第726話「開封の儀からの封印の儀」


 鑑定結果を見て僕は驚愕する事になった……



『宝箱・SS+「レジェンドボックス」(罠・カッターニードル・作動済み) 至極稀に手に入る宝箱。中身のアイテムは非常に特殊な力を秘める』



「チャック!この箱を確認した?モノクルで」



「しましたぜ?鑑定不能って出たんですよ。でも旦那の持つ鍵なら何とかなるかと………まさかこんな事になるなんて!!すいません言わなかった俺の責任です」


 そう言ったチャックだったが、彼は悪くは無い。


 何事も慣れてきた時が一番怖いのだ……それを今、僕は身を持って知ったわけだ……



 チャックや冒険者、そして貴族迄もが僕の手の傷を心配するが、すでに僕の手には傷は無い。



「は!?あれ?傷は何処に?………あれ?」



「おいチャック……忘れたのかい?ヒロやアタイ達には『再生』のパッシブがあるんだよ?少しの怪我ならあっという間に元通りさ!アタイなんかこの間戦闘中にウッカリ避け損なって指切り落としたんだけど、切れた指を元の位置に合わせて押さえてたらすぐにくっついちまって……もうビックリだよ!!」



 チャックはエクシアの指を見ると……『もう人間を卒業したんすね?』と言って殴られていた。



 余計な時間を使えないので、僕は急いで他の箱を開ける。


 しかし僕は他の箱を開けつつも、そのSS+の箱の中身が気になっていた。



 中の宝が元の世界に帰るのに役立つのであれば………と考えたのだ。



 レジェンドアイテムであれば、そういった可能性が少しは増えるのでは無いかと思った……



 すると観察眼が鋭いマックスヴェルが寄ってきて、耳打ちする。



「その顔からすると、あの怪我した箱が気になるのであろう?鑑定不能な上にヒロ男爵の持つ不思議な鍵でも罠が外せないとなれば……それだけ珍しい物なのもすぐに分かる。お主とエクシアが中を見て、要らぬのであれば儂等に回せば良い!欲しければ持っていけばいい。余計な事を気にするな」



 宝に執着する人からの思いがけない言葉に驚くが、僕にはその詳細を話しておく必要がある。


 貴族同士、もしくは貴族と冒険者のトラブルは後々禍根を残す恐れがある。



「率直に言いますと『レジェンドアイテム』と言う説が濃厚です!罠はカッターニードルと呼ばれる罠で、ナイフ状の刃が針の様に飛び出る罠の様です……罠はすでに作動していてしまい、箱は開封済みです」



「「「「「え!!レジェンドアイテム!?」」」」」



 言葉を聞いた全員がすぐに集まって来て、押すな押すなと大騒ぎになった……



「他の物は後回しにしよう!中身だけでも是非にでも見たいぞ?皆もそう思うだろう?」



 当然だが、箱と中身の情報が分かればそうなるのは目に見えている



 侯爵へ説明した通り、僕の鍵で開けることは出来た。



 ちなみに開いたのは運の問題か、それとも罠が作動したから開いたのかは分からない。



 報告の後、全員が見守るなか僕は箱を開ける事になった。



「おい!ヒロ何なんだい?中のそれは?」


「ヒロ男爵……心臓の置物………か?気持ちが悪いなあ。呪われているんじゃ無いか?」



 僕はモノクルで覗くフリをして鑑定をする。


 モノクルでは箱同様鑑定など出来ないからだ。



「最悪です………コレは……人間を辞めるためのアイテム……というか見たまま『心臓』です。ちなみにナマモノ……食用です………」



「「「「はぁ!?」」」」



 鑑定結果から言うと『破滅の心臓』と呼ばれる魔王種に成るためのアイテムだった。



 非常に強い『呪いの力』を秘めていて、同時に人間では扱えないほどの魔力も秘めている。


 文字通り『心臓』で、コレを摂取すれば膨大な魔力を得て何かしらの魔王になれる代物だ。



 ちなみに鑑定結果は……


『破滅の心臓「レジェンドアイテム」(食用・極めて不味い) ……摂取時に元の種族を棄て、魔王種に生まれ変わる。高密度の魔力繭を生成し、肉体そのものが造り替えられる。魔王種になった後は穢れ無しでは生きられない。変質する際、魔王種の種類は選べない』



 僕はその説明をする……



「摂取すると、魔王になれます……代わりに人間では無くなりますし、穢れがないと生きられない体になる様です。この世界では暮らせなくなるので……穢れが豊富なダンジョン最下層で暮らすか、もっと穢れが酷い場所を探さないといけないかもですね……魔の森深部とか?」



「良かったじゃ無いか?マックスヴェル侯爵は守銭奴侯爵から守銭奴魔王に格上げだな!!コレで………ははははは!!」



「エクシア……誰がそんな肩書き喜ぶんだ!?寧ろ要らんわ!この生活を捨てたいなど思うはずがないだろう?コレはヒロ男爵お前が管理しろ。こんな物が世に出回って、万が一誰かが魔王になったら困るからな!」



「マジか!?アンタまともじゃ無いよ?魔王に一番近い奴にその心臓を渡すのかい?」



 全員がマックスヴェル侯爵を見るが、ソーラー侯爵その案に賛成を示す……



「いや……ヒロでいいと思うぞ?魔王だろうが悪魔だろうが……この男なら問題無いはずだ。根っからの『甘ちゃん』だからな!」



 ソーラー侯爵からすごい誉めてもらった……そう思っておこう……



「ではこのアイテムは遠慮なく貰っておきます……侯爵様達の言う通り世界を破壊する可能性が有るので、人目につかない場所に廃棄しておきます」



「そんな場所があるのか?私には全く見当がつかないが………ゼフィランサスのところはダメだぞ?ゼフィランサスが魔王になったらもう手のつけようが無いだろうからな……」



 僕は『それが何処か言ったら、全く意味がない……』と言うと、ソーラー侯爵もマックスヴェル侯爵も『そりゃそうだ!』と笑っていた。



 しかし悪辣貴族の一部には、このアイテムを虎視眈々と狙っている素振りが見られた。


 自分が摂取する、しないは別として『万が一』の時の為に持っておきたいのだろう。



 しかし、すぐにこのアイテムの話は終わりを迎える。



「ヒロ殿!!お知らせが………この階層は何が何でも早く抜けるべきです!!」



「エクシアここは駄目だ!すぐに全員を階段から下ろそう。被害が出てからでは遅い……」



 エルオリアスにエルデリアは真面目な顔でそう言う。


 エルフレアに至っては、すぐに荷物をまとめる様に貴族と冒険者に指示をする有様だ。



「どうしたんだい?エルオリアスにエルデリア……おい……何処へ行くんだい?……何がどうしたんだい?行っちまったよ……。ロズとソウマわかりやすく説明をしてくれるかい?」



「エク姉さん……ここはアンデッドの巣窟でもあります。半分はオークの繁殖場ですが、既にそれはケイブとケイブ・スクリーマーに取って替わられています。ですが半分は完全にアンデッドの巣窟です」



「成程!この鼻が曲がりそうな悪臭は半分はアンデッドかい!……まさかケイブ達は、アンデッドまで食ってるとか言わないだろうね?半分腐ってんだよアイツら………」



「エクシアさん、それは無いです。ですが食べに行けないだけかも知れませんけど……。ロズさんが見た結果ですが、スケルトンキングが居ました」



 詳細の説明をしたロズとソウマだったが、エルフ達の言動には結びつかない。


 そう感じたエクシアは何か心当たりがないかロズとソウマに聞く。



「そう言えばリッチを見た瞬間からあんな感じですね……」



「ロズ……ちょっと待ちな!リッチがこの階層にいるのかい?……あの『死を操る者』のリッチかい?」



 ロズとエクシアがエルフ族の異常行動が気になり話していると、エルデリアが戻ってきてその理由を話し始める。

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