第749話「謎の男が作り出した危険生物」


 僕は向き直り体勢を整え、すぐに目の前のノームを鑑定をする。


 鑑定の結果、変質中のノームは既に『ノーム』と言う名前の種族では無く『精霊を貪る者』と言う化け物になっていた。



「エクシアさん!この個体は既にノームではありません……残念ですが既に『精霊を貪る者』という魔物です。



「アンタ達大丈夫かい!?………チィ!!やっぱり様子見なんぞするんじゃ無かった……ノームだけは助けたかったんだがねぇ!」



 エクシアは次々と伸びてくる触手を斬り払いながらそう言う。


 しかし燕尾服の男はエクシアの言葉を聞き、嘲笑う様な態度をとる。



「確か……エクシアとか言ったな?だから言っただろう?『既に遅い』ってな……。何を聞いてた?馬鹿な冒険者風情が。コレだから学のない異世界は嫌なんだ!!」



「そりゃどうも!だがアタシの目から見れば、アンタはヒロよりかなり劣る様に見えんるんだけどね?思い通りに行かないからって、周りに八つ当たりするあたりはまるで子供じゃないか!周りに迷惑をかけて滅茶苦茶やらかす出来の悪いガキには、早々にご退場頂こうか……この世界からね!」



 そう言ったエクシアは力を解放してチャンティコを化現させる。


 全力と思われるその姿は下半身が蛇の形態ではなく、完全な人の姿だ。



『ヴォルカン・イグニスサハム!!』



 エクシアの意識を強く受けたチャンティコは、赤黒い火球を生成する。


 そしてチャンティコは制御に専念して、意識をエクシアへ返す……



「アンタに構ってる暇はないんだ!古の魔法でとっとと燃え尽きな!」



 エクシアは周りの被害も考えずに魔法を行使する……


 火球は回転しながら『ゴアァァァァ』と音を立て、あっという間に巨大な火の矢になる。


 男は勿論、真後ろのアーマー・マザーロックビートルの遺骸までまるまる燃やし尽くす火力だ。



 炎魔法は延焼効果がある……エクシアの使った魔法は非常に高火力だった為、火矢付近に居た別個体の魔物まであっと言う間に丸焦げになる。


 しかしその炎熱地獄の中、炎熱無効の障壁のおかげで僕達には怪我は無かった。


 チャンティコは炎制御が得意なので、エクシアの付近に居た僕達に被害がない様にしてくれた様だ。



 身体が火に包まれ焼けているにもかかわらず、男は何の魔法も使わない。


 それどころか平然と話し始める有様だ……


「何だ?エクシア……この身体を破壊したところで、全く意味など無いと何故気が付かない?まぁ好きにすればいいさ。俺の目的は果たした……おい!ホームであったクソガキ。話の続きはまた今度だ『アナベル』とやらの事を『聞きに行く』から忘れるなよ?」



「はん!聞きに行くだと?既に身体がないのにどうやってだい?そうだよな?ヒロ……」



 エクシアはわざとらしくそう悪態をつくが、既に注意は男では無く魔物に移している。


 情報を男から集めるのでは無く、この男による被害をこれ以上増やさない方を選択した結果だろう。



 しかし男は、それを見透かしたかの様に僕へ向けて話を続ける。



「まぁ姿形は今とは変わってるがな?だから『初対面』になる筈だ……恨むなら『今の乗り物』を壊したエクシアを恨めよ?」



 男は炎に巻かれて焼かれながらも大笑いをしながら、その場に崩れる。


 その直後、男の鑑定結果が頭に流れ込んでくる……



 『鑑定結果……ロイス・ベントマン(帝国貴族・男爵爵位) の遺体。帝国領所属の領民想いの領主。隣領地の飢饉の時に救済に出向き、異世界人の堀川聡に誘拐され行方不明となる。後に彼により生命の循環から外された。死去後3900年経過』



「堀川………聡………あの男の名前………」



 僕はそう呟く……


 共にこの世界に呼ばれ、敵になった異世界人……非常に身勝手な大人。



 酔いった状態で高校生相手に喧嘩をして、僕を電車のホームから突き落とした張本人だ。



 この世界で彼の身に何があったかは想像もつかない……


 しかし、少なくとも3900年もの間この世界に害悪を齎した、忌むべき異世界人。



 彼が居なかったら、帝国貴族のロイス・ベントマンは死なずに済んだ。


 そして土の精霊やノームにも被害は及ばなかっただろう。



 そんな僕の様子を見てそうしようと思ったのか、エクシアが僕に檄を飛ばす。



「アンタに何があったかなんか聴く気はないよ。今はこの世界の命運がかかってんだ……腑抜けてるなら邪魔だからロズ達のところへ帰りな!邪魔者はあたいたちの寿命を減らしかねないんだ!!」



 エクシアはそう言うと、炎を操り燃え上がるバスターソードを作る。



「カナミとミサいいかい、アイツは今使い物にならない。だからアタイが道を切り開く!!アンタ達の剣であの気色悪い魔物を叩き斬りな!」



 エクシアは物凄いスピードで、両手持ちの大きな炎のバスターソードを振り回して、片っ端から触手を斬り払う。



『ニンゲン………スベテコロス……』



 精霊を貪る者は触手を切り払われながらも、負けじと新しい触手を生やし振り回す。



 しかしエクシアの武器の延焼効果の助けもあり、どんどん触手は燃え上がる。



『オマエタチ……イラナイ……。オマエラコロス……ソウスレバ……アタラシイケガレニナル!!』



 直接脳へ語りかけてくるその会話は念話だった……目の前の化け物にはある一定の知恵はある様だ。



 ノームのものでも土精霊の物でもないその念話は、酷く聞き取りにくい。


 どうやら穢れが両者の力を具現化して意識を持った結果、知識のほかにその能力も手に入れた様だ。



 非常に悪意と殺意を表に出した言葉だ。



「カナミちゃんあの触手の中を押し通るよ!私が前で貴女が後ろ……準備はいい?」



「ミサちゃん、手数なら任せておいて!炎の魔法もエクシアさんのおかげで効果があるって分かったから!!」



 ミサとカナミはエクシアが作った、そのチャンスに果敢に挑む……



 素早い動きで残りの触手を避けて、お互いにアイコンタクトをしながら自分が持つ必殺の剣技を使う。



「私とカナミの連携を舐めるなぁ!牙突!!」



「もう再生の隙は与えない!!月華斬」



 ミサの剣技は研ぎ澄まされた突きの一撃だった……大きな刃は魔物の胴体に突き刺さると、その体を軽く両断する。


 しかしすぐに触手同士が絡まり、元の方に戻ろうとする。



 カナミはそこに連続する剣技を放つ。


 その剣技は常に三日月を描く様に振るわれるが、動きに無駄がない


 ミサが両断した魔物をカナミがより細かくバラバラに切り裂く、二人の連携技だった。



 攻撃をモロに受けてバラバラに斬り刻まれた精霊を貪る者……



 二人の連携に手も足も出ない事でカナミとミサは油断をしてしまった……



『ムダダ!……オレノコウゲキシュダン、コレダケジャナイ……シンデワレノヨウブントナレ』



 精霊を貪る者はバラバラになった身体から、まるでウニの様に長い棘を作りだす。


 そして接近しているカナミとミサに向けて射出する。



「いったぁい………」



「きゃぁ……」



 ミサは棘の様な攻撃を受けると、すぐにカナミの前でクレイモアを盾の様に構えてその攻撃をやり過ごす。


 クレイモアの剣には幅があるので、ミサはそれを利用して巧みに扱い臨時の盾にした。



 しかしバラバラにした魔物の身体が仇になった。


 放射状に打ち出された棘を全てクレイモアだけで防ぐ事などではしない。



 全ての射出が終わる頃には、至近距離で攻撃を受けた二人の手足には無数の棘が刺さっていた。



「かは………何これ……痺れて……」



「し……神経毒!?不味い!!この距離は……ミサちゃん!逃げて!!」



 カナミがミサに逃げる様に促したのには訳がある……


 バラバラにした筈の魔物の身体は、まるで砂の様に崩れ落ち、そして新しい身体を作り始めたのだ……

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