第727話「地下10層の元エルフ」


「そうですね……あのリッチです。アレが居るこの階層からはすぐに出るべきです。誰かに被害が出る前に………」



「何があったんだい………。その様子だと普通のリッチでは無いって事だろう?リッチに成るには、前提として魔導師か魔導士になる必要がある。その多くは欲望に負けやすい人族だ。だがアンタ達がそこまで頑なな態度を示すってことは……」



「想像の通り『エルフ族のリッチ』で間違いないです。魔力の総量に特殊な法衣。持つ杖もエルフ族特有の武器でした………。低レベルのリッチであれば止めません。ですがアレは別です」



「エルデリア……アレについての原因は太陽のエルフ族に関わるものだ……私が話そう……」



 そう言ってエルフレアが会話に加わると、思い出すのも嫌そうな表情をしつつ話し始めた……



 ◆◇



 太陽のエルフ族には、エルカーヤと呼ばれるエルフの子供が王都に居た。


 子供が産まれにくいエルフ族としたら、どんなに出来が悪い子供でも種族を存続していく担い手として喜ばれた……



 しかしエルカーヤと言う子は、他の子供の様に喜ばれるどころか逆に忌み嫌われた。



 原因は強い光の力を持っていたからで、それは元老院のエルフ達が権力保持のため欲しがっていたものだった。



 元老院のエルフ達は情報操作を行い、エルカーヤの力はいずれエルフの王都に禍を齎すと嘯いた。


 その結果エルカーヤは同族から迫害を受け、最終的には元老院から忌み子の烙印を押され、両親共々エルフの都から追い出されたと言う。



 当然忌み子の情報は、各エルフ族の知るところとなる。


 各エルフ族は、太陽のエルフ元老院が出した情報のためそれを信じた結果、その皺寄せはエルカーヤ家族に及ぶ事になる。



 エルカーヤ親子は月のエルフの領土へも、大地のエルフの領土へも行くことが叶わなくなったからだ。


 同族へ身を寄せることのできない暮らしは、どれだけ過酷なものだっただろうか……



 彼女の残した日記によると、エルカーヤはエルフ族を追い立てられた原因は自分にあると産まれた事を後悔していたと言う。


 日記を書いた当時エルカーヤは、どんな長旅になろうとも命が尽きるその時まで、自分の力を世界に生きる生き物ために使おうと考えていたらしい。



 その結果、光の力を用いて様々なところで活躍をする様になった。


 『光のエルフ・エルカーヤ』の名前は、人族の王都や帝都にまで届き各王族の手厚い保護を受けるまでとなる。



 しかしエルカーヤは、魔物に苦しむ人族や同じような迫害を受けているハーフエルフを救う為に奔走し、定住はしなかった。



 光のエルフと呼ばれる所以は2つで、彼女が使う魔法力が由来の1つ目で、2つ目は彼女自身が太陽のエルフとの関連を隠したかった為に、人族が決めた名前に乗っかった事だった。



 その理由には当然、苦い思い出の『忌み子』が関与しているのは言うまでも無い。



 人族の史実に詳しいソーラー侯爵でさえも、エルカーヤの名を知っている程に有名だと言う。



 活躍しているエルカーヤ親子の存在を知った元老院のエルフ達は、彼女達を始末するために太陽のエルフ族の刺客を放った。


 その理由は、人族の都で活躍していることが呼び水となり、自分達の嘘が露見すれば今の元老院での地位を失うからだ。



 エルカーヤの両親は、娘と共に冒険者として長い旅をしていた……娘の幸せを願い苦しい時も共に歩む事を決めたのだ。


 しかしその両親も、元老院が放った刺客の凶刃に倒れこの世を去ることになった……



 その時初めてエルカーヤは、忌み子の事から全て『元老院の謀事』と言う事に気がついた。


 暗部など派遣される理由が、今のエルカーヤ親子には無いからだ。



 エルフ族との関わりを絶たれ、忌み子の烙印を押された彼女は、どのエルフ族の仲間にも『エルフとは認めて貰えない』のだから……


 その上、太陽のエルフ族の首都に入る手段さえも、エルカーヤ家族には無かった。



 それなのに、暗殺部隊の派遣は説明がつかない……


 たとえ有名になった事が原因だとしても、もうお互いが袂を分けてそれぞれの信念のもとに行動をしている。



 エルカーヤは故郷に帰るのを諦め、新しい大地に根を下ろしたのだ。


 そうなった以上、ものの見方は大きく変わる。



 エルフの元老院が関わるべき事では無いと言うことも、その頃の彼女は容易に想像ができた。



 その上、エルカーヤを庇った母親と父親は忌み子の齎す凶報には何の関係もない。


 ましてや暗部に殺される理由さえ両親には有り得ないのだ。



 この一件を境に、エルカーヤは太陽のエルフ族への怨みから、光の力を逆転させ闇と死の魔法を扱える様になった。


 穢れた種族に転化した訳ではなく、太陽のエルフのままでそれを可能とした。



 彼女は、両親を殺した暗部を即座にアンデッドに創り変え、エルフの里に送り返した。


 元老院への怨みと呪い言葉を伴い送った結果、エルフ族の都に住む同胞666人が永続する呪いにかかり、仲間を襲い彷徨い続ける屍になった。



 それは元老院にとって頭の痛い事だった。


 彼等の手で、エルフ族にとって最大の敵を作った事に他ならないからだ。


 その上、元から数が少ない太陽のエルフ族から被害者が666人も出たのだ。


 そしてその呪いは、術者本人以外解呪出来ないものだった。



 光の魔法が効かない闇魔法の使い手を元老院の手で作り出してしまった……そんな事は口が裂けても言えなかった。



 元老院のエルフ達が出鱈目で作った言葉『忌み子』が本当になってしまったことで、都は大混乱になった。


 太陽のエルフの都では緊急会議で連日連夜寝ずの会議がされた。



 元老院が送る兵全ては、例外無くアンデッドになって帰ってくるからだ。


 呪いに強い耐性を持つ太陽のエルフ族が、簡単にアンデッドになってしまう程エルカーヤの怒りは凄まじいものになっていた。



 しかし事実は、その後すぐに明らかになる。


 元老院が作り上げた『嘘の情報』と分かったその理由は、魔法石と秘薬の横領から身辺調査が行われた際に全てが発覚した。


 呪いの解除に秘薬を原料とした新薬を生産する話になったのだが、その秘薬は既にゼロだったからだ。



 寿命を伸ばす為に元老院が独占し、王族でも無いのに勝手に使用したのだ。



 逮捕劇の結果、元老院でエルカーヤ追放に関わった者全てが処罰された。



 供述で明らかになった事は『エルカーヤが大きな光の魔力を内包していた為、成人した時に元老院の誰よりも力をつけるのを恐れた為の犯行』だと都の全員が知る事になった。


 光のエルフは総出で彼女の行方を探し、謝罪の意を示したが既に遅かった。



 その時既に彼女の心はエルフ族への憎しみに満ちて、呪いと怨念でその身を包み込んでいたからだ。


 強大な魔力を持ち、光と闇の相反する魔法を自由に使いこなし、そして更に死の魔法形態までも使う『リッチ』の誕生である。



 彼女は謝罪の印として差し出された『元老院のエルフ』を全員を自分と同じリッチへ転化させ、永遠の渇きと苦痛を与えたと言う。


 渇きは『生への未練』であり、苦痛は『死』に対するものだ。



 まさに彼等が『強大な力』得た瞬間ではあるが、同時にエルカーヤの呪縛によって『永遠に自由の無い無限の時』を過ごす事になった瞬間でもある。


 ◆◇


 「それがこのダンジョンにいる、エルフ族の元老院が陥れた者です……名前は『デスクイーン・エルカーヤ』エルフ族全てを怨み、我々エルフ族の滅亡を願う者です……」



 かなり暗く重い話だった……だが問題がある……


 何故その彼女がこのダンジョンの10階層を根城にしているかだ。


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