笑いながら『ならば宝が出たら遠慮なく持って帰らせてもらおう!ガハハハハハ!!』と言う……


 マックスヴェルなりに気を使った発言なのだ……とすぐに理解できる。



「じゃあチャック!罠の事は頼んだよ?あとテロル……何としても転移陣を確保しておいてくれよ?それが無ければ万が一の場合アタイ達はこのダンジョンにお残りさんだからね!」



 エクシアのその言葉を区切りに一同は、火焔窟四階層へ降りて行く……


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「エ………エクシアさん………これは?」


「何なんだい!?こんなものは初めて見るよ………螺旋階段?それも……円状の構造?」



 僕はエクシアが何かのヒントを持っていないか……


 ダンジョン経験が豊富な彼女に、この状況確認をする他無かった……



 構造自体は単純だ見通しが効く距離に石壁がある。


 そして、その構造は何かの塔の中の様な感じだが、塔にしては規模が大きい。


 しかし答えは意外な所から湧いて出た……マックスヴェルだ。



「これは……王宮にある尖塔と作りが同じだ……旧王都は地中に呑まれたと聞いた。それがダンジョンに飲まれた結果規模が大きくなったのでは無いだろうか?もちろん推測でしか無いが、この岩壁は規則正しく並び人の手で作られたとしか思えない。決して自然の産物では無いからな……」



「うむ……マックスヴェルの言う通りだな……規模は城にあるソレよりデカいが、間違いなく王宮の塔がこの大元になっているには間違い無いだろう……。しかし………相当深いな……。底が見えないから落ちたら最後命は無いぞ?」



 マックスヴェルとソーラーの話を聞いて一同は納得する。


 言われて見れば人工物の様な岩壁と、寸法さえ小さくすれば王宮にある塔と言われて納得できる物だった。


 僕は魔法の地図を出すが表記がおかしい……横では無く縦に長い階層なので表示がされないのだ。



「おいヒロ、あんた……こんな足場の悪い場所で地図見てて、足を滑らせたら何処にあるかわからない地面まで真っ逆さまだよ?それに万が一、地図を落としても困るだろう?」



 僕はそう言われてエクシアを見たあとマモンを見る……



「何だよ…………」



「何って……アンタは分かってんでしょう?ズル賢く立ち回ってるんだからこんな時くらい役に立ちなさいよ!」



「ヘカテイア!お前に言われたくねぇわ!………分かったよ!分かったって……ってか……ヒロ!お前も俺と同じ空間系使えるんだから、さっさとスキルレベル上げて自分で使えよ!めんどくせぇなぁ……」



 マモンは文句を言いながらも、火焔窟の四階層を空間魔法で立体再現してくれた。


 しかしその長さは尋常では無かった……

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