第751話「マモンの企み……それは契約の上書き』
トレンチのダンジョンで僕達は、自分たちの命をホムンクスルの身体と引き換えにしていた。
しかしマモンは、言葉巧みにその契約を『僕達の命』では無く『精霊核』へ契約更新したと言うのだ。
ヘカテイアと殺し合っていたマモンは、彼女を解き放つことが出来ないため『仕方なく』ホムンクスルに入る事を了承した。
当然マモンにはヘカテイアを解放できない理由があったからだ。
しかし今は立場が逆転した……
ヘカテイアが欲しがっていた『自由』を逆にマモンが得て、ヘカテイアは『ホムンクスル契約』に縛られているからだ。
マモンはその場に座り込んで欠伸をすると、今度は大の字になってその場に寝転んで………『くっくっく……自由か……コレが自由なんだな………がはははははは!!愉快じゃないか!!何も縛られない自由だ!!』と豪快に笑い始めた……
エクシアとカナミ、そしてミサも油断なく剣を構える。
言葉も発せず、身動きも取れない状況だったのだからそれも当然だろう。
戦闘中ということもあったので、僕は彼女達が『精霊を貪る者』から目を離さない様にしている……とばかり思ったいた。
マモンは僕だけ自由に動けるようにして、ヘカテイアの油断を誘い魔法を行使した。
そして階段を降りる魔物をわざと放置して、エクシア達の注意をそっちへ向けさせた。
ヘカテイアの行動さえ封じれば、此処からはマモンの思うがままだ。
「おいおい……お前さんがた何剣を向けてやがるんだ?俺は何もしねぇよ……ヘカテイアが滅茶苦茶やった時に契約者の確認取ってたらどっかに逃げられんだろう?だから手の込んだ芝居までやって自由を手に入れたんだ。そもそも殺すなら、オレが自由を得た時点で皆殺しにしてると思わんのか?」
「じゃあ単純にヘカテイアを連れ帰る為の、一つの手段って事だね?でも……アンタはそれをどうやって証明できるんだい?」
「エクシア……証明なんか必要ないだろう?俺はお前たちを殺さねぇ……いや……殺すには惜しい。特に契約者が持つ『変異の力』は俺が探し求めてた力だ。それも食い物に添加出来る異質な力だぞ?殺しちまったらそれこそ悔やみきれねぇ……他の悪魔種には渡せねぇし、奪わせてたまるかってんだ。」
「何言ってんのさ?マモン……さっきみたいな事をされればアンタを信用なんぞ出来る訳ないよねぇ?立場が逆なら、そうなると思うだろう?」
「あ?簡単な理由だ。お前たちを殺したらヒロは俺に協力しなくなる。力尽くって手も無い訳じゃねぇが……それをすれば全ての関係性は崩れる。ヘカテイアとまた殺し合う結果になり、地獄の均衡が崩れて封印も無くなり俺は最終的に死ぬ。だからお前達は俺の為にも殺せねぇんだよ。一蓮托生って言葉知ってるか?まぁ異世界の言葉だから、お前が知るはずもねぇか……」
「だったら簡単な話だろう?アンタが責任を持って信用を取り返しなよ?一番いい手は、下層階に逃げたあの化け物をぶっ殺すのを手伝う事だ。精霊の為にも野放しには出来ないんだよ!ついでに火焔窟の攻略も手伝いな!」
エクシアがそう言うと、マモンはそれを聞いて……
「そもそも一人で帰るとも、自由だから何処かへ行くとも言ってねぇよ。ヘカテイアを野放しにしないための手段だって言ってんだろうが……全く……面倒だがいいだろうエクシア。今回はお前の案に乗ってやる」
マモンはヘカテイアを見ながら、親指で指さして面倒臭そうにいう……
そしてエクシアに向き直る……
「だが、お前が危惧しているあの出来損ないの魔物ならさほど待たずに勝手に自滅するぞ?精霊核なんか体内に取込めば存在の維持ができなくなり、魂の崩壊を起こすんだからな……既に全部取り出したが、あの個体は変質して崩壊まで待ったなしだ……だろう?ヘカテイア……」
「エクシア……それはマモンの言う通りよ。キメラ種じゃあるまいし……。そもそもキメラだって種族核は部位ごと別に存在してるのよ?そもそもの話、種族融合が出来る輩なんか…………あ………1人居たわ……目の前に……」
マモンとヘカテイアは僕を見て、非常に嫌そうな顔をする……
「そうだったなぁ……そう言えば、コイツの説明がつかないんだった……。何をどうしたら混ざって無事で居られるんだ?是非その方法を教えてくれよ?俺には必要なんだその力が……」
「ええ……マモン……そうね。何故複数種の核が融合して平然としてられるのか……。もはや私達以上の化け物と言っても過言では無いのよねぇ……悪魔核や魔王核がないのに、この私達の契約者は平然と動いてるんだから……」
マモンはヘカテイアとそう話しつつ、階段に近寄る……そしてエクシアを見て下層を指差して……
「まぁ何にせよ下層階に降りる必要があるには分かってる。その信用の獲得とやらで俺が先頭を歩き、魔物が出れば全て駆逐すればいいんだろう?さぁエクシア、俺が階段を降りる為にさっさと仲間を集めろ」
マモンの言葉を受けてエクシアはカナミとミサに指示をして、マモンの見張りをさせる……
どうやらエクシアは今でも疑っているようだ。
「おい!ロズにテイラー終わったぞ……皆をこっちに連れて来い。もう大丈夫だよ!!」
エクシアは早々にマモンと話を終えて、すぐに仲間を呼び集める………
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「な……なんて姿……エルフレアにエルオリアス……エルデリアまで………」
その変わり果てた3人の姿を見て、スゥはつい声に出していってしまう……
その言葉を聞いたエクシアは、決心した表情で3人の姫に向き直すと話を切り出した。
「ユイにモアそれとスゥ……アンタ達の仲間のおかげで難局は乗り切った。アンタ達は、あの3人があの状態から戻ったら此処から部下と一緒に地上へ帰りな。貴族達と騎士団は悪いが此処でお開きだ……とてもじゃないがアンタ達を庇っては戦えない階層だからね」
「エクシア!何を言っているの?私もユイもスゥも此処で引き下がるわけにはいかないわ……精霊を助けるまでは……」
「そうよ!モアの言う通りだわ……。大地の精霊は大地のエルフ族には命をかけて守るべき存在よ。此処で引き下がるわけにはいかないわ!」
「それは安心しな。もうヒロが回復の為に精霊を呼んで治療中だ。現状の詳細はアタイには分からないから、ヒロから直接聞きな……。だが命をかけて戦ったアイツ等は、アンタ達を地上へ返せと言っていたからね……アンタ達は帰るべきだ。だよな?ヒロ」
僕の目の前には風と水そして木の精霊が集まり、ほぼ精霊力を失った土の精霊核に力を送り込んでいた。
「アタイ達は先に進まにゃならない……アンタ達を警護するはずのエルフレアやエルオリアスにエルデリアまで巻き込んで、本当にすまなかったと思ってる。アタイも一緒に回復を見届けたいがそうも行かない状況だ。精霊を助けた時本体は下に逃げたんだ」
「うむ……我々も事の次第を見届けたいが場違いなのは否めん。それにエルフ国の姫3人がこの階層に残るとなれば放置も出来ん。エクシア此処からは別行動だ。計画通りこのダンジョンの踏破を頼むぞ?……それで良いな?マックスヴェル」
「ソーラー良いも何も我々とて無事では無い。既に装備耐久値も残り1割くらいしか残って無い筈だ。壊れる装備で共に向かい、恐怖を伝播して士気を下げる真似など出来るわけがないからな!」
「マックスヴェルもこの通りだ……すまんなエクシアにヒロそして他の者達……。エルフ国の姫は命がけで何があっても守る。安心してとは言えないが、気にせず行ってこい!」
ソーラー侯爵とマックスヴェル侯爵は、騎士団と冒険者に命じてエルフ達の周辺の警護に当たらせる。
あとは水っ子と風っ子そして森っ子が、土の精霊達を回復させればいよいよ最終関門の13階層だ……
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