第718話「第8階層の異変」



「それでどうするんじゃ?儂等ノームは案内くらいしかできんぞ?見ての通りこの身長だ。戦闘なんぞできないし、そもそもしたく無いしな?どうせ潰されるのがオチだ……」



「いやいや。行きますよ?そもそもゴーレムを扱えるのは僕だけと説明してただけなんです……戦闘の事は見ればわかります」



 僕がそう言うと不思議そうな顔をするノームとノーミー達。


 抱えているノームは長い髭をちょいちょいっと触りながら……



「人間は難儀な生き物じゃのぉ?サンドゴーレムやストーンゴーレムなんぞ、土精霊の眷属なら子供でも使えるぞ?」



 そう言ってノームは近くの壁へテクテク歩き、むんずと石壁を掴むとあっという間にゴーレムを作り出す。


 人間の作る精巧な形ではなく『人型と認識できる』程度の作りだ。



 作り終える頃にはその場所の人工的な石壁は全部なくなってしまい、岩肌剥き出しの他の場所と大差変わらなくなる……



「まさか……あの岩壁はあなた達の仕業なんですか?」



「なんじゃと!?今更何を言っておる?土精霊様をお救いするために、暇を見つけてはゴーレム作って放り込んでおるんじゃぞ?他の種族が何もせんから儂等がやってるんじゃ……まぁそんな儂等も、魔物に捕食されて吸収されかけてしもうたがな?」



「普通の岩より、この人族が加工した石畳の方がゴーレムを作りやすいんですけど……脆くてすぐ壊れちゃうんですよ……」



 ノームとノーミーが次々に石畳を引っぺがしては1メートル級のゴーレムを仕上げて、下層階に下ろしていく……


 どうやらこのダンジョンを知り尽くしているらしく、自動で最下層まで向かわせている様だ。



 ウィンディアがその様を見て発した言葉は、思わぬ方向に事態を動かした……


「この状態をザムドが見たら大喜びだな……彼は土精霊の信者だからな。コレだけのノームとノーミーを見たら間違い無く崇めるだろうなぁ………」



 ノームとノーミー達は、僕達の手から飛び降りると一斉に走り出す……行き先はウィンディアの足元だ。



「「「「その人間を紹介して!!!」」」」



 ノームとノーミーが一斉にウィンディアに駆け寄りよじ登る………そして懐き出す……



「い……今は無理なのでダンジョン踏破が終わってからなら………」



 ズリ落ちたズボンを、ウィンディアは必死に履き直しながらそう言う。



「おい!露出狂伯爵!幾ら待っても進まないから信仰心の話は後にしてくれないかい?さっき言ってたゴーレムは何処なんだいノーム!!案内しないなら紹介の話は無しだ」



「誰が露出狂伯爵だ!!私とザムドは精霊を心から信仰しているんだ。特にザムドが土精霊をな!だからノームやノーミーを信仰するって話をしただけである!」


 若干恥ずかしさを誤魔化す為に強く言っているようにも思えるが………


 しかしその言葉を聞いたノームとノーミーは、またもやズボンを掴みよじ登る……



「お前達……この茶番を辞めないなら……分かってんだろうね?どうなるか…………」



 エクシアの鬼の形相でノームとノーミー全員が持ち場である、冒険者の懐に戻る……



「今すぐ案内するぞ?なぁ?皆の衆」



「石像なら階段降りて右通路の先だ!!ほら行こう!そら行こう!!ネェちゃん達」



 呆れ果てるユイナは仕方なく髭の長いノームを小脇に抱えて歩き出す。


「じゃあ行きましょう!これ以上ちゃちゃが入ると、もっと遅くなるわ。少しでも急がないと……ウィンディア伯爵様、ここの件はよろしくお願いしますね?……ところで伯爵……下着は奥さんの好み?」


「く!?………ああ!任せておけ。ハラグロ男爵笑ってないでさっさと用意するぞ!!兵士のお前たちは今すぐダンジョン・ボッカに連絡して、共にキャンプ設営指示をしろ。私は本陣へ向かい人員配置場所を組み直す!!」



 ウィンディア伯爵はユイナの言葉に、顔を真っ赤にしながら転送陣で帰っていく。



 それを見届けた僕達は、ノームの案内で階段を降りて通路を進む……



 これまで気が緩んでいた事を、階層を降りた事で思い知らされるとは思いもせず……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「何だこの禍々しい空間は………」


 それがベンの第一声だった……


 言葉の通り周囲の壁や天井そして地面には統一性がない。



「この階層はこのように石壁と鍾乳洞そして朽ちた都が入り混じった階層になります……我々もこのようなダンジョンは初めて見たので、降りた瞬間戸惑いました」



「ですが少し進むと風景はガラリと変わるので……それまでの辛抱ですね……生理的に非常に気持ち悪いですが……」



 エルオリアスが説明したあと、エルフレアが周りを見て気色悪いと説明を交えて言う。



「エルオリアス……この光景はずっとは続かないって事かい?」



「エクシアその通りです。降りてから本当にわずかな距離がかなりおかしいだけで、徐々に石壁になります。そのあと岩壁や鍾乳洞の様に変わり、次に朽ちた都が現れます」



「距離にしてどのくらいなんだい?長いとそれだけこの階層はデカくなるだろう?」



「因みにそれぞれの空間の距離は長くないです。しかし岩肌部分と鍾乳洞部分には魔物が潜んでないか注意が必要で、我々も何度か襲われました。フロアの全体像は、ヒロ殿に返却した魔法の地図を見た方が早いですね」


 奇妙な通路を進む間、先行したエルオリアス達に階層の説明をしてもらう……


 しばらく進むとエルオリアスの言う通り石壁が見えてきて、その先も視界が届く範囲はずっと石壁が続いていた。


 魔物は既にエルオリアスたちが駆除していたので、僕たちは目的地まで歩くだけだった。



 折角なのでこの間に僕は、ノームから情報を集める事にする……



「そう言えばさっき言ってた、土精霊を救う為のにゴーレムを送り込んでいるって言ってましたが……あなた方は居場所を知ってるって事ですか?」


「知ってるも何もそこで喰われたんじゃよ……儂等はゴーレムに乗って戦いに行ったんじゃ。44人いた我等氏族は全滅じゃ……まぁ13のノームとノーミーはお主のおかげで助かったがな……」



 ノーミーを追いかけ回していたとは思えないほど悲しそうな顔をするノーム……


 どうやら僕は勘違いをしていたようだ。


 このノームは、周りの仲間が喰われていなくなった悲しさを少しでも忘れさせる為に、ピエロの役を買って出たようだ。



 疎まれ怒られる役なのに……と思ってしまう。



「変じゃのぉ……何故かお主と話してるとついつい話してもうた………さぁ着いたぞ!!石像群の場所じゃ……」



 その説明の通りそこには大きな石像が4体鎮座していた。


 しかし僕は不思議になった事があるので質問する……『何故こんな立派な石像があるのにノームはゴーレムとして使わなかったのか?』と言う事だ。



「はっはっは……簡単じゃよ!これに鎮座するのは『大地の神4神像』じゃ」



「大地の神?」



「なんじゃ?知らんのか!若い者はこれだから……いいか?世界を司る4兄弟はそれぞれが住む大地を作った。それが『精霊の園』『天界』『地獄』そして『人間の住む大地』じゃ!精霊になりたい儂等は、大地を作った神々を戦闘になんぞ使えないだろう?」



 話を聞くと納得だ……しかしお互いの棲み分けの為に大地を作るなんてとんでもない神様だ。



「でも、そうすると僕が使っちゃ不味いんじゃ?」



「じゃが、使わなかった事が災いしたかは分からんが……我々は喰われたんじゃぞ?そうならない為にも、お主は出来ることをするべきではないかのぉ?ワシみたいになったら嫌だろう?」



 僕はノームに手伝ってもらい石像にゴーレムコアを埋め込む。


 石像を鑑定すると名称はゴーレムに変わっている……成功だ。


 全長は4メートル通路ギリギリの高さだ。



「じゃあ準備は良いかい?さっさと回収していくよ!ヒログローブでちゃっちゃとしまっちまいな……」



「エクシアさんそれは無理ですね。グローブはゼフィランサスに貸し出してるので……」



 エクシアは僕の腕を見てようやく気がつく……



「どうすんだい?歩かせるのか?」


「そうなりますね……。一応僕達が退いたら、ガーゴイルがいる部屋に向かい戦闘する様には指示をしてあります」



「ならさっさと退くべきだろう?さぁ道を開けな!!お前ら入り口まで走れ!!邪魔だよ」


 貴族達は、まさか来た道を走ることになるとは思わなかっただろう。

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