第763話「火焔窟三階層」



 マモンはぶっきらぼうにアスマに言う……


「良いじゃねぇか……相手の戦い方を見て気づく事もあるぞ?よく見て自分の無駄に気がつく必要が今のお前にはある。仙術はな………あれ?何だったっけかな………何だこの中途半端な記憶は……思い出せねぇな……」



「おい!マモン……アンタ中途半端すぎやしないかい?『仙術とは……』って言っときながら教えねぇのかよ?勿体ぶるのはやめな!」



「ちげぇよ!人間の時の記憶は曖昧で、思い出せねぇんだよ。ふとした時に一部を思い出せる位でソレも断片的なんだ!悪魔にとって必要の無い記憶と力なんだよ……人間の時の力はな!」



 結局仙術講座は有耶無耶になったが、アスマの代わりにトラボルタとホプキンスが前に出て階段を降りていく……



 ◆◇



「エクシアさん……この光景は……」



「なんて場所だい……遥か向こうは溶岩地帯って………。この距離で溶岩があるって………どうりでチャンティコが騒ぐわけだ……」



 3層は階段を降りると城下町が広がって居た……だが暫く歩くと溶岩に沈む城下町と城の尖塔が見える様になった……


 溶岩がそこかしこにあるのに、有毒ガスの様なものは鑑定結果で出ないのは異世界の不思議だろう……


 しかし地下第2層とは比べ物にならないほど暑い。



 炎熱耐性の無い冒険者と貴族は表情からして死にそうだ。


 その表情を見た僕は精霊の水っ子と風っ子を呼ぶ。



『なぁ水っ子に風っ子……2人は彼等に信仰心的な何かを与えられないのかい?』



 僕が念話でそう精霊の2人に聞く……



『彼等は私達の水信仰でも無いのよね……風貴方の方はどうなの?』


『それが……風信仰でも無いみたいなのよ……よりによって土信仰と森信仰とかそっち方面の様なのよね……』



 それを聞いた僕は何が問題なのか風っ子に聞く……



『簡単な話よ……私達だってイフリーテスと同じ様に自分の信仰持ち以外は影響下に出来ないの。森信仰であれば火と熱を防ぐ術がないわ……燃えちゃうもの……。土信仰の場合耐久特性は与えられても熱耐性や炎耐性は無理なの……一言でいえば土信仰は『物理特効』なのよね……』



『でも……なんでヒロがサラマンダーを使ってあげないの?火の耐性ならサラマンダーの十八番じゃない……。あまり意地が悪いと火の精霊に嫌われるわよ?』



 風っ子の説明の後に水っ子が問題発言をする……『サラマンダーと火の精霊』それは……なんぞ?と言う状態だ。



 だから率直に『なんぞ?』と聞く……嫌な予感しかしないからだ。



『『何って……足元を必死に走ってるサラマンダーよ?』』



 水っ子と風っ子のハモる言葉で足元を見ると、1匹の小さいサラマンダーがチョコチョコ走って居た……



『………なにこれ?………』



『キュゥゥ……クワ!クワ!……クワァァァ!!』



 僕がその存在を把握したせいか、サラマンダーがズボンをよじ登ってくる………



『貴方……まさか気が付いてなかったの?イフリーテスが『炎の中級精霊』の事を言ったはずよ?……ホムンクスルの身体と引き換えに召喚儀式を取り持つって!……可哀想なサラマンダーね……必死の思いで足元を走り回ってたのに……』



『クワ!クワァァァ!!』



 肩に乗ったサラマンダーは、そのまま僕の首筋に『ガブリ』と噛み付く……



「イッテェ………噛むなよ!悪かった……気がつかなくて悪かったってば……いてぇですよ………」



 思わず口調がミミ寄りになる……


 しかし僕には、ミミの様に上手くは誤魔化せない様だ……再度『ガブリ』とやられる。



「どうした?ヒロ………って……何だいそのちっこいのは……!?………サ……サラマンダー?何でアンタそんなもの肩に乗せてんだい?」



 エクシアの一言で皆の注目が僕に集まるが、その中でもカナミの視線が一番熱がこもっていた……


 そのエクシアの一言でイフリーテスも僕を見る。



「あら……漸く契約ができた様ですね。随分手こずったとサラマンダーが言ってますが……」



「イフリーテスさん……サラマンダーの事を僕は全く聞いてませんけど?契約はすぐに実行されてたんですか?」



『クワ?……クルルル……クワ!?』



 僕は契約について質問をすると、サラマンダーはビックリした様に僕とイフリーテスを何度も往復して見る……


 当のイフリーテスは僕の質問を聞きながらも聴かなかったふりをしてその場を離れていった。



 しかし少し離れた場所で『痛い!!』と声がする……


 僕の肩を見ると既にサラマンダーの姿は無く、イフリーテスの方に移動していた様だ。


 その声の元であるイフリーテスに耳には、先程まで無かったサラマンダーの形をした小さなピアスがぶら下がって居た……



 僕はサラマンダーの事があったので、もしかしてフロスティの氷精霊の件も既に契約が始まっていると思い周囲を見回す。


 それを見たミクが不思議そうに僕に質問をする……



「どうしたの?急に周りを見回したりして。ヒロさんがそんな行動に出ると……かなり不安になるんだけど……」



「ああ……サラマンダーの契約が勝手にスタートしてたから、もしかして『氷精霊』もスタートしてるのかと思って……」



 それを聞いたミクは呆れながら……『精霊をそこまで適当に扱うのはヒロさんくらいよ?』と言う……



 しかしそう言いながらも、周りを見て一緒に探してくれるあたりはミクの優しさなのだろう……


 因みに精霊契約をしていないミクにはその姿が見えないのだが、それを言わないもの優しさだろう。



 しかしそれを聴いたフロスティはすぐに僕の元に来る……



『悪りぃ……忘れてたわ!……つい身体を得た喜びが優っちまって……。自分の足で走ることが出来るなんて思っても無かったし、この熱源もなんのそのでさ……。ついはしゃぎ過ぎたわ!じゃあ契約しようか!」



 イフリーテスより遥かに若い素体に作り上げたフロスティがそう言う……



 口調が非常に雑で、性別で言えば雄だと思っていたフロスティだった。


 だが実際は違う様で、男性を作ろうとすると待ったが入った。



 フロスティの依頼通り素体を作り込むが、その形状は『女性型のホムンクスル』で、ぱっと見はかなり幼い作りだ。



 言われるままに作った素体は、僕ら異世界人が良く知る座敷童の様な姿だった。



 雪原地方で見た魔物の容姿で、たまたまそれが自分の姿にして欲しい形だと言う。


 この世界では座敷童が雪原地方には居るのだろうか……



 フロスティだけに雪女じゃないのが意外だったが、エルオリアスの事や月エルフの事もある。


 だからあまり詳しく聴かずに作った。



 フロスティが手のひらに力を集約すると、氷のゲートが出来上がりそこから大量の氷の精霊が飛び出してくる……



『アッチィ!!……このバカフロスティ!!なんて所に呼ぶんだ!』



『ヒィーーー溶けちゃうヨォ…………』



『雪か氷をくださいー!!』



 フロスティはホムンクスルの身体を手に入れ、今や熱源は自分には問題ないのでウッカリ精霊界から氷の精霊を呼んだ様だ……



『アイス・フィールド!!』



 僕が呪文を唱えると、周辺は瞬時に凍り付く……しかしこのフロアにある熱源の所為で溶けるのもかなり速い。



「氷精霊の皆さん、今のうちに精霊界に戻ってください!溶けちゃいますから……僕の持つマジックアイテムの祭壇から帰れますから!!」



『アイス・フィールド!!』


『アイス・フィールド!!』


『アイス・フィールド!!』



 僕は氷の精霊の為に三連続でアイスフィールドを唱えるが、エクシアがその場で縮こまり……『もう辞めろ!!………炎熱フロアで凍死なんて洒落にならねぇよ!この大馬鹿野郎!!』……と言う。



 フロスティは大はしゃぎだが、イフリーテスは溶岩に向かって走り勢い良くダイブした……

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