第723話「暗闇エリアと最下層問題」


 人間の視力ですでに見えないのだ……しかしエルオリアスに頼った事で彼に大怪我をされれば戦力を大きく失う。



 こうなったら、マモンやヘカテイアに頼み込んで先陣を切って貰うしかない。



 僕はマモン達に向き直りお願いをする……



「マモン……申し訳ないけど先行して貰えないだろうか?」



「なんだと?ならば俺が満足いく報酬をよこせ!そうだな………何が良いかな………」



 マモンがそう言い始めると、話を遮る者が出た………なんと予想していたヘカテイアではなくノーム達だ。



「此処が最下層の訳ないじゃろう?此処は単なる道が狭い洞窟の作りになっていて光が届きにくいんじゃ!そもそも最下層は13階だぞ?」



 呆気に取られる面々と、突然報酬を奪われるマモンに笑い転げるヘカテイア……



「ザマァ無いわね?マモン……『此処は最下層』じゃ無いらしいわよ?恩を売りたくても単なる暗い場所だって!ノームに感謝しなさい?出し抜けで何かをお願いするつもりだった様だけど………その必要も無くなったんだから………はははは!」



 ギリギリと悔しそうにするマモン……



 『先行させるならユイナに何か食い物を作らせろ』と言いたかったのは既に分かっている。


 何故ならさっきからユイナに近寄っては『何か食い物残ってないか?』とずっと言っているから、そんな願いをするのでは?と想像は容易だった。


 しかしそんな事を意に介さず、ソウマがボソッと呟く……



「魔の13階段とは言うけど……最下層が13階かよ……嫌な数字だな!怪談話で出てくる有名な奴じゃ無いか!」



 ソウマはそう言い放つと、ユイナとミクそしてカナミは嫌そうな顔をする。


 怪談話が大嫌いな様だ。



「階段だから怪談話か?面白いじゃないか!!さぁ階段話の結果がどんな宝に結びつくか!!儂は今から胸が高鳴っているぞ?おっと……この場合は怪奇の怪談にしておくべきか?はっはっはっはっは!」



 マックスヴェルがそう言うと、徐にマジックバッグから松明を取り出し火を付けて階下に放り込む。



「どうだ?こうすれば『明るい』だろう?何故こんな簡単な事をお前達はしない?」



 仰ることは御もっともだった…………



 少し進んでは落ちている松明をさらに階段の奥へ放り投げ、後続は自前で松明を掲げて足元や周りを照らす。



 基本的にダンジョンには主に灯りや光源があるが、何かあった時の為に冒険者は火起こしセットや松明を欠かさずに持っている。



 今は松明にロープを括り付けているので、放り投げた先で持って行かれなければ無くなることもない。


 しかし現状は、まだまだ下への階段が続くので『誰かに持っていかれる』可能性などはまず無い。



 そもそも、このダンジョンでは下層から上がってくる冒険者は居ないのだ。



「意外と長い階段だね……でもノームの言う通り階段がどんどん狭くなっているよ……なぁノームさんよ、この先は『相当狭い』のかい?」



「狭いも何も……儂等はゴーレムを送り込んでるんだ。ソイツらが通るんだからそれ位の道幅はあるぞ?じゃが説明はできん。儂等のサイズを見れば分かるじゃろう?そもそも此処は儂等が道を掘った訳では無いからのぉ………」



 僕は改めて、その通路には人間の大人6人が並べるかと聞く。


 するとノームは並べて3名だと答えた。



 言った事が本当だとすれば、タンクが並べて立てるのは間違いなく2名が良いところだ。


 臨戦態勢時に大型の盾を構えた場合、運が悪ければ前衛は1人になる可能性もある。



 ノームのゴーレムは控えめに言っても大きく無い。


 彼等の持つ、物の大きさに関わる感覚がそのゴーレムを基準としたならば、大元から狂う可能性も十分にある。



 エクシアも僕と同様に考えていた様で、情報をアテにはしていない様だ。



「結局は自分の目で見てみるしか無いって事か……。アンタ達の言う通り、その身長を見れば仕方ないけどね」



「エクシアさん。それはそうと、僕はノーム達に別件が聞きたいです」



 僕はエクシアの会話が終わるまで、話の腰を折らない様に待っていた事がある。



「先程このダンジョンの最下層は『13階』と言いましたけど……。それは随分前から最下層はそこって事ですか?それとも、ここ最近階層が増えたって事でしょうか?」



「13層になったのはごく最近じゃ。土精霊様が穢れの魔物の封印に失敗した……と言うより封印が崩壊したんじゃ。そのせいで中の魔物が出てしまってなぁ。儂等も中にいた魔物の一部に一緒に喰われた……と言う事じゃ」



 僕は穢れの魔物の封印が崩壊した理由を聞く……


 当然それは人間が関わっていた……しかしその時期に撤退をしたウルフハウンド達では無く『最下層に着いた人間』が居たという。



「ウルフ!!どういう事だい……実はアンタ何か隠してるんじゃ無いか?」



「待てよエクシア!!もうお前には隠し事なんてするかってんだ。今までの馬鹿な行いで、碌なことにならないのは十分承知しているんだから……。だから再度言うが、俺は本当に何も知らない」



 ウルフハウンドがそう言うと、ソーラー侯爵が助け舟を出す。


 それはウルフのためでは無く、『貴族として自分だったらそうする可能性がある』との話だった。



「知ってるなら……多分貴族のザムド伯爵か、ウィンディア伯爵だろう。大方2人が雇った別働隊じゃ無いか?攻略の為に手広く冒険者を雇っていてもおかしくは無い。それにこの有様なら帰って来てない冒険者だって居るだろうしな……」



 そう言ってソーラー侯爵は血塗れのハンカチを見せる。


 もし冒険者が下層に逃げ込んだならば、転送陣以外は間違いなく地上へは帰れない敵の数だったと言いたいのだ。



「確かにそうだな。ソーラーの言う事は間違ってない。生きていて逃げ込んだ先が下層だとすればどうだ?逃げ続けた結果、偶然階段が見つかり続けて、最下層に着いたことも考えられなくは無いだろう?」



 もし偶然でそうなったのでなあれば、その冒険者は運を使い切ってるのでは?と思った……



 それに、そもそもその冒険者は最下層で一体何をやらかしたのか考えたが、僕には前に似通った状況がある。


 水精霊の洞窟の最下層に降り立った時、水の上級精霊は酷く慌てていた。



 だとすれば此処も同じだろう……入るべき場所では無いのに入った。


 しかし討伐するだけの戦力がなかったと推測できる。



 そして精霊達が喰われる状況ならば、間違いなくその冒険者はそこで生涯を終えている……


 何をしたかの確認は今更したくても出来ない……と言うのが答えだ。



「まぁそれも含めて全部解決しないと人間は終わりを迎える。その状況になんら変わりはないって事だ。はぁ……道が狭いかどうかなんか些細な問題だったね……四の五の言ってても埒は開かない。さっさと降りようか……」



 そう話しながら注意深く階段を降りると下層階に辿り着いた。



「エクシアようやく10階層に着いたぞ……。しかし道はノーム達の言う通りかなり狭く、天井まで続く岩壁だ。所謂洞窟フロアなのかもしれんな……岩の感じからして、少し進むと様子を変えて鍾乳洞にもなりそうだがな。そして言いにくいが……此処はケイブの巣窟だ……」



「なんだって!?ケイブ共の?……って事はアイツらは此処を通って9階層に来たって事かい?エルオリアスアンタだけだと危険だ。ロズ……アンタが護衛しながら進みな!」



「おうよ!姉さん。エルオリアスの旦那、戦闘は俺に任せときな!何があっても守り抜いてみせるぜ」



 エルオリアスを先頭にロズ、ソウマそしてベンと続き19階層へ侵入する。



 だが侵入するにも問題があり、貴族の面々は非常に邪魔だった。



 武器もまともに扱えないのだから、纏めてしまえばそこが隊列の弱点になる。


 エクシアは数人の冒険者の間に貴族を混ぜて、荷物で体を守る様に指示を出す。



 貴族達は、珍しく文句も言わずにそれに従う。


 9階層で遭遇し、実際に目で見た同族であるケイブの異常な容姿と、その奇声の起こす恐怖が抜けないからだろう。

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