第724話「巣窟」


 エルオリアスの言う通り、10階層は洞窟の様な作りだった。


 天井まで続く岩肌。


 凸凹しているが完全な壁ではなく、穴がちらほら空いている。


 侵入すると僕の感知には既に無数の『敵性反応』が出ている……彼等は9階層が手狭になったから10階に降りたのか、それとも侵入経路が10階層から下で9階層に移って来たのかは分からない。


 しかし、思った以上に『数がいる』状態で大繁殖しているのは、人族ならではの繁殖能力のせいかも知れない。


「かなり上に高い壁だね。ダンジョン特有の間仕切り通路なんだろうけど………息苦しさが半端ないよ!!不規則な岩肌と狭い通路のせいで、圧迫感が非常に強くて精神的に来るねぇ……」



「エクシア!!此処を早く出よう!儂等は冒険者では無い。こんな環境が続けば、後ろの奴等がいつ発狂してもおかしく無いぞ?」



 流石のマックスヴェルもこの環境は嫌な様だ。



「アンタに言われなくてもそうするさ。あたしゃ狭いのが嫌いなんだよ!剣を振るにも壁が邪魔で出来ないからね……」



「そ………そうか!!なら良いのだ。それにしてもまた此処も臭うな……上程悪臭とは言わんが、其れでも気分は悪くなる……」



 マックスヴェルの言う通り、この階層も非常に臭うのだ。


 血生臭く、そして何かが腐った匂いまでするのだ……



 しかしエクシアは、匂いより別の事が気になった様だ。



「ヒロアンタ達は武器を持ち替えないと………って出鱈目なアンタは魔法があるか……。ユイナとミクアンタ達はダガーに持ち替えな。そのままだと刃が壁にあたって、周りが大怪我するよ」



 僕はエクシアの言葉を聴いて、剣が振りにくいことに漸く気がついた。


 それを言われるまで気が付かない冒険者は、相当間抜けだろう。



 周りを見ると、冒険者全員武器をダガーや鉈そして小振のナイフの様な物に持ち替えている。


 相手が魔物では無いので、ナイフでも十分致命傷を与えられるという訳なのだろう。



 異世界組はミサとカナミを除き全員が慌てて武器を持ち替える。


 

 僕は武器をクロークの中にしまう時に、異世界の祝福箱から懐中電灯が出たことを思い出した。



 宿の窓辺に立てかけておいた事で、ソーラーバッテリーなのでフル充電になっている。



 それを取り出し先頭を歩いているエルオリアスに渡し、使い方の説明をする。


 持ち手の部分には腕を通す紐があるので、戦闘時にうっかり手放しても無くなることもない。



「な!?光が!!何ですかこの光の魔道具は?すごい光力だ……エルフの宝物庫にもありませんよ?今エルフレアに光の精霊をお願いしようか、悩んでいたところです!コレがあれば光の精霊が無くとも探索が出来ます」



「ちょ!?……アンタ………さっさとそれ出せよ?階段!!階段で使えただろう?」



「ああ!!確かに!!」



 ユイナもソウマも呆れ果て……『意外と抜けてるからな?ココレばかりは仕方ないですよ。性格ですからね……」と言う。



 松明は一応ロズが扱い、通路奥へ放り投げ続けている。



「いやぁ……便利ですねカイチュウデントウって言うんですか?すげぇアイテムだ。松明いらずで永久に使用できるんですか?」


「そうですね……『マジックアイテム』って便利でいいですねー」



 僕は言葉が棒読みになる……


 懐中電灯は、充電残量が照射範囲になる仕組みに『変質』していた……



 24メモリ……即ち24時間充電すると、24メートルもの広範囲を照らす。


 だが、残り1メモリになると1メートルしか光が届かない……


 とは言っても1メートル照射できれば、街での生活で安全は確保できるが……



 そして困ったことにバッテリーの使用期限は『無限』になっていた……経年劣化でバッテリー自体が破損する事は無くなった。


 そしてLED電球の物理的破損も無くなった……『不壊』ステータスがついてしまったせいだ。


 原理は分からない……しかし僕が持っているリュックと同じで、異世界製品には『不壊』になる物が存在するのは確かな様だ。



「本当にコレは便利ですね?カイチュウデントウは他には無いのでしょうか?あるなら是非譲っていただきたい……太陽のエルフ族の宝具になるでしょう……『永遠の光』は我々が求めるものですから!」


 エルフレアが珍しく物欲しそうな顔を見せる……


 しかしその顔はすぐに引き締まることになった。



「ぜ……全員!上からの奇襲に備えろ!!上だ……真上の横に繋がる穴から襲ってくるぞ!!」



 僕は壁があると思い感知に気を留めてなかった……



 ベロニカや他の感知持ち冒険者も同様で、まさか穴が横の部屋や通路に通じていてそこから襲ってくるとは思っていなかったのだ。



『ギィーーーー!!ヴィヤァァ……ギィィィ!!』



『ギギギギッギ……ガヒュギギギギッギ!!』



 魔物は真上から落ちる様に降りてくる。



「ぐあ………ああ……」



『ガシャン………カラン……カラカラン』



 冒険者の一人はまともに落下突撃を喰らい武器を手放し地面に手を突く………



「フューレ今助けるぞ。この化け物が!!今すぐ離れやがれ!!」



 周囲の冒険者と乱戦になるケイブだったが、落ちた先は密集状態にある為に満足に動けない。


 一人の冒険者と取っ組み合いになるものの、他の冒険者による攻撃で四方からダガーを腹部に突き刺される。



『ギィー!!ガフ……ガフ……グギュゥゥゥ………』



「よし!仕留めたぞ。フューレすぐに立て……次が来るぞ!!」



「ああ………分かってる……でも手が。うわぁぁぁ!!血だ……手が血でベットリだ!!何処をやられた……俺は何処を怪我した??」



 エクシアはその言葉を聴いてすぐに、ロズの持つ松明を地面に落とさせる。



「落ち着け馬鹿野郎。よく下をみろ足元の血溜まりだ!此処に湧く魔物が奴等の餌なんだろうさ、そこに偶然アタイらが入って来たんで『新しい餌』が湧いたって勘違いしたって事だろう……さっさとケイブ共の始末するよ!!仲間を呼ばれたらこの空間は不味いからね!」



 しかしエクシアの言葉の通り問題が起きる。


 隊列の最前列と最後尾、そして壁の上に方に空いた穴から這い出て来たケイブは一斉に襲いかかって来た。



 通路はエクシアの想像通り餌場であり、そこでの狩りは既に型にハマったものだった。


 逃さず確実に仕留める為策が練られていた。



「アンタ達来るよ!!ケイブの群れだ。乱戦だから仲間に武器を突き立てない様に注意しな!!」



『ストーン・ニードル!!』



『ザシュ』



「ギエェェェェェェ!!」



『グチャ………』



 僕は石で出来た巨大な石の針を、壁から無数に横向きに突き立たせる。


 前にギルドで唱えたものだが、『アース』と『ストーン』を言い間違えたせいで石の巨大針が生えた。


 無数に突き出たストーン・ニードルは30センチ程で、木の幹の様な太さがある。



 僕が魔法を唱えた理由は、落ちてくるなら『落とさなければ良い』と言う発想だ。


 石柱が邪魔で上のケイブは降りる事ができない上、運良く数匹のケイブは串刺しになる。



 そして壁が狭い部分は勢い良く石針が壁の穴に刺さる……


 壁には大小様々な穴があるので、うまく突き刺さっているのは運が良い結果だろう。


 壁とストーン・ニードルの間にいた運の悪いケイブは、巨大石針に押し潰され絶命した。



「エクシアさん、コレで上からの奇襲は問題ない筈です。最前列と最後尾に集中を!ミミは僕とウォーター・バレットで上のケイブを下から始末するんだ!」



「ハイでし!!お師匠様ワテクシやってやりますよぉ!さっきは思いっきり逃げましたけど、今は師匠のおかげでアイツ等上から落ちてこないので怖くないですから!」


 エクシアもベロニカもミミを見て……『あの群れに見つからないで逃げる方法を教えろよ!』、『貴女姿見えなかったけど……逃げてたの!?』と驚きの声を上げる……



「ハイです!チャックさんに『忍足』のスキルを教わったんです!怖い時はコレで逃げられると思って」



「『教わった』んじゃないだろう?俺を水で包んで窒息させたんじゃねぇか!!『教えるまで水の中』って言うから、俺は仕方なく教えたんだろうが!!」



「「「「「うちのメンバーが御免なさい!!」」」」」


 そんな会話が戦闘をしながら行われている……とてもカオスだ。

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