第764話「再会と思い出」


 当然彼女には『炎熱無効』のステータスがあるが、物理的に溶けないのか不安だ。


 向かった先が溶岩なのだからホムンクスルの身体が無事か不安が残る……作るにも素材は無限では無いからだ。



 周りを見ると、カナミが一生懸命に炎系魔法を行使して熱源を確保していた……


「やることが極端なんだよ!ヒロ兄は!!」



「ロズさんの言う通りだ……。此処に来たのも精霊を助けるのが目的だが、氷の精霊はリスト入りしてないだろう?元の世界でも凍死は大概山頂だ!地下で凍死は勘弁してくれよ!」



「そうよ?流石にカナミちゃんの機転でどうにか被害は最小限だけど……ミミちゃん見なさいよ!冬眠始めたわよ!!」



 ミサの一言で、僕は足元にうずくまって寝ている耳が目に入る。


 麻袋の中身を全て放り出し、その中に膝を抱えてすっぽりと収まって寝ているのだ。



「むにゃむにゃ……師匠の作るレモップルかき氷は最高ですぅ……むしゃむしゃ………」



「ミ……ミミ……起きなさい!!それはレモップルでは無いわ!岩の隙間に生えている雑草よ!?貴女いつから山羊になったのよ!!ああもう……師匠が師匠なら弟子も弟子だわ!!人間が冬眠なんて聞いたことが無いわ。幼馴染として恥ずかしいわよ……今すぐ早く起きて!!」



 続々と氷の下級精霊が、僕のマジックアイテムの祭壇を使い精霊界へ帰っていく。


 しかし祭壇からほぼ精霊が帰った後に、1匹だけ残った精霊が居た……フロスティ事ジャックフロストだ。



 フロスティには色々種類がいる様で、残った個体は小人の姿だった。


 しかし姿こそ小さいが、顔には何故か見覚えがあった……何処かであった記憶があるのだ。



「珍しい凍結魔法使えるのね?ワタチは貴方が気に入ったわ!ここ300年は契約して無いけど貴方なら良いかも……。あれ?……そういえば貴方……子供の頃に私と会っったわね?わざわざ異世界からこの世界まで足を運ぶなんて……トラブルが好きなの?」



「ちょ……ちょっと待って!子供の頃に?……僕と会った!?………って事は異世界で会ったことになるんだけど?」



「そうよ?あの雪の国で遊んでる私を貴方が見つけたのよ?折角の再会だし、顔見知りなら安心出来るから……貴方ワタチと契約しましょう?」



 僕はその言葉使いで思い出したことがある。


 僕がまだ幼い頃、親に連れて行かれた冬の雪国で仲良くなった女の子にそっくりだったのだ。



 よく思い出すと、日が暮れるまでかまくらを作ったり雪だるまを作ったりして、一緒に遊んでいた記憶が今でもあった。



「あの時は一緒に雪でかまくらを作ったじゃ無い?覚えてない?貴方私と会う直前に死んでたのよ?屋根から落ちて来た雪に埋もれて。でも私が雪の中から助け出してあげたの……。まぁ子供だった貴方は寒さで一時的に死んでたけどね……」



「ぼ……僕死んだの?あの……雪の日に?」



「そうよ?まぁ運良く貴方のお婆ちゃんが側に居たから、なんとか生き返ったけど……。大変だったんだから!魔法で回復させたり周囲の雪を退けたり……あれ?そういえばワタチ……生き返ってわんわん泣くあなたを見かねて……記憶を一部消したかもしれないわ……」



 どうやら僕は一度凍死で死んで、生き返らせて貰った様だ。



 よく思い出して見れば、雪の日にお婆ちゃんが『アンタマフラーと手袋は絶対しなさい!雪ん子に連れて行かれちゃうわよ?』と雪の日には必ず僕を怖がらせていた思い出がある。



 怖がらせていたのでは無く、実際にあったとても危険な状況だったのだ……


 お婆ちゃんは民話や伝承の類に詳しく、それを心から信じていた。


 だから僕は、てっきり民話好きなロマンチックなお婆ちゃんだと思っていた。



「ごめん……あの時は幼かったから、助けて貰ってお礼もちゃんと言ってないかも知れない。助けてくれてありがとう……」



 まさかの再会から、僕は近所の女の子だと思っていた子供が雪の精霊だったとはかなりビックリだ。



「それより早く契約をしましょう?ワタチどんどん溶けていってるのよ……このままだと……もっと小さくなっちゃう……」



 そう言った小人の姿のフロスティは僕の手の甲を触ると、氷の結晶の形をした霜焼けが出来た。



「ハイおしまい!じゃあワタチは一度帰るわね?此処にいるとダンジョンの暑さのせいで精霊としても完全に消えちゃうから……」



 そう言ってから足早に祭壇から精霊界へ帰っていった。



 しかしその一部始終を聞いていたユイナは、精霊が帰った後も両手をブンブン振りながら『雪ん子本物だー!!帰ったらスキー行くぞ!!』と喜んでいた。



 話を聞くと親の出身が岩手県だと言う……


 ユイナはお爺ちゃん子で、良く実家に遊びに行っては大人の身長の倍はある雪壁で雪遊びをしていたそうだ。



 その上ユイナは、小さい頃に雪ん子と同じ様な子供と会ったことがあり、大人に言ったがそれを信じてもらえなかったと言う。


 しかしそれが、もう1匹のフロスティで無くて本当に良かった……多分食べられていただろう。



 その理由は簡単で、麻袋を寝床に冬眠しそうなミミを氷漬けにして食べようとしているからだ。



 何はともあれ、フロスティとイフリーテスは僕との約束を守った形だ。


 そして僕は今、四大精霊の他に森の精霊と氷の精霊と契約した事になる。



「おい!契約者お前……俺の眷属と知り合いだったのか?まぁそんな事はどうでも良いか……オレは約束は守ったぞ?人族に危害を及ぼさなかったら自由で良いんだよな?おい、エルオリアス!お前は俺の契約者だから当分お前について行くぞ?」



「な!?フロスティ様……ほ……本当ですか?精霊が旅に同行する事は月エルフ王史を振り返っても……前代未聞でございます!!このエルオリアスは月エルフ国を代表して精一杯、フロスティ様に尽くさせて戴きます!」



「エルオリアス勘違いするなよ?俺達氷の眷属は4精霊と比べて知名度が低い。その位置関係を改善したいんだ……だからエルオリアスお前は俺の手伝いをしろ!同行している間に、精霊力の使い方をお前にみっちり教え込んでやる。今まで見たいにたかだか化現で負傷なんてことがない様にな!どうだ?十分な報酬だろう?」



 エルオリアスは目を見開き、フロスティを見ながら首を縦に勢いよく振る……


 僕からして見れば、幼い女の子の容姿の子供が『俺』と言っているので違和感しか無い……しかしエルオリアスにして見れば願っても無い状況なのは一目瞭然だ。



 フロスティの化現に耐えられる肉体改造を、精霊自ら買って出たのだから……


 しかし話を遮るように全員に声がかかる……



「話の途中で悪いんだけどねぇ……ヒロアンタの行動でどうやら魔物を引き寄せたみたいだよ」



 僕はエクシアにそう言われて、エクシアの指を指す方向を見る。


 すると溶岩の海と化した場所から這い上がる魔物が居た……



「エクシアさん……あの魔物はなんですか!?頭が燃えている様に見えるんですけど?……と言うか間違いなく燃えてますよ……」



 エクシアはその魔物を見ても答えなど出るわけがない。


 肉眼で視認出来る距離ではあるが、『鑑定』の届く距離では無い。



「は?アタイが知るわけないだろう?アンタの『モノクル』で確認できないのかい?お得意のやつだろう?分からないモノを調べるのはさ?」



 エクシアも流石に知らない魔物の様で、僕の鑑定を『モノクル』と呼んで識別する様に遠回しで言う……


 当然言っているのは僕の『鑑定スキル』の事で間違いない。


 するとそれを聞いていたイフリーテスが、僕とエクシアの側に来て魔物について説明を始めた……

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