第765話「オーガ亜種、パイロ・オーガとの戦闘」


「あれは火の精霊を喰らった魔物……パイロ・オーガですね。もはやオーガとして見る影もありませんが……。オーガは貪欲で力の塊を見つけると捕食しようとします。自身をより強く覚醒させるためです……」



「イフリーテス!アンタあの溶岩の海に飛び込んで大丈夫だったのかい!ってか……なんかその洋服ヤバい感じしかしないんだけど?」



「エクシアさんも如何ですか?溶岩で出来たドレスです。大概の攻撃は溶かせますよ?水や氷魔法もコレがあれば無効化してくれますし!もし良ければ作って差し上げますが?此処なら幾らでも溶岩を採取できますから……」



 それを聞いたエクシアは『溶岩なんか着込んだら骨も残さず溶けちまうよ!』と言うと、大慌てでイフリーテスから遠ざかる。



「エクシアさん大丈夫ですってば!このドレスは既に加工済みですから。周りへの被害はありません。契約者様が急に氷魔法を連発するので、身を守る為に作ったんです……」



 精霊力を行使して作ったとされるそのドレスを鑑定すると『イフリーテスの炎のフィッシュテール・ドレス』とでた。


 イフリーテスの言う通り溶岩を素材に使っている様で、炎熱無効と火属性攻撃効果倍化の特殊効果がある。


 そして当然、凍結無効もだ……



「イフリーテス……アンタが言う通りだとしてもだ……アタイがそんなヒラヒラした物を着て戦えるわけが無いだろう?馬鹿も休み休み言いな!!」



「エク姉さん!おふざけは後にしてくれますかい?アイツ等かなり足が速いですぜ!!」



「ああ!ロズの言う通りだぜエクシア姉さん!おい、お前等全員臨戦態勢を取れ。奴等に溶岩の海は関係ねぇみたいだからな……直接まっすぐ来るぞ!!」


 パイロ・オーガとの距離はかなりあったが、あくまでそれは『陸地』と言う条件での距離であって直接溶岩の海の上を走れるとなれば条件は大きく変わる。



 それも遠くでその個体が見えると言うことは、実物はかなり大きい事になり近づくにつれてその巨体がいかに大きいか思い知ることになった……


「マジかよ!頭が既に半分炎になってんじゃないか……首刎ねても生きてんじゃないかい?イフリーテス……アイツ等の弱点は?」



「魔物としての核である魔石を抜き取るか、精霊核を取り込んでいるのでそれを取り去るしかありません。前者であれば精霊核を利用して別の魔物に変貌する可能性が残り、後者であればその身体は炎の耐性を失い燃え尽きます……」



 イフリーテスは無茶難題を皆に言う……火焔窟に落とされた皆に精霊核を抜き取る術などは無い。


 唯一出来るのはマモンとヘカテイアだけであり、二度手間でも魔物として排除する他はないのだ。



「くそ!仕方ないね……テイラーにロズあとソウマは右側前衛に立ちな!トラボルタにアスマあとホプキンスは左側対応だ!」


 エクシアがそう指示を飛ばすと、かなり遠方にいたパイロ・オーガは溶岩の海に手を突っ込んで何かを取りだす。



「ガハハハハ!コレで死ぬナヨ?」



「無理ヲ言うナ……人間ダゾ?アイツ等……」



「ガハハハハ!!溶けテ悶えクルシメ!」



 パイロ・オーガは知識レベルが高い様で、人語を普通に使いこなして話し始める。


 声が相当デカいので、そこそこ距離があるのにその言葉はハッキリ聞こえる。



「前衛全員避けな!!ありゃ溶岩の槍だ!後衛は距離を多く持つんだ……避けられる場所をすぐに作りな!!」



 エクシアがそう叫ぶと、前方から溶岩で出来た槍が凄い勢いで飛んでくる……



 溶岩の槍の軌道を見て、全員が必死に交わす。


 少しでも槍に触れれば無事で居られないのは一目瞭然だ。



 僕達が必死にかわしているのを見たパイロ・オーガ達は、一気に僕達との距離を縮めようとスピードを増す。


 しかしそれは、大きな過ちだった……



「この炎帝の称号を持つイフリーテスに炎の攻撃?舐めているとしか思えないわね……まぁ良いわ……死んで償いなさい……」



 イフリーテスは難なく溶岩の海の上に立ち、そう言うと片手を大きく横に薙ぐ。


 すると足元の溶岩の海が大波になって、一瞬にしてパイロ・オーガ達が飲み込まれていく……



「グガァ!?……オマエ……ハナニモ…………」



 驚きの声など気にもせずイフリーテスは、溶岩の海の上を跳ね周り大波をどんどん起こす……



「あははははは!!私の眷属を取り込んだ貴様等がそれ位で死ぬわけないのは分かってるよ?だがアンタ達が居るその場所は『あの子達』には最適なのよね……。その身体に宿した我が眷属は悪手だったと……己の不運を呪って………死ね!そして私達の子を返せ!!」



 イフリーテスがそう言うと、彼女のそばに居たパイロ・オーガの様子が一変する。



「グガァァァァ!!燃える……身体が………何故だ!精霊核が………再活性してるだと!?………貴様何ヲシタ!?」



「ギギギ………グァァァァァ!!」



 数匹のパイロ・オーガは名前の通り身体から炎を吹き出し絶命する。


 そしてその身体は燃えながら溶岩の海に沈む……


 少しすると、パイロオーガが沈んだ溶岩の中からサラマンダーが這い出てきた……



「エク姉さん……。これってイフリーテスに任せておけば……ウチ等は何もせずこの階層h抜けられんじゃ無いですか?」



 イフリーテスの一方的な戦いを見たロズが気を抜いてそう言うと、その様を見たベロニカが大声で叫ぶ……



「馬鹿……ロズ!気を抜くんじゃ無いよ!」



 飛びついてロズを押し倒す……


 そのベロニカの真上を、溶岩の槍が飛んでいく………



「あ……危ねぇ……」



「アイツ等は溶岩の槍を溶岩のある場所なら『何処から』でも打ち出せるんだよ!」



 ベロニカは前に在籍していたパーティーで、ダンジョン最下層でパイロ・オーガと一度戦ったことがある様で、その説明をした……



「あの魔物の詳細を知ってんなら言えよ!ベロニカ!」



「あのねぇ……ベン……アタシだって確証がないんだよ!戦った事があっても『勝った』とは一言も言ってないでしょう?散々な結果で逃げ帰ったんだ!あの化け物は『そういう奴』だ……。アタイの仲間は腕も足も溶岩に飲まれ失い、タンクは盾で皆を庇って大火傷だ!そんな魔物が群れでいるんだ!イフリーテスが居ようが、アタシ等には安心なんか出来ないんだよ!」



 ベロニカの言う通りだった……


 パイロ・オーガ数匹はイフリーテスの攻撃を受けて尚、溶岩の海に身を隠しながら潜水して、僕達との距離を縮めていた……



 溶岩の海から突然飛び出てきたパイロオーガは、陸地を走り僕達までの距離を一気に縮める……



 それを見た前衛のトラボルタとホプキンスは、危険を承知で進路を塞ぐ様に移動した……



 パイロ・オーガは間近で見ると3メートルを超える巨体で、全身が筋肉質で頭部の半分が既に炎になっている化け物だった。



「馬鹿ナ人間……『アイツノ召喚者』殺せバ………」



「馬鹿はおめえだよ……とっととクタバレ!!」



 ホプキンスとトラボルタが防いだ隙を突いてアスマが渾身の強打を撃ち込むと、近くの岩壁に『ズガン!』と音を立ててパイロ・オーガがめり込む……



「アスマさん……それが仙術ですか?……とんでも無い威力ですね……」



 ひねり撃ち出すように打ち込まれた一撃は、たった一打でパイロ・オーガの腹部と胸部を酷く破壊していた。


 パイロ・オーガは、身体の内部から炎を吹き出して動かなくなっている。



「ああ……これが『仙術』だ……。まだ未完成だが今でも充分威力は望める。仙術は魔物にとって影響があっても、精霊力にして見ればそれ自体を強化できるそうだ。あのパイロ・オーガの中身……火の精霊は……もしかすると助かるかもしれん……。マモンがそんな事を言っていたぞ?」



「アスマさん、ひとまずこの周囲に来る魔物の数を減らしましょう……。向こうはイフリーテスさんが救済を兼ねて数を減らしてますが、抜けてくる魔物は間違いなく居ますから。この周囲の魔物を排除しないと下層階へは行けませんし……僕は水魔法で対処します!」



「水魔法だと?ちょと待て!!水魔法は悪……………」



 僕は金級冒険者アスマにそう言うと、走ってくるパイロオーガへ『ウォーター・スフィア』を放つ……


 僕が今までやった事の中でも、最低最悪の悪手だった……

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