第714話「チャック生還」
水魔法のウォータープリズンで満たした空間に取り残された冒険者達を、僕の指示で水っ子が部屋の外に投げ出した。
水流が起きたそのせいでダンジョンの小石や砂そしてゴミが舞い上がる。
途端に大部屋の中に充満している魔法の水の透明度が悪くなった。
鮮明とはいえないが、なんとか分かるくらいの透明度だ。
しかしチャックは『反対側には敵が居ない』とジェスチャーをして見せる。
「なぁヒロ……もう良いんじゃ無いかい?流石に魔物は死んだだろうさ……」
僕はウォーター・プリズンを解除すると、魔法の水はすぐに消え去った。
何処に消えるのか謎だが、今はそれを気になどしていられない。
それに調べた限り、僕のMPは今の攻撃で半分まで減ってしまった。
なかなか巨大な部屋だったが、今思えばMPが足りて良かった……
「いてぇの何の………いきなり壁に激突して意識がぶっ飛んだっすよ……ヒロの旦那!救いようってもんがあるでしょうに!………何スカこれ?」
「なにって……詫びの初級ポーションだよ。完全回復した方がいい。多分何処かが骨折してる筈だよ。継続ダメージ判定が見えるから……」
「何すか!?継続判定ダメージ!?」
「継続!ダメージ!!判定!!いいから飲んで。毎秒30HPダメージ受けてるからこのままだと数分で死ぬよ!」
僕は鑑定を誤魔化す様にモノクロを取り出して見せる。
自分で自身の確認をしろ……と言う意味だ。
「マジかよ!身体中痛いから変だとは思ったけど……あ……なんか……内臓に激痛が……」
チャックがそう言うと、モアが駆け寄りポーションに蓋を開ける。
「こういう時はこうするのよ!!」
そう言ってチャックの鼻を『ぎゅー』とつまむとチャックは『いてぇ』と大口を開ける。
「口がこう開いたら、突っ込んで流し込む!はい終了!!」
『ゴバ……ガボガボ………ベホ……ブハ……ゲホゲホ………』
「やり方ってもんがあるでしょうが!アンタ達はいつも出鱈目だ!あ………あれ?痛くねぇ!!おおーーー!!ポーションすげぇ!痛くねぇ!」
「だからさっさと飲めってヒロが言ったんでしょうが!?本当に出会った時から手を焼くわね?チャックって……人が良いけど本当にバカよね?」
モアはそう言って空瓶をチャックに放り投げる。
「チャック!大丈夫であったか!?我が先行させたが為に飛んだ災難をかけたな!よし、詫びとして我が管理する街に、お前の住む家を提供してやろう!それでチャラにしてくれるか?」
「マックスヴェル侯爵の旦那……それって結局抱えたいってことっすよね?ダンジョン・シーフとして……」
「ガハハハハハ!!バレたか!まぁ来るにせよ来ないにせよ、帰ったら必ず家は用意させる。お前達の拠点にでも使え。食い扶持に困ったら我の元でダンジョン・シーフとして働けばいい。ガハハハハハ!!」
「全く……とんでもない人っすね……マックスヴェルの旦那は………おっと!すいやせん。根っからのシーフなんで敬語や敬称が苦手なんですよ!」
「構わん!構わん!儂は金にしか興味がないから敬語なんぞどうでも良いわ!」
「その金にしか興味がないマックスヴェル侯爵さん、大喜びする物がたくさん部屋に散らばってるよ!ヒロの範囲魔法のおかげで『バラバラ』に散ってるけどね?大好きなんだろう『宝箱』数えてきてくれるかい?」
エクシアが部屋の中を指さすと、そこには『グレート・ホーン』1個体につき1個の箱が鎮座していた。
「こ!こんな事が!?………何箱あるんだ!?」
「ヒロに感謝するんだね!ランクAの魔物を範囲狩りなんかそうそうできないよ!こっちが死ぬのがオチだからね……」
僕は……貴族全員の嫌な視線を浴びる。
さっさと取りに行けばいいのに……と思っていると、ソーラー公爵が耳うちをしてくる。
『お前の討伐財宝だ……最低でも鑑定許可を出さねば、このままでは新たな火種になるぞ……』
ソーラー侯爵の気の利いた入れ知恵には感謝しかない……
「箱は数を数えてから、好きに鑑定して解錠してください。財宝は箱単位では足らないかもなので分配を……マックスヴェル侯爵はその点はお詳しいですよね?『ちゃんとやってくれる』ならお任せします」
そう言った瞬間マックスヴェルは全貴族に号令する。
「討伐者の許可が出た。今から我が財宝管理を行う!!全員鑑定スクロールを準備………………おい……ヒロ男爵……我はまだ号令中だぞ?何だこれは?モノクル?……か?」
「鑑定スクロールは要りません。これで確認した方が早いから!『時間がない』と言ったでしょう?罠を外す時は僕に言ってください。あ!後危険な罠には絶対触らない様に!用意するのは祝福持ちを各箱の前に配置してください。以上です……」
「むむむ………儂が言うより的確じゃないか………と言う事だ!……祝福持ちは箱の前に待機!では向かえ!!」
冒険者はワラワラと箱に群がる……
箱のチャックを僕がやった方が早いが、金鉱石の場所もあとで問題になるだろうから……と、先にそっちの確認をする為にモノクルをマックスヴェルに渡したのだ。
宝箱のおかげで非常にスムーズに部屋内部の探索は進む。
部屋はエクシアの言った通り、かなり不安定だった。
ボスの出る階層部屋になる途中経過を見れたのは、何より良い情報だった。
だが問題は、完成までの間は魔物がどの周期で湧くかも分からないのだ。
階層主のリポップは大凡半日くらいとも言われているが、その反面ダンジョンによって差があるとも言われている。
ギルドでは常に討伐情報を買い取っている。
ガセネタを防ぐ為に、宝箱の持ち帰りが条件だ。
ちなみに、僅かな情報料の為に重い箱を持って帰る奴は少ない。
なので冒険者の善意から、討伐情報は『寄付』される。
「エクシアさん。確かにこの部屋は危険ですね。魔法陣が剥き出しの時点で魔物がいつ湧き出してもおかしくないし……。この部屋にいた魔物はかなりランクが高かったんですよね?」
「そうだね!アイツはグレート・ホーンという魔物で、通常は銀級6人で1匹を袋叩きにするのが攻略方だ。でもアンタは『窒息死』させたから、あの方法が一番安全で纏めて倒せる方法だね……」
僕は部屋という環境と、そこから出て来ない階層主と言う特性が上手く噛み合った結果だと説明する。
それを聞いたエクシアは、『外ではこうは行かないか……ここでこのクラスて事は……かなり心配な要素だよ……』と言う。
「それはそうと、ヘカテイアが言ってた金の鉱脈が見つかりました。在処はノーム達が教えてくれましたが、ここの壁に金が埋まっているのが見えます。確かに情報通り金がありますね……」
「本当かい?どれどれ……。うぉマジか……!?かなりデケェな!!あたしゃ……もっとこう……小さい粒が埋まっているのかと思ったけど、ゴブリンの頭位はあるよ?これは……」
「ですね!掘り出したらひと財産でしょうね……この階層は所々が岩肌なので、同じ様な場所が他にも有るかもしれません。問題は前ときた階層と既に大きく異なっていると言う事ですね……もう待った無し!って事なんでしょう……」
フレディ爺さんと来た時は、石畳やら岩壁ももっとしっかりしていたが今は見る影もない。
先を急いでいる僕達だったが、連戦が続いたので流石に休憩も欲しい。
しかし休むには危険な部屋なので、荷物を通路に置いて少し緊張感を解く程度だ。
戦闘が終わり宝箱が出ている今は、魔物のREPOPは無いだろう……と言う何の確証も無い安心感だ。
「ヒロ男爵にエクシアちょっといいか?話しているところ悪いんだが……罠がある箱を特定したぞ?それで何か罠を外せる方法があるのか?それともチャックが全部罠外しをやるのか?」
「多分あっしでも出来ますが、ここはヒロの旦那がやった方が早いんで……」
そう言ってチャックは僕を見た……確かに早いのは間違いない。
何故ならば『悪戯ルモーラの罠壊しの妖精鍵』があるからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。