第750話「巧みな罠と最悪な状況」
「グゲゲ……土の精霊の能力とノームの属性の力があれば…グゲゲ……もう魔物の身体なんかいらない……寧ろ邪魔なだけ!」
急激に知識レベルが向上した魔物は、先ほどとは比べ物にならないほど流暢に『声』を使い話し始める……
しかしその手は、既に砂が寄せ集まり出来た触手になっている。
「グゲゲゲゲ……お前達に礼を言う。オレをバラバラにしてくれたお陰で、あの身体を棄てる事が出来た。グゲゲ……もう土精霊もノームも混ざりあって優先順位を決めなくて良くなった……グゲゲ」
そう言った精霊を貪る者は身体を震わせると『ザザザ……』と音をたててその姿を砂状に変える。
そしてカナミとミサにはめもくれず、マザー種の魔物の遺骸に覆い被さるとその体内の水分を全て奪う。
そしてマザー種の遺骸を粉々に磨り潰し、自分の体積の傘増しに使いはじめた。
「グゲゲゲゲ!!思った通りだ。体の体積は思い通りになる……。コレも全て人間の小娘のお陰だ……。お前達の相手は後だ……死体が消える前に回収して、この場所をオレが支配する……グゲゲゲゲ!!」
身体を分散させて四方に散らばり、どんどんと体積を増やした精霊を貪る者は力を増した事である事に気がついた……
マモンとヘカテイアだ。
「グゲゲ!人間の癖に強い力……だがお前達は所詮オレの餌……お前達の力をオレに寄越せ!!」
「アラ……マモンまさかあれって私たちの事?まさかここまで馬鹿だとは思わなかったわ?ベースがノームだとああも馬鹿なのね?……流石に……頭にくるわ!貴重な精霊種の穢れを無駄遣いして、雑魚に調子付かれると……」
見かけだけは人間の女性であるヘカテイアだけに、精霊を貪る者が勘違いしてもおかしくは無い。
生まれ出て間も無い魔物だけに、自分より強い相手を知らないからだ。
カナミとミサの攻撃は、自分にとってプラスにしかならなかった……だからこその慢心である。
「バラバラになって鬱陶しいわね……纏まりなさいよ!!」
そう言ったヘカテイアは風魔法で1箇所に集約させた後、超高熱で全てを焼き払い灰も残さない……
「おいおい!!ヘカテイア。お前は契約者共を殺す気か!?誰が障壁張ってると思ってんだ!!」
その言葉を受けて、ヘカテイアはマモンに『仕方ないじゃ無い……私は雑魚に舐められるのは嫌いなのよ!』と言う。
「グギギギ……オレの身体にナニヲした!?人間の分際で!!穢れた精霊の力を侮るナヨ……今スグにすり潰シテ吸収してやる」
「ぷっ………人間の分際で!?本当に馬鹿なのね……?実力を見て何も分からないなんて。そもそも貴方なんか、その身体が砂になっても問題ないわよ?魔力で周囲を囲って高圧縮しつつ超高熱で焼き固めたら、元の土精霊の身体と遜色ないでしょう?たとえ身体を砂へ崩しても『砂になる度に焼けばいいだけ』じゃ無い?そのうち焼け死ぬのは貴方よ?」
「違いねぇ!ヘカテイアの言う通りだ……馬鹿の中の馬鹿だ……。無駄に焼かれて生命力大きく減らせば勝てねぇぞ?そもそもなんで砂が無敵だと思ったんだか……オレ達の契約者は水の使い手だぜ?相性最悪じゃねぇか……」
マモンはその身体が砂になっても、水でどうにか出来てしまうと言いたいのだろう。
当然ヘカテイアも呆れている。
「馬鹿はお前達だ!!グゲゲゲゲ……コレが俺の全力だと思っているのか?取り込んだ精霊の力をツカエバお前達なんぞ敵じゃ無い」
「だったら、さっさと使えよ?オレもヘカテイアも暇なんだよ。折角だから遊んでやる」
『ズゾゾゾゾゾ………』
魔物を干からびさせ粉砕した部位の全てを1箇所に集めて巨大な身体を生成する。
「グゲゲゲゲ……このチカラで圧縮して潰してやる……」
「だから!!……見様見真似のその力じゃ俺達には傷一つ無理だって言ってんだろう?本当にバカだな?精霊の力を再集約して体内に精霊を再誕生させて、お前の内側からその力を引き出して使え!!そもそも準備も何も出来てねぇのに、横着してんじゃねぇよ!!」
「……取り込んだ精霊の使い方も知らないなんて……雑魚もいいところじゃ無い?……貴方も新人教育は大変ねぇ?」
マモンは一体どっちの味方なのか分からない。
単純に戦闘馬鹿のマモンは、精霊の力を手に入れた『精霊を貪る者』の実力を試したいだけかも知れない。
だが、ヘカテイアは笑いを堪えている様にも思える……
「言わせておけばツベコベと……オレが本気を出して後悔するなよ!!」
「ツベコベ言わなくていいから……さっさとしなさいよ!このウスノロのデカイ能無しが!」
「!!……ゼッタイにお前達はコロス……特に女……お前はゆっくり干からびさせてから砕いてやる!!」
怒りに震えつつも精霊を貪る者は、マモンが言った様に体内の奥に穢れた精霊力を集約する……
僕の感知でも精霊の気配が捉えられる……その数にして数十程の気配がある。
「本当にやりやがった!馬鹿だコイツ!!」
「あははははは!!大馬鹿よ………本当に大馬鹿!!」
マモンは即座に手に極大魔力を込めて、精霊を貪る者の身体を貫く……
魔力で覆われた手は、半透明だが若干紫がかっている……形は巨大な化け物の手そのものだ。
おそらくマモンの本当の姿を魔力で再現したのだろう。
「ギィィ……ギギッギ!!騙したな………ナニモノだ!!その手はニンゲンジャナイ………返せ………チカラをっっ!!ギゲゲゲゲゲ………ゴゲ………グギャギャギャギャ!!ゲヒヒヒヒ………」
急に精霊の力の一部を失い、身体と精神の制御を失った様だ。
「あら残念……私の方はノームだったわ……精霊を取り込んだせいで世界初めての完全な精霊種ノームになった様だけど……まぁ穢れだけは貴方を助けたご褒美で頂いていくわよ?」
ヘカテイアはうっすら茶色に光るノームから穢れを回収する。
マモンが気を引いている僅かな間に、ヘカテイアはしれっと欲しいものを回収していた様だ。
穢れを回収したヘカテイアの髪の毛の一部に変化が生まれる……
毛先が紫と赤のメッシュになり、より一層妖艶な見栄えになったのだ。
「あら?あの化け物階段から降りていくわよ?いいのマモン?」
「あ?あんな雑魚しらねぇよ……オレは念願の精霊種のチカラを回収できたんだ。だからあんな雑魚構ってる暇なんかねぇぜ……。まさかお前について来ただけで、珍しい力と変異体をここまで手に入れられるとはな。ヘカテイア様様だ!!」
「マモン?感謝しているなら………貴方の手に持っているそれを分けてくれてもいいのよ?」
「馬鹿を言うなヘカテイア。……それとこれは別だ……」
マモンはそう言うと、手に持っていた小さな精霊核と中サイズの精霊核から黒い煙状のものを取り出すと『ガブガブ』と喰らい始め、そして僕をみて精霊核を見せつける……
「おい契約者、お前の契約精霊に頼めばこれを精霊として再生させられるぞ?………そうだな……代わりにこのホムンクスルとか言う身体のコアをオレにくれ。それが取引だ……タダでは渡せないぞ?どうする?」
マモンは多くの精霊核と引き換えに『既にあげたはずのホムンクスルの身体』を欲しがった……予備でも作って欲しいと言う事なのかと思い、僕は碌考えもせずに返答を返す………
「じゃあ……この精霊核は俺からお前に譲渡するから、ホムンクスル核は『俺の物』で良いんだな?よし……契約完了だ……コレでこの精霊核はお前の物だ。くっくっく………ヘカテイア……一足先に俺は自由だ!!くっくっく………」
「なんてずるい奴!!………魔法で拘束して更に周囲の音を奪いやがって!!テメェ!」
ヘカテイアの言葉で僕は酷くびっくりした。
「ヘカテイアさん……どう言う事ですか?音を?僕にも意味がわかる様に説明をしてください!!」
「説明も何もアンタはあのダンジョンで私達と取引をして、マモンと私はこの身体を使う契約をしたじゃないか……。だけど今になってマモンは、『アンタ達が欲しいものと、元に戻す情報』を餌に契約の上書きをしたんだよ!!」
僕は大失態をしでかした様だ……
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