第771話「変異龍ポゼストドラコー」
そこにいた魔物は下半身は龍だが、本来首がある場所には下半身に見合ったサイズの人型の上半身が生えていて、全身に炎を纏っていた。
そして困った事に、その巨大な人型の上半身を持つ火龍は1匹ではなく、2匹も居たのだ。
その上半身は女性型で、特に髪の毛は特殊でメデューサの様に一本一本が蛇だ。
どう見ても顔立ちから、双子もしくは姉妹に思える……
『嘘だろ……二匹いるから双姫………って事か!……………アレが炎の精霊?……嘘だろう……デカすぎる………』
僕は念話でトラロックに思念を送る……
その魔物の体躯は巨大で、10階建マンションがすっぽり収まりそうな程だ……
高さにすれば優に30メートル以上はあるだろう。
『あのメス型の精霊が、マモンが言っていた双姫……取り込まれて暴走した火の精霊、ジンニーヤだ』
『ジンニーヤ?あの魔物はジンニーヤっていうのですか?二匹とも同じ名前なの?』
『何を言ってやがる?あの魔物は邪竜種ポゼストドラコーだ……。そして取り込まれたのが、お前達の世界で言うジン……。簡単に言うと精霊だ。ランプのナントカとか、指輪のナントカとか……宝石のナントカなんかがいやがるだろう?アイツは女性型だからジンニーヤだ。男性型だったらジンニーに決まってんだろう?』
『ランプの精霊って言うやつ?……ああ!確かに……ランプの精霊はイフリートって聞いたことがあります……』
『説明なら倒した後いくらでもしてやるから、お前はあの魔物の攻撃を避けるのに集中しろ……』
勉強の時間など本来取れないが、身体の操縦の半分はトラロックがしてくれる。
だから今の僕には、精霊ジンニーヤを観察する余裕が少しはある……
しかし事はそう簡単には運ばない様だ……
その理由は簡単で、エクシアやマモンが魔物に対して魔法を行使しているからだ。
『ヴォルカン・イグニスサハム!!』
エクシアが前の戦いで使った巨大な炎の火矢を放つと、僕に尻尾で攻撃した個体の人型の部分の片腕を吹き飛ばす……
そしてその瞬間を見逃さず、マモンが局所的な爆発を起こした……
『フローガ・ウズルイフ!!』
その爆発は炎を伴い、ジンニーヤの身体をあっという間に炎で包む……
更なる炎に巻かれたジンニーヤは絶叫をあげて踠き苦しんでいる。
どうやらジンニーヤの身体の炎は、マモンが付けた炎でありジンニーヤの起こした炎では無い様だ。
「おい!契約者………ヘカテイアに勝手をさせるな!!アイツ自分勝手に暴れてるんだぞ?……さっさとアイツに暴走を辞める様に指示を出せ!!」
マモンがそう言うので部屋の中を見回すと、裾の長い漆黒のドレスに身を包んだヘカテイアが居た。
しかしその体躯は、既にホムンクルスのサイズでは無い。
上半身が人型の龍に比べれば、ヘカテイアのサイズは遥かに小さい。
しかし、それでも人間とは比較にならない程に今のヘカテイアは大きかった。
ヘカテイアのサイズは既に6メートルは超えているだろう……
そしてヘカテイアの頭には、先ほどまで無かった渦巻く黒い羊角が生えていた。
ヘカテイアは目ざとくトラロックに化現した僕を見つけると、皮肉っぽく話をする……
「あら……意外と早く来ちゃったのね?せっかく色々考えて上手く割り込んで入り込んだのに……。マモン……アンタはオスの癖にみみっちいわねぇ……」
ヘカテイアはそう言うと両手を広げる……そして僕の知らないナニカを詠唱した……
『バダヴァロート・ザラームズワールト』
詠唱が終わるとヘカテイアの頭上の空間が歪み大渦を巻く……
そしてその大渦は、黒い見るからに不浄な渦になり周囲に闇を伴う……するとその中から奇声を発する剣が飛び出して来た。
その剣の形はそれぞれが全く違う形をしていて、一つとして同じ物がない……
「ギヒヒヒヒヒヒヒ…………」
「ゲヒャヒャヒャヒャ………」
「グヒヒヒヒ……」
気持ち悪い奇声を上げつつ剣は空中を舞っているが、ヘカテイアの指示で一斉に双姫の片方へ襲いかかる……
剣の的になった双姫の片割れは、大きく息を吸うと『ゴアァァァァ!!』と大きな声で叫ぶ。
するとそれは、衝撃波を伴って周囲に響き渡る……
『く……面倒な攻撃を……聴覚を通じて直接脳を攻撃する麻痺攻撃だ。まぁ俺たちには意味がないがな……。まぁ衝撃波は結界で防ぐしかないがな……。彼奴は化現の力を甘く見過ぎだ……』
トラロックの言う通り僕達には影響こそなかったが、ヘカテイアの飛ばした気味の悪い飛翔体の半分は、衝撃波をモロに受けて粉々に砕け散った……
そして巨大な龍の魔物は、マモンが先程燃やした炎のついたままの尻尾を大きく振りかぶると、飛んでくる勢いよく飛翔体目掛けて打ち付けた。
「なかなか良い判断ね……衝撃波は『飛行能力』を持つコイツ達には効果は抜群よ……。でも貴方のその身体……龍種の鱗だからって甘く見たわね?残念ながらコイツ達は私の特別性で『切断』の特殊効果持ちよ……。だからその攻撃はとても悪手だったわね?」
ヘカテイアがそう言うと、打ち据えた筈の尻尾がザクザクと切り裂かれる……
「ギィィィィィ!?………」
痛みで声が上がる……それもその筈だ。
長い尾は何箇所も切り裂かれて、もはや尾の攻撃は出来ない状況までボロボロにされているからだ。
「おのれ………我が尻尾を……。我は混沌の龍種ポゼストドラコーなるぞ!人形如きが調子に乗りおって……」
人型の上半身はどう見ても女性に思えるが、乗っ取った魔物はオスの様だ。
話し方や雰囲気から、それが感じ取れた……
「我に炎など大したダメージも与えられないと考えて、今度は物理攻撃か?それもわざわざ悪魔種と契約を結んでまで我を倒そうと?大馬鹿者だな……その代償は決して小さくはないぞ?そこの娘………」
自分をポゼストドラコーと呼んだ龍種の魔物は、どうやら何かを間違えて捉えている様だ……
マモンとヘカテイアを前にして、解釈の間違いは『死』を意味する。
何故ならば彼等は、穢れによって変異した相手の力の奪取こそが優先であって、その母体である魔物など最早どうでも良いのだから……
「娘?うふふふふふ………。そうよ?契約して貴方を倒そうとしているのは合っているわ。でも………私ってば……隙を突いて乱入しただけなのよ?……」
ヘカテイアはポゼストドラコーと名乗った龍種にそう言うと、魔物にはまるで興味なさげな表情をして話を続ける……
「理由は簡単で、貴方の力の源である双姫の穢れが欲しいのよ……。だから精霊も正直どうでも良いの……欲しがってる契約者にポイして終わりよ?因みに……貴方が精霊種を穢してくれたお陰で私とすれば大収穫なの!だから……用のない方の貴方は早く死んでちょうだい?」
ヘカテイアがポゼストドラコーにそう言い終わると、つま先で小気味良く『タタン』と地面でリズムを刻む……
すると地面から石の槍が突き出て魔物の体を貫いた……
「ゴア!?貴様………無詠唱だと?」
「何を馬鹿なこと言っているの?………さっきから私が唱えているのは現存する魔法ではないわよ?それにこれは魔法でも何でもないわ……貴方……本当に誰を相手にしているのか分からないのかしら?酷くショックだわ………」
ヘカテイアは、自分の事を人形扱いする目の前の龍種に、若干苛立っている様に見える。
しかし、ヘカテイアの正体を知らない邪龍種のポゼストドラコーは、相変わらず馬鹿な事を言ってヘカテイアの注意を引いてしまう……
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