第752話「放置出来ない精霊問題」


 僕は精霊3人と相談をする……土精霊を回復させてもすぐに連れ歩くわけにはいかないからだ。


『ヒロ……悪いけど風と森に相談した結果、このままこの精霊達を此処に放置はできないわ。少なくとも中級精霊が誰か付き添わないと……でも私達は貴方のそばを離れることが出来ないの……』


 神妙な面持ちで水っ子が代表してそう話す。


 風っ子も森っ子も同じように首を縦に振りながら……風っ子が『放置すればこの子達は……間違いなく帰れなくなるわ』と念話で話す。


 心配性の森っ子ならわかるが、風っ子が念を押すあたりを見ると非常に危険な状況なのだとわかる。



『そこで……若干心配ではあるんだけど……ヒロ貴方の弟子と言っている『ミミ』って娘を呼んでくれないかしら?私たちから事情を話して、彼女の精霊に付き添ってもらおうかと……』


 風っ子がそう言うと、森っ子がそれに話を付け加える。


『その時に私たちのご主人であるヒロ様から……精霊力をミミという娘に譲渡したいのです……。彼女の精霊力が枯渇すれば、間違いなく彼女の水精霊が長い眠りにつくことになるので……』



 僕は精霊3人が代案を用意してくれている以上、それを嫌とも言えない。


 そして、他に解決方法がないからこそ、そこに至ったとわかる。



 僕は事情をエクシアに説明すると、先を急ぐエクシアはすぐにミミ達一行を呼ぶ。


「悪いけどレッドアイズのパーティはヒロの方へ集合してくれるかい?訳有りでアンタ達を呼んでるんだ……特にミミ。アンタは『ちゃんと話を聞く』ように……じゃないとヒロに弟子は破門にする!」


「ほ…………ほげぇ!?何故エクシア姉さんが師弟関係に決定権を持てるんですか!!ワテクシと師匠の師弟関係は永遠なのですぞ!?」



「だったらちゃんとヒロの話を聴きな!それだけお前に託す仕事だってことだろう?いつもみたいに馬鹿をやらかしたら困るって事なんだよ……まぁ良いからさっさと行きな!」



 エクシアにお尻を蹴り飛ばされたミミは『ヒャン』と言ってすっ飛んでいく。



「お師匠!!エクシア姉さんに言われて来ました!!……破門……やですーー!!ワテクシヘマばっかりだけど!!一生懸命頑張ってますーー」



 エクシアとミミの会話は、ちゃんと僕の耳にも入っていたので、破門にする気は無いがヘマをしないようにしっかり言うと、精霊がミミの元に集まり事情を話す。



「な!なんですとぉ!?私に師匠の精霊力を?断るはずがありませぬぞぉ!!免許皆伝の試練ですね!ワテクシ頑張りますぞーー!!」


 既に全てが空回りしている気もするが、今はミミにしか頼れない。


 水っ子と風っ子そして森っ子がミミを囲むように配置に着く。


『ではミミさん行きますよ?貴女にとって許容量を遥かに超える『精霊力』ですので一時覚醒状態になります……精霊力が元の量になれば覚醒も元に戻りますので……』



「ほへはーー!?何ですとーー!?聞いておりませぬ!許容量を超える精霊力なんて一言も……言ってなかったですぞ!?覚醒って何ですか!?ワテクシはその力でオバケになっちゃいませんか?さっき遠くから見えていた……あの化け物みたいにぃ」



『大丈夫です!覚醒もと言っても、悪い方ではなく良い方です。言うなれば聖女と同じ力を発揮出来るようになります。男性であれば勇者と同じ力ですね……常に覚醒状態なのがその両者ですから……』



 森っ子はサラッと念話でそう話す……



 秘匿事項じゃ無いのかハラハラする。


 だが風っ子が騒がないので、そんな問題になることでは無いのだろう……



 しかし周りの貴族はそうは行かない……


 マックスヴェル侯爵とソーラー侯爵が貴族達の首根っこを掴んで膝まづかせる……



「おおいなる精霊様方、聖女様をお迎えする用意は整いました。是非我々の前でそのお力と、か弱き我々に聖女様をお与え下さい」



 ソーラー侯爵が代表してそう言葉を言うと、周りの悪辣貴族は意味を察して即座に全員で言葉を繰り返す。



「か弱き我々に聖女様をお与え下さい!!おおいなる精霊様、御願い申し上げます!」



 精霊達にとっては、人間社会の聖女問題は取るに足らない問題だ……


 ソーラー侯爵達のその言葉に耳を傾ける事なく、黙々と精霊力の譲渡を続けている。


「ふおぉぉぉぉぉぉ!!ふおぉぉぉぉぉぉ!!何ですか!師匠……貴方は何者ですか!化け物ですか?何ですか!!こんな……おえーーーー………なんかもうお腹いっぱいな気分が………おえーーーーもう入りません!何か分かりませんがもう入りません!ほ……ほほほほほ………ほほほほほほほほ…………」


「おいおい……ミミぶっ壊れ始めたぞ?大丈夫なのか?おい……ヒロ?」


「僕に聞かれても答えは無いですよ……聞くなら水っ子達に………」



 ミミのあからさまに壊れた様子を見て、怪しい笑い声をあげるミミに僕達は恐怖する。



「ふおぉぉぉぉぉぉ!!ワテクシは覚醒しました!覚醒者ミミですぞー!!」



 そう言ったミミは万歳ポーズを取る……するとそれに合わせて髪もふわふわと動き出す……


 貴族達は、風も無いのに揺れるその様を見るとすぐに額を地べたにつけて……『聖女ミミ様!!お疲れ様でございます!!』と言って平伏している。


 しかし調子に乗っているミミへ風っ子が近づいていき耳元で話す……


「ミミちゃん……遊んでないで自分の水っ子に精霊力を渡して土精霊の保護をしてくれる?今のうちに基礎の練習しないと、後で分からないだと私達じゃなくて土精霊が困るのよ……」


 風っ子はミミの馬鹿さ加減に呆れて、念話ではなく直接耳に聞こえるように『ハッキリ』そう言う。


「おいミミ……アタイは言ったよな?ちゃんとやらないなら……はも……」


 ミミは危険を察知したのか『シュバ!!』と手を下ろし、エクシアの言葉を遮るように謝罪をし始める。


「エク姉さん、今すぐやりますですはい!ワテクシは師匠の力を手に入れてうっかり調子に乗ってました!!すいませんでしたーーー!!」


 そう言ったあと、ミミは素直にその場に正座して精霊の話を聞き始めた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「う………う〜ん………は!!若いノームとノーミーはすぐに下がるんじゃ!!此処は儂が時間を稼ぐ!!『アーイナ・ブウクリイェ』」


 土の精霊は目を覚ました途端、周りの確認もせずに魔法を唱える……


 意識が無い中敵と夢の世界でも戦っていたのだろう。



「どうでしかー?その中級精霊になったノームだけ………どわぁぁぁぁ……うひょぉぉぉぉ……だじげでぇぇ………」



 呪文は大地の盾の魔法で、効果が発現すると突然巨大な岩の盾が地面から飛び出てくる。


 丁度その上を通りかけたミミは、見事に下から突き上げられてしまう。


 そして身体が軽いミミは、ダンジョンの天井付近まで勢いよく飛んでいく……



「ミ……ミミちゃん!?」


「ミミ!?おいおい!!お前あれだけ問題を起こすなって………。お前エクシアさんに言われてんじゃねぇか!!」



「ミミさーーーーーん!!なんで期待を裏切らずに見事に飛ぶのよーー?」


「あはははははは……ミミ……ミミちゃんらしい……あははは……」


「ミミ………スッゲー飛んでったー!!エルフでもあの高度にはいけないよ!はははは!!」



 カーデルが驚きのあまり叫び、パーティーリーダーのルームが慌てふためき、モアとユイそしてスゥが笑い転げる……


 しかし、全員にこれからの状況説明をしていたエクシアはご立腹だ。


「アタイは急いでるんだよ!!なんでアンタ達を助けたのに、仲間がぶっ飛ばされなきゃならないんだい!?聞いてんのかい?この馬鹿ノームが!!」



 エクシアはノームを踏んづけならそう言うが、踏んでいるノームはもう『土精霊』になっている。


 非常に罰当たりだし、助けた意味がなくなる……


 ちなみにこの現象は、中級精霊核を強制的に摂取させられた後遺症のような物だと、助けた土の中級精霊が説明してくれた。


 その事を教えてくれた土精霊は精霊力をミミに補充されて、仲間の下級精霊と共に一足先に精霊界へ帰っている。


 既に力を使い切り、防衛力もほぼ皆無な精霊達は、穢れの脅威があるので悠長に待っていられない状態だったのだ。

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