第719話「8階層の謎と残された道」


 当然僕も同じだ……こんな事ならマモンとヘカテイアにガーゴイル討伐をお願いしたほうが早かった筈だ。



「俺はヤラねぇぞ?そんな目で見ても……。ヘカテイアお前がやってやれよ!」


「嫌よ!面倒だもの……」



 まるで思考を読んだかのようにマモンは話し始める……



「そうですよね……ガーゴイルの相手は面倒ですもんね………」



「ああ!『そっち』か。今ちらっと見たから俺がゴーレムを空間移動させろってことかと思ったぜ!」


「てっきり私も『そっち』かと思ったわ……」



 どうやら思考を読んだわけではないらしい。



「じゃあ………お願いを……」



「「面倒だ(よ)」」



 絶否定するなら、わざわざ言い直さなくても良いじゃないか!と思ってしまう。


 ゴーレムは『ズシン……ズシン』とかなり遅いペースで進んでいく。



「こんな時はあのグローブの有り難みが分かるなぁ……もぐもぐ……って言うかゼフィランサスが居たら、ガーゴイルなんか簡単にケチらせたんだろうけどなぁ……ユイナおかわり!!」



 エクシアはボヤきながら、ユイナが焼いているフォレスト・ウルフの串焼きを頬張っている。



 生きている以上食事は必要だ……しかし食事休憩についてエクシアは当初あまり乗り気ではなかった。


 しかし、この先どのタイミングで食事が出来るか分からない以上、しっかりと補給をするべきだ……とミクとユイナの提案があった為に従ったまでだ。



 因みにユイナの作る物に期待していた約2名は、ガーゴイル討伐を断った事で『お腹が空くわけがない』という無茶苦茶な理由付けから、一番最後に渡すように言ってある。



 2人は急いでガーゴイルを討伐に行こうとしたが既に遅かった。


 一番最初の串焼きが焼き始める頃には、既にゴーレムが部屋に到着して戦闘を始めていた。



 ガックリしながらガックリしながら部屋から帰ってきた2人は、大きな肉が無くならないか焼き場にかぶりつきながら見続けていた。



「さぁ腹も膨れたから行くか!なかなか壮絶な戦いだったみたいだね……ガーゴイルもバラバラだしゴーレムもかなり損傷してるね……」



 エクシアの言う通りかなりの激闘だったようで、あちこちが破損して既に元の原型を留めているゴーレムはひとつもない。


 しかし石と石が勢い良くぶつかり合うのだから、壊れて当然だ。



 僕はノームにお願いして、細部が壊れているゴーレムからコアの魔石を取り外してもらう。


 ノームは体長の何倍もある石像を最も簡単に登ると、4個のコアを持ってきてくれた。



 歩くのは遅いが、上に登るのは得意なようだ。



「あの戦闘でも壊れないのは凄いのぉ……それにしてもゴーレム核とは珍しいなぁ!これは既に人族では失伝したんじゃ無いのか?」



「ノームの皆さんはこれを知ってるんですか?」



「知ってるの何も人族の錬金術師に教えたのは、このワシじゃぞ?危険な洞窟で採掘作業をしたいと言うから教えたんだがなぁ……後世に伝わってないのは悲しいのぉ……とは言ってもワシの教えた工程とは、このコアの製法はかなり様子が違うがのぉ?がはははは……」



 まさかゴーレム発案者が目の前にいるとは思わなかった……


 ドワーフだったら鉱石加工師なので何となくそんな気もするが、小さな体のノームが考案したとは思いもしなかった。



「元々は土で作ったクレイ・ゴーレムを見た、人間の魔導士が弟子入りしてなぁ。クレイゴーレムに農作業や土地の管理をさせておったのだがな……因みになぁこのゴーレムは的確に仕事をこなして、土壌改善も自分で出来る優れもんなんじゃぞ?」



「ゴーレムには適材適所があるって事ですか?」



「そりゃそうじゃ!当たり前じゃろう?なんのために造るか考えたらそんな事は分かるじゃろうに……。まさか戦闘だけに使うとか思っていたのか?」



 ノームは多種族との差を埋めるためにゴーレムを多用していたとの事だ。


 しかしその用途の殆どは生活補助であった。



 ウッドゴーレムは森の管理で、定期植樹をしてまわり破損したらそのまま木々の苗床になるらしい。


 クレイゴーレムは畑の管理で、魔物の遺骸を肥料に変えて自分で交換作業をする優れ物。


 ストーンゴーレムは鉱物資源管理、パワータイプで危険な作業もなんのその……落盤にあっても石なので新しい資源になると言う。


 サンドゴーレムは池や沼の水質管理が仕事で、現代の水質管理に近い働きをする……


 アクアゴーレムは、森や畑に必要な水の散布に一役買っていた。



 聞けば聞くほど、僕の街に取り入れたくなる要素ばかりだ。



 ちなみにこの話は他の者には聴かせられないので、途中から周囲を気にしながら話していた。



 悪辣貴族の目と耳は、馬鹿にできないほど貪欲に働くからだ。


 あまりノームとばかり話していると、逆に怪しまれそうなので僕はゴーレム核をしまって、そそくさとマックスヴェル公爵の元に行く。



「マックスヴェル侯爵様。今回は残念ですが宝箱は無いみたいですね。全部ドロップアイテムだけでしたし……それも石ですね……魔力が篭っていますけど……まぁダンジョンなのでこんな事もありますよ!気にせずいきましょう」



 少し残念な結果だったと思いそう言うと、マックスヴェルは『何を言うか!この魔力石が幾らすると思っておるのだ?市場価値の勉強についてヒロ男爵は絶対にするべきだぞ!?私の街に来い!手取り足取り教えてやる!なんなら娘もくれてやる!』と怒られてしまった。



 途中から嫁話になったのでシャインの機嫌が頗る悪くなったが、ゼフィランサスの話が仲間の悪辣貴族から持ち上がりそこからは有耶無耶になった。



 ガーゴイルのドロップアイテムについてエクシアに聞いてみると、ガーゴイルの残骸は豊富な魔力が残っていて魔導士ギルドでは高値で売買されているそうだ。



 それも通常ガーゴイルは居ても2匹で、それも主には番でいるらしい。


 だからこの様に纏まった数は手に入らないと言う。



 だからこそマックスヴェルは配下を総動員させ、魔力のこもった石を一つ残らず回収させていた。



「うむ!!今回の遠征は既にかなりの黒字で間違いはない。このガーゴイルの残骸は王都ではかなり高いからな……さぁ!エクシアにヒロ男爵よ!!今度はどこに行くんだ?」



「あ………そうかい?……そりゃよかった………エルオリアスそう言えばここから先は未確認って話だよね?」



 エクシアがたじろぐ程、マックスヴェルは金の亡者だった。


 僕達はノームの案内を元に、階層を降りるべく階段へ向かう……しかし僕は違和感を感じた……



「ちょっと待って貰っていいですか?降りる前に確認したい事が………」



「なんだい?急に……」



「ピットフィーンドがいた階層主の部屋が無くなっているんですよ!!………と言うか階層が丸ごと造り替えられたと言うべきですね……。僕はピットフィーンドがいた階層で宝箱を3箱見つけて帰ったんです。ですが……その階層の面影さえ全くないんですよ」



 エルデリアの大怪我で、以前来た時の階層の様子をすっかり忘れていた。


 ガーゴイルが敵としている時点で気がつくべきだった……



 ダンジョンが造り替えられる事は『トレンチのダンジョン』で既に知っている。


 だとすれば、ダンジョンがこの階層を『造り替えた』と言う事だ。



「って事は何かい……ここの階層の階層主を消した理由があるって事なのかい?一体何のためさ?アンタが言う階層主が居たら間違いなく厳しい戦いになるだろう……ってか『そいつが居なくなったから無くした』と考える事は出来ないのかい?」



「勿論、ピットフィーンドという階層主の問題があるから『部屋が必要なくなった……』とも考えられます。それに精霊の異変でまるっきり変わって来ているとも考えようがあります……」



「でも何にせよアタイ達は降りるしか無いんだ。分かってんだろう?偶然だろうが、罠だろうが……アタイ達は『選択肢が無い』んだよ。注意をしながら降りていくしか無いだろう?」



 ピットフィーンドが居なくなったので『必要なくなった』のか、それとも別目的で造り替えたのか……


 何にせよ、その部屋が無くなった以上後続組が『階層主』と遭遇する危険は無くなった。


 そう喜んで良いのかどうかは今僕達では分からない。


 しかしエクシアの言う通り『降りる』しか僕達には道が残っていない……

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