第725話「想定外?慣れた頃の手痛いしっぺ返し」


 エルデリア達森のエルフ族は、すごい体勢から上方向に矢を射る……


 狭い空間でも問題なく弓を扱えるのは、長い森の生活で学んだ修練の業だという。



 エルフレア達太陽のエルフ族は、冒険者の肩を使い踏み台にしながら身をかがめて走り最後尾へ向かう。


 すると、到着後にあっという間にケイブの首を斬り落とし最後尾の安全を確保する。



 最前列はロズとソウマが盾を構えて攻撃を防ぎ、エルオリアスと月のエルフ族が壁を足場に攻撃を避けケイブ達の後ろに回る。


 急に挟み撃ちにされ混乱するケイブ達は、エクシアとベンの猛攻撃で呆気なく討滅される。



「点呼を怠るな!怪我人の確認と手が相手いる者は周囲の探索!!こんな階層で誰一人欠けることは、このソーラーが許さぬ!!」



 ソーラー侯爵は指揮を保つために大声をあげて檄を飛ばしていた。


 そのお陰もあり、冒険者たちは勿論貴族のパニックも免れた。



「いいか貴族諸君!この様な環境で恐怖に飲まれパニックをすれば全滅する!怖かったらその場でうずくまり荷物で頭を守れ!いいな?」



 その言葉にブンブンと首を縦に振る悪辣貴族達……



 宝箱の為に参戦したが、まさかこんな恐怖の探索が待ち構えているとは思っても居なかったのだ。


 上からケイブの血が滴り、貴族ご自慢の衣服はあっという間に血染めになる。



 戦闘終了後に『先程9階層の休憩時に着替えたばかりだったが、全く味無意味になった……』とボヤき始めたので、どうにかこの環境にも慣れつつあるのかもしれない。



「ソーラー!助かったよ。アンタの激励が無ければ真ん中の冒険者達は、パニックになってたかも知れない」


「気にするなエクシア。それぞれの役割があるのがダンジョン遠征だ」



「おい!お前たちそんな事より聞きたい事がある!此処が魔物の通路ならば『魔物が湧く』と言う事だろう?ならば上の階層と同じ宝の投棄場所があるって事ではないのか?」



 エクシアとソーラーが呆れるくらい、マックスヴェル侯爵は敏感に状況を察知する。


 先を急ぐエクシアとソーラーは『敢えてその事を伏せておく』つもりだったが、彼は自らその事実に行き着いたのだ。



 守銭奴の感もここまでくると誉めていいかもしれない……とそんな気になって来る。



「行く途中にあったら回収していけばいい。だがわざわざ捜し歩くことは出来ないよ?」



「ああ、それで構わん!!皆の者目を凝らして探し歩くんだ!近場であればまた手に入るぞ!!ケイブの宝は『早い者勝ち』だから儂に遠慮などはいらんからな?コレは無礼講である!!」



 この一言で悪辣貴族の指揮がモリモリと上がる。


 マックスヴェル侯爵が『無礼講』と言ったのだ……本来、宴会で使う言葉をここで使ったのは、指揮が下がっている貴族のモチベーションを上げる為なのは間違いない。


「自分が先に見つけますぞ!マックスヴェル侯爵様!」


「いいや……それは無い。絶対に自分が見つけますぞ!!宜しいのですね?見つけた者が最優先で?」



「ああ!構わんぞ!エクシアもソーラーも良いなそれで?」



 確認をするマックスヴェルにエクシアは手でハイハイ……と合図を送りソーラーは自分の仲間の貴族にも、同じ様に早い者勝ちで得て構わないと言う。



「良いかい?コレだけは言っておくけど、見つけても勝手に走るんじゃ無いよ?ここはダンジョンだって事を忘れなさんな……場所によっては罠もあるからね?」


 さぁ先に進むかね……と言ってエクシアは隊列の再編成をしてから前に進む指示を出す。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 似た様な襲撃が何度か続くも、同じ様に上方からの襲撃を防ぎ前後の敵を排除する。



「この圧迫なんとかならないかねぇ……アタイも流石に気が狂いそうだよ。少し進んだら休憩でもするか?なぁ?ロズ……」



「エク姉さん、半刻前に休憩したばかりですぜ?まぁ感覚もこの圧迫感と緊張感で狂いますがね……」



「マジか?半刻しか経ってないのかい?……どうしたらこの岩壁通路から解放されるんだい……まったく。ヒロまだ階段や部屋は先なのかい?」


 半ばキレ気味に僕の地図を覗き込むと、エクシアは歓喜の声を上げる。



 僕は部屋の様な空間で休憩部屋と思われる場所を指さす。



「コレは……安全部屋かい?休憩できるよ!やっとまともな休憩だ!!」


 意気揚々と部屋へ爆進するエクシアだった。



 しかしその場に到着すると、一瞬で顔を顰める。



「マジかよ……あのに群れは此処から来やがったのか!!汚しやがって最悪だ。こんなんじゃ休憩なんか出来ねぇじゃねぇか!!」



 安全部屋はケイブにとっても安全部屋なので、既にその場は住処になっていた。



 しかし多くの魔物がそこに集められたであろう場所があったので、貴族達は逆に大喜びだった。



「コレは誰が発見した事になるんだ?マックスヴェル…………」



「エクシアとヒロだろうな?」



 そう言われたエクシアは『だったらマックスヴェルあんたに任せるから全員に後で当分してくれ。目録も任せたよ!ああ……くそ水場にオークの頭が浮かんでやがる!なんでオークなんか此処で洗ってんだよ!もう飲めねぇじゃねぇか!!マジでケイブは馬鹿ばっかりだ!!』と怒りを交えて言った後に全てをマックスヴェルに任せる言うと、マックスヴェルは大喜びでチャックを呼んだ。



「へいへい……ああ……またかよ血塗れじゃねぇか!どの箱も……。なんで首が箱の上に並べてあんだよ!本当にケイブ共は馬鹿ばっかだ!!ヒロの旦那モノクル貸してくだせぇや!」


 僕はまたモノクルをチャックに貸す。


 エルオリアス達も僕の側にくると地図を貸してほしいと言う。



「もしかして……また先行するんですか?」


「うむ……一応今回は人数を連れて行く。前回の失敗を活かして今回はミスをしない為にな!」



 そう言うエルオリアスは各エルフの部下の他に、エルデリアとエルフレアの他にロズとソウマそしてベロニカを連れている。



「大丈夫さ今回は俺たちが居る。地図で少し先を見て敵を減らしておくだけだ。あぶなかったら逃げて来るから」



 ソウマがそう言うと、エクシアは『此処は汚ねぇからすぐ出たい。あの守銭奴達の確認が終わったら出るから……遠くに行かず早めに帰ってこいよ?』とだけ言う。



 僕は布で鼻から下を覆い、箱にかかっている罠を破壊して行く。



 中にはすでに空いた箱があり罠が作動した形跡もあった。


 どうやらガス系罠が作動したようだ。


 魔物の遺骸を箱の上に乗せた時に作動したのだろう。


「さっきから見ていたのだが……その鍵はなんなのだ?かなり特殊な魔法の鍵と見たが……モノクルで儂も罠の種類を見たし、箱のランクも暗記している。箱の種類にはSS……ああ……S+と言うべきか……それもあったはずだぞ?」



「え?それはですね……何と言いますか……」



『ドス……』



 話の最中に、次に開けようと思った箱の上に手を置いた瞬間、鋭い痛みを感じる……



「がぁ!?…………イッテェ!!」



「ヒ!?ヒロの旦那?」



 罠があっても片っ端から鍵の効果で壊せるため、僕は横着をした。


 鍵を挿そうと宝箱に手を置いた瞬間、箱の蓋の一部が僅かに開くと仕掛け針が突き出て置いた方の手の甲を軽々と貫通した。


 針と言ってもナイフの様な形状をした特殊な物だ。



 僕は箱の確認を任せた……全てチャックにだ……


 自分で見ずに人任せにした結果、手痛い結果を招いた。



 当然罠は全て『ルモーラの鍵』で解除できる……と間違った考えをしていたからだ。



 僕は罠が作動した宝箱を敢えて鑑定する。


 罠が作動しても『罠情報や箱情報』が見れる事を願ってだ。

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